【母の日シリーズで結婚する前のスザルルのクリスマスです。全力で、少女マンガであります(平伏)】
クリスマス・イヴ。
今まで家族と、そして叔父と過ごしていたこの日。
テーブルを彩るクリスマスのごちそうに、母と妹と三人で作ったケーキと、ほんの少しだけグラスに注いでもらうシャンパン。そして親しい人たちと楽しく語らう日としてルルーシュの記憶に刻まれているこの日。それはもう決まりのようなもので、クリスチャンであるなしに関わらず、ランペルージ家ではここ数年叔父の欠席が続いている以外は、誰一人として――忙しい父でさえも――揃って過ごすのが当たり前だった。スキップを重ねて十八歳現在大学院に籍を置くルルーシュは、少し離れた場所にあるキャンパスに通うため一人でアパートを借りていた。学部生の頃から在籍する概ね日本のシステムに準じたこの大学は、春から新年度を迎えまたクリスマスといえども冬期休暇にはまだ遠い。聖夜と云うよりは賑やかに皆が集うイベントとして広く馴染んだこの日であっても講義は通常通りに行われ、終わったあとに友人たちは持ち歩いている辞書や専門書をロッカーに放り込んでうきうきと街に繰り出していく。ルルーシュは毎年それを何の感慨もなく見送りながら、家族の待つ実家に二時間電車に揺られて帰るのだった。
けれど、今年は。
「…母さん、その、今年のイヴなんだけど、」
キッチンでお手伝いの咲夜子さんと夕食の用意をしている母におずおずと切り出したルルーシュは、母の手元を見て切れ長の目を細めた。
「それ…」
「今年はシュトレンね。レイったらまたイヴのディナーには出られないって言うの。明日からヨーロッパを回るらしいわ。クリスマス前後の市には掘り出し物があるのだとか…あの子は一つところに落ち着くってことがないんだから。」
叔父のことである。レイエル・ルルーシュ・ランペルージ。母マリアンヌの実弟で、十も歳の離れたこの姉弟はいつも非常に仲がよい。母は三十も半ばを超えた叔父のことを未だに子どものように口に上らせ、ルルーシュの名前も叔父から取った。わけあって幼少時代を縁戚の家で過ごし、そのまま独立して主に好事家相手の機械時計商を営む、自身も技師である叔父がようやく居所をこの日本に定めてからは事あるごとに家に呼ぶ。それはルルーシュに会わせるためなのだということを、今はもう気づいていた。
妹のナナリーが生まれる前後、どうしても放って置かれがちだった幼いルルーシュを構ってくれたレイ叔父様。教育者として自分の子どもにも過不足なくまた優しく接してくれはするけれど、如何せん多忙で中々触れ合うことの出来なかった父よりも、よほどに懐いた人だった。ルルーシュが甘えるとしたら父や母ではなくまずこの叔父で、容姿がよく似ていたことから二人で並んでいるとまるで親子のようだと言われたものだ。それは、とても、嬉しかったのだけれど。
「また甘すぎるんだろうな。」
叔父は大の甘党で、コーヒーにも紅茶にもスプーン一杯以上の砂糖は入れないこのランペルージ家で、ルルーシュと二人三杯、あるいは角砂糖を齧りながらのエスプレッソをこっそり楽しんではにこにこしていた。ルルーシュも甘いものが大好きなのである。二人には共通点が多かった。
「日持ちさせるためですもの。でも今年は控えたって言っていたわよ。その分ブランデーが少し利きすぎているかしら。」
言いながら母は一切れ薄く切ったものを渡してくれた。口に運ぶとドライフルーツの漬け込みから自分でしたのだろう叔父の、久しぶりの手製のお菓子の味が口の中に広がる。切ない気持ちになった。
三年ほど前から、一方的に疎遠になっている叔父。
大好き、なのに。
毎年、クリスマスの朝はこれと決まったブリオッシュを焼いて持ってくるのが叔父の役目だった。料理が好きで、特に菓子の類は古今東西アレンジを変えてお手の物の叔父は、けれどこのブリオッシュとそして生地に拘ったシンプルなピザだけはレシピを変えようとしなかった。姉のマリアンヌにも内緒で、ルルーシュだけが知っている二つのレシピ。ドイツのシュトレンはブリオッシュの代わりなのだろうけど、今年は自分が作ってみようか。
そこまで考えて、ルルーシュは躊躇いがちに言いかけた台詞に再び口を開いた。
「私も、今年のイヴは約束があって…でも遅くならないうちに帰ってくるから!夜の九時、いや八時にはきっと」
「スザク君とのお約束?」
「っ!…そ、その…」
頬が熱くなるのがわかった。今、きっと真っ赤な顔をしている。
ルルーシュは俯いて両手を組んだ。恥ずかしい。研究室の友人と集まるのだとでも言えばよかった。
「いいわよ。」
「…ほ、ほんとうに?」
母の顔を見ればほんの少し寂しそうではあるけれど、にっこり笑ってルルーシュを見つめていた。
「デートなのでしょう?クリスマスならもちろん二人で過ごさなくっちゃ。」
「で、デートっ?そんなんじゃなくて…」
悪戯っぽく青い目を細めて言う母に、しどろもどろになってしまう。
デートなんかじゃなくて、スザクはただページェントが見てみたいと言った自分に、僕も見たことがなかったのだと言って、それで…
「お仕事休めるのかしら?この時期は忙しいのじゃなくて?」
「一ヶ月前から申請していたって言っていたから…」
四歳年上で今二十二歳のスザクは国際線の副操縦士をしている。この春に空の上で出会った彼とは、同窓なわけでもない社会人と学生、そして年の差を考えても不思議になるのだけれど付き合いが続いていた。電話をしたり月に一、二度二人でどこかに出かけたり。
「お母さん、それは素敵なお付き合いだと思うわよ?ふふ、ルルーシュももうそんな年なのねぇ」
「ちがっ…スザクだって気まぐれなんだ。私みたいな勉強しか出来ないつまらない子どもなんて、すぐに飽きるに決まってる。」
揶揄かう母の言葉に恥ずかしくなってしまって、思わず弱気な本音が出てしまった。だってスザクは大人で格好良くて、綺麗な女の人たちに囲まれて仕事をしている。自分なんて、パンツルックばかりでお化粧の仕方もほとんど知らなくて、面白い話もできなくて…
「ルール。そんな顔をしないの。」
どうしても卑屈になって俯いてしまう顔を、母がそっと両手で包んだ。母さんみたいになれたらいいのに。
「ルルはとってもかわいいわよ?この間選んだ黒のワンピースとワインレッドのコートを合わせたらいいわ。ちょっとだけお化粧もして。」
やさしい母の言葉に躊躇いながら頷いて、スザクのことになると自信が一欠けらもなくなってしまう自分に嫌気が差したけれど。
それでもはじめて家族以外と過ごすクリスマスにどきどきと胸が高鳴るのも本当だった。
そして当日だ。
「 スザク!」
駅前で待ち合わせたスザクは、時間通りについたはずなのにもうぺデストリアンデッキにもたれて空を見上げていた。グレーのトレンチに緑のマフラーを巻いて、駆け寄ったルルーシュに笑顔を向ける。
「すまない、遅くなって、」
「ぴったりだよ。僕が早かったんだ。」
レザーのグローブを少しずらして示された時計の針は、きっかり待ち合わせの五時を指していた。駅の時計も顔を上げれば見えるのだけど、スザクはいつも秒単位で合わせた自分の時計で動く人間だった。大雑把な性格なのに時間には細かい。ルルーシュはスザクのそんなところが好ましかったし、出会いの乗務員と乗客の外でも付き合いを持つようになったのは時計が原因だった。
「行こうか。ここからでも見えるけど、やっぱりちゃんと木の下で見ないと。今日はサンタと天使のパレードもあるらしいよ。」
メインストリートに植えられた街路樹に、百万個に近い電球が灯されてこの街のクリスマスの風物詩になっていた。ページェントは年々華やかさを増して今年は仮装行列も行われるらしい。
ルルーシュは頷いてスザクの隣に並びながらその横顔をちらりと見上げた。
「っ!」
にこりと笑った緑の目が見下ろしていた。
「かわいいね。ルルーシュは大人びているからシックな色合いがよく似合う。」
「そ、そんなこと、」
「ない、って言うのはルルーシュの悪い癖だね。僕は耳当りのいいことも言うけど今のは本当。おっと、」
先を言われて黙り込んだルルーシュの腕を、スザクがぐいと引き寄せた。急に縮まった距離にびくりと身体が竦む。
「上ばかりを見て歩いている人が多いんだよな。ルルーシュ、大丈夫?」
「平気、」
人ごみの中の一人にぶつかりそうになったのだ。ビルの三階まで届きそうな街路樹に輝くページェントを見上げて歩くから、自然みなの歩調は浮ついてしまう。人の流れを読んで前に進むスザクは、取られたままの腕に戸惑うルルーシュの様子には気づかない様子で何かを見つけて呟いた。
「…あれだな。はぐれそうだ。ルルーシュ、手を繋いでもいい?」
「手?」
「腕の方がいいかな?」
「手!…が、いい。」
「そうしよう。パレードの先頭が見えたんだ。」
俯いて中途半端に差し出されたルルーシュの手をスザクが握った。日本人にしては背が高く頭一つ分飛びぬけている彼には見えたのだろう。女の子にしては長身のルルーシュでも心持ち背伸びをするようにして見えるか見えないかのサンタクロースの行進を示して言った。
「着ぐるみと違ってああいう衣装は以外に寒いんだよ。知ってる?ルルーシュ。」
「知らない。スザクはああいったバイトをしたことがあるのか?」
「高校生の時にケーキ屋さんでね。クリスマスの時期だったから掻き入れ時で。昼からから夜までサンタクロース。」
店頭で呼び込みの担当だったから寒かったのだと笑うスザクに、ルルーシュは心配そうな顔で訊ねた。
「風邪は引かなかったのか?」
「お母さんに連れられた小さな子に言われてねぇ。『サンタのおじいさんは大きなおなかをしているんだよ』って。休憩の時にタオルを巻いたから今度は暑いくらいだった。」
「そうか。私と同じくらいのスザクか。会ってみたかったな。」
できないことはないと思った。ふとっちょのおじいさんサンタに扮してメリークリスマス!と道行く人に声を掛けるスザク。
「実は帽子はあるんだ。」
想像してくすりと笑ったルルーシュを、ほっと安心したように見下ろしていたスザクは、おもむろにポケットから赤いサンタのとんがり帽子を取り出した。
「 どうしたんだ、それ。」
「わが社独自のサービスでございます。パイロットがこれ被ってお見送りするんだよ。余っていたから失敬してきた。」
繋いだ手は離さずに片手で被ろうとするのを手伝う。少し屈んだスザクの茶色い頭にサンタの帽子。もちろんコートに合っていない。ふわりと目に入りそうになっていた前髪を払ってやろうと顔を近づけたときにぼそりと言われた。
「きっととびきりハッピーな恋人同士に見えるんじゃないかな。」
「っ!!」
慌てて手を引っ込めたルルーシュを追って、スザクの指が頬に触れた。もう一方の手は繋いだまま離せなかった。そこまで気が回らない。
「メリークリスマス、ルルーシュ。言うタイミングを逃してしまって、かっこ悪いな。」
残念そうに微笑んだ目の色を見て、もみの木の色だと思った。力強い新緑の色じゃない、落ち着いた深い緑。ルルーシュは頬を赤くしながら目を逸らして言葉を探した。
「…制服にそれじゃあミスマッチだろうな。」
「そりゃあもう。オフがもらえてよかった。」
「一月前からって言っていたよな?他に約束があったんじゃないのか?」
ルルーシュの言葉にきょとんとしたスザクの頭から、とんがり帽子を取って眺める振りをする。ずっと気になっていた。
「ルルーシュと過ごしたいなと思って。ルルーシュこそイヴの夜に無理を言ってしまったかな?」
「無理じゃない!…けど、スザクはもっと…」
自信がなかったのだ。
付き合おうとも言わずに始まった関係で、スザクは大人でルルーシュは自分がひどく世間知らずな子どもだと思っていたから自信がなかった。この人の隣に並んでいいのか。それが当たり前のような顔をして。
「ルルーシュ、」
もうほとんど繋ぐ力の入っていなかった手がすっと離れた。
「 ご、ごめんスザク!私、せっかくのこんな時にまたつまらないこと、っ」
ハッと顔を上げて空気を重くしてしまったことを詫びたルルーシュの頬を、スザクが手袋を外した手でそっと包んだ。母の手とは違う骨ばった感触。
緊張に身体が強張った。胸の音がどきどきとうるさい。
「ルルーシュ。はっきり言わなかった僕も悪かった。日本人の一般的な感覚として、クリスマスは誰と過ごす日?」
何を言われるのかと身構えていたルルーシュは、スザクの言葉に首を傾げた。
「家族とか、友だちとか、……」
「『とか』?」
「…ああいう、」
ルルーシュは口ごもりながらすぐ近くを通った若いカップルを目で示した。恥ずかしくて口に出せない。
「あれは、たぶん学生だろうな。あのあたりはもう結婚しているのかも。」
ちらりとそちらに目をやって呟いたスザクが正解と言ってルルーシュの顔を覗き込んだ。
「僕もそう思う。恋人同士が一緒に過ごす日だよ。」
「う ん、」
「僕とルルーシュは家族じゃないね。」
「…うん、」
「友だち?」
「そうだったらうれしい、」
「そういう文脈じゃないよ、ルルーシュ。僕が言ってもいいんだけど、ごめん。少し不安なのかもしれない。勘違いだったらと思うと僕もこわいんだ。」
かすかな声の揺れを感じて、ルルーシュは逸らしていた目をスザクに合わせた。そっと片手を重ねれば、冷えた手の甲の感触。
冬の外気のせいだけではないのかもしれない。もしかしたらスザクも緊張しているのだろうか。
「…こいびと、」
一呼吸置いてルルーシュは小さく呟いた。聞えていただろうか。
顔を上げると、真剣な表情がみるみる笑顔に綻んでいくのを目の当たりにしてしまった。くしゃりと破顔してスザクが言う。
「『そうだったらうれしい』。とても嬉しいよルルーシュ。」
先ほど自分の言った言葉を繰り返されて、ルルーシュはゆるりと緊張がほどけていくのを感じていた。
スザクの隣に並ぶのは、こいびとの自分。
「…恥ずかしいやつ、」
「あ、やっぱり?かっこつけだったかな。」
もうもとの調子に戻ったスザクがにこにこと言った。いつの間にか手がつながれている。きゅっと握り返せばまたぎゅっと握り返される。こういうのを『バカップル』というのだろうかと考えていたルルーシュに、あ!とスザクが小さく声を上げるのが聞えた。
「サンタもいいけど天使のパレードの方がかわいいね。ほら、見えるかな。白い服を着たちっちゃな女の子たちが踊っている、」
ルルーシュの耳にも、おそらくその天使に扮した子どもたちが鳴らす鈴の音が聞えていた。耳を澄ませば遠くにハンドベルの演奏も聞えてくる。
クリスマスだ。恋人と二人で過ごす日。
「見えないな…すごい人だ。」
えいと背伸びをしてみても、自分たちよりも前に立ち並ぶ観客に隠れてしまうほど小さな子どもたちの行進は視野に入れることが出来なかった。話をするため、端の方に寄っていたスザクとルルーシュの前にはいつの間にかたくさんの人だかりができていた。鈴の音が大きくなる。今ちょうど通過しているのだろう。
「僕には見えるんだけどな…もっと前に行けないかな、」
周りを見回すと、腕を伸ばして撮った携帯写真を見ている人や、父親に肩車をされて見入っている小さな子どもが目に入る。みな笑顔で楽しそうにしていた。
「スザク、いいよ。見えなくても十分だ。鈴の音も光のページェントもちゃんと、」
「ルルーシュ、ちょっとこっち来て。」
どこか人混みを縫って前にいけないかと思案していたスザクが、もういいと言いかけたルルーシュの手を引いた。人だかりから離れて最後列まで下がる。
「スザク?どうして後ろに、ほわぁ!?」
首を傾げていると腰に腕が回ったかと思えばそのままぐいと持ち上げられて、ルルーシュは驚きに声を上げた。
「す、スザっ!下ろせ、おろして!」
「邪魔になっていないから大丈夫だよ。見える?」
「そうじゃなくて、重いっ」
「いや、軽いよ。ルルーシュは細いし、僕は力持ちだしね。それよりほら。パレードが通り過ぎちゃう。」
不安定な状態で暴れるわけにもいかず真っ赤な顔をしておろせと訴えるルルーシュに、スザクはお構いなしだった。早く前を見てと急かしてくる。
ルルーシュは仕方なしに視線を通りの真ん中に向けた。
絶対、ものすごく目立っている。
「…みんなおそろいの衣装なんだな。」
「そう、天使がモチーフだから白なんだろうね。どうせなら羽根もつければいいのに。」
「あれが羽根じゃないか?背中よりも小さいくらいの、」
「ん?あ、本当だ。かわいいねぇ。」
「小学生くらいかな。」
「幼稚園じゃない?」
「いや、小学生だ。みんなしっかり歩いているじゃないか。」
「かわいいねぇ。」
「…子ども、好きなのか?」
「ルルーシュは嫌いなの?」
「いや、どちらかと言えば好きなほうだ。」
「写真撮ってる。あの子達のお父さんかな。」
「…シャッター切りまくりだな。あっちにも、」
「僕もたぶんああなるなぁ。」
「…そう?」
「きっと。だって絶対かわいいよ。」
「スザクの子どもなら、そうなんだろうな。」
「ルルーシュに似てくれたらうれしいなぁ…」
「…あ、」
スザクはハッと我に帰った。
そろりと抱え上げていたルルーシュを地面に下ろす。
「…。」
「その、ルルーシュ、」
気を抜いてしまった。心の中で思っていたことを口に出してしまった。
黙り込んでいるルルーシュに冷や汗が伝う。
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。」
「…じゃあどんなつもりなんだ?」
「 それは、その、ごめん…」
何か言わなければと焦って下手を打ってしまった。俯いたまま訊ねてくるルルーシュになんと言ったらよいのかわからない。
「どうして謝るんだ?私とは遊びのつもりだった?」
「まさか!…まさかそんなことはないよ。君とはずっと一緒にいたい。」
「…なら、いずれそういう…ことに、なるだろう?」
俯きながらで口ごもりはするが、そのルルーシュの態度にスザクはおやと目を細めた。
「そうならいいと、思っている。ただ少し、僕はせっかちだったね。だから、ごめんと言ったんだ。」
そっと両手を取ればこくりと頷いてルルーシュが顔を上げた。
「スザク。私は嫌じゃなかった。今言えるのはそれだけだけど、でも、いやじゃなかった。」
「うん。」
「クリスマスプレゼント、用意していないんだ。何を選んだらいいのかわからなかったから。残るものはこわくて選べなかった。」
「実は僕も用意していないんだ。これは一種の願掛けなんだけど。」
「願掛け?」
「来年もね、一緒に過ごせますようにって。今年の分もプレゼントを渡せますようにって。…中学生みたいだな。」
そう言ってスザクは苦笑いをした。つられてルルーシュが浮かべた笑みはこの日一番明るかったかもしれない。
遠く感じていたスザクが急に近くなったように感じたのだ。
「じゃあ来年な。来年も、一緒にいられるといいと思う。」
「頑張るよ。ルルーシュにもっと好きになってもらえるようにね。」
「…負けないぞ。」
小さな小さな声で言われた言葉に、スザクはそっと目を細めた。
「――…というのがはじめてルルーシュと過ごしたクリスマスだね。」
「さいですか…。」
枢木家の、残念なことに母親に似なかった長男はがくりと肩を落とした。次いでぶるりと身を震わせる。ここは外なのだ。玄関で一緒になった父が珍妙なサンタの帽子を被っているのを見てつい言ってしまった。「父さんそのミスマッチはどうかと思うよ」と。
理由を訊ねたわけでもないのにでれっと頬をゆるませた時に逃げ出すべきだった。
「十五分も寒空の下で惚気話につき合わされるとは思わなかった…。父さん風邪引くよ。」
「大丈夫、心が燃えているから。」
「この原油高の時代に幸せな人だな。」
「でも今日予想が外れてね、ダイバートしちゃったんだよ。」
高価な燃料が…と肩を落とすのを見て息子はハッと顔を上げた。
「だからいるのか!今日は仕事で帰れないって言ってなかった?」
母がしょんぼりしていたのを思い出す。せっかく家族そろってクリスマスパーティーをしようと思っていたのにと、口には出さないが元気のないのは明らかだった。うまく休みを調整できなかったのだとこの家庭人間の父もすまなそうにしていた。祖父母の家に行こうかという話も出ていたのだが、この家でクリスマスを迎えたいという母の願いから、今日このドアをあければきっとごちそうの匂いがしてくることだろう。不在のはずの父の分までちゃんと作って並べておくに違いないのだ。母はそういうところが几帳面な人間だった。(母にしては珍しく合理的でないと思うところだ。)
「わざとじゃないだろうね。」
「まさか。そんなことをしたら会社に怒られちゃうよ。お客さんにも申し訳ないし。」
「そのサンタ帽子は持ち帰ってよかったの?」
「戦利品だよ。僕だって似合わないと思うもの。」
「母さんは喜ぶと思うよ。」
鍵を開けながら言う。
母ならくたりと垂れ下がったとんがり帽子を被った父を見て喜ぶだろう。実は同じ話を母の口からも聞いたことがあるのだ。二人でアルバムを広げていたときの話である。あまりにたくさんの写真に(ビデオもある。)若干うんざりしていたのを見て母が言ったのだ。「スザクは結婚する前から親ばか宣言をしていた」のだと。そして祖父母の家から発掘されたサンタ帽子を手にまったく同じ場面を惚気てくれた。
夫婦は似てくるというがこれは似すぎだ。二人分の昔話を聞かされるこちらの身にもなってほしいと思う。くすぐったくてしかたがない。
「僕がいるって言わないでね。後からメリークリスマス!って登場して驚かせるんだから。」
「はいはい。」
ドアをあけるとこそこそ隠れるようにしている父が念を押した。言うと思った。祖父母の家にお邪魔すればよかったかもしれないとほんの少し後悔しながら、長男は母の待つリビングに足を向けた。
メリークリスマス!今度は家族三人で。