「あなたが、扇要ですか。」
「そうだけど、君は?」
睥睨するような醒めた眼差しに、たじろいだ。

遠いばかりの空でした10

「今、ルルーシュ君と扇要という男がどういった関係にあるのかは知らない。ただ扇は今結婚していて、ああ、そう件の彼女だよ、娘も二人いると聞いた。ルルーシュ君がそうと知って何かするとは思えないんだ。彼は、その、ひどくコンプレックスというか、引け目を感じているようだから。」
不本意でだったからだ、おそらく。自分がごくごく少数派の、嗜好にあるということが。
そこまで話し終えて藤堂はふぅと溜めていた息を吐き出した。これでひとまずの状況は把握できただろう。このまだ若い後輩は感情豊かで思い切りもいい男であるが、その感情のまま不用意に動いて事を荒立てるような粗暴な人間ではないと思う。機長仲間の間でもやりやすいコーパイだと評判で、ただ人当たりの良い性格であるというそれだけではあの、ルルーシュが。一つ屋根の下で暮らすほど気を許すとは思えない。それは、ただルルーシュがスザクのことを個人的に好いている云々とはまた別の問題で、彼は非常に敏感に人の感情を読むから、スザクの上面だけではない好意を推して察して無碍に断れなかったということだ。根底にどんな類の感情を抱えているにしろ、枢木スザクは善人である。それははっきりと藤堂にも言えることであって、そうであれば普段の対人面での所作には信を置くべき如才のなさも期待できるというものであって、ルルーシュの非常にデリケートな事情を話した今はそう無茶なことはしないだろうと、思えるわけで。
「つまり…扇という男はルルーシュを一番、彼が堪える形で傷付けた挙句今はどっかの女と幸せな家庭を築いているということですか。」
思う、訳なのだが…
「…そう、いう訳では…ルルーシュ君は少なくとも目が覚めてからは明るかっただろう?それは、スザク君、君が傍にいてあげたからだと俺は思」
「僕は、何も疚しい気持ちなしにあの人の傍にいたわけではありません。」
淡々と、静かに低く、口を開いたスザクに藤堂は冷や汗を流した。やはり話したのは失敗だっただろうか。ルルーシュ本人の口から伝えたほうがよかったか。だがこのことは彼の弱みであって、あまり話したがらないのではないかと思ったし、またスザクが煮詰まって何か仕出かす前に知っておくべきことであると思っての、老婆心であったのだが。
「それは分かっているよ。そう思ったから話したわけだし、」
「そうですか。ありがとうございます。」
スザクは礼儀正しく(慇懃無礼に)頭を下げて続けた。僕は。
「僕は、ルルーシュが男であろうと女であろうと、あの人があの人であるというそれだけで愛せます。性的な感情ももちろんついてきます。それを、じゃあルルーシュが気づかなかったわけはないのでしょう?藤堂さんの話を聞くにあの人、大分物慣れているようだから。なら、今までそういった素振りを見せていた僕をこうも慎重に拒む理由で、考えられるのは二つ。
 僕がルルーシュの好みじゃないか、ルルーシュが僕を好きかの、どちらかだ。」
言い切った。なんだその二択。だが強ち間違いとも言えない、否定するにはこの二人は近すぎた。
「…それで、一体君はどうするつもりなんだい?」
「扇という人に会ってきます。どうせまだ一週間はルルーシュに会えない。…なりたくてなった職業ですが、時間的拘束はいかんともしがたいですね。一緒の家に住んでいるのに、下手をしたら二週間会えないこともあるんですよ。まあそれは今は都合がいい。ルルーシュが戻ってくる前に、行って来ます。」
「何をしに?」
何となく、予想がついたが訊いてしまった。そして返される不適な笑みが添えられた、
「もちろん、ルルーシュは僕のものだと、言いに行くんです。」

宣戦布告。



「単刀直入に言います。あなたは過去の彼との関係を損なわず彼にとっての傷とさせず円満かつ平和的に清算するよう細心の注意を払って、ルルーシュとさよならしてください。あとは僕がすべて引き受けます。ルルーシュの、心も何もかも全て。」
扇は、いっそ清清しいほどわずかの躊躇いもなく言い放った男を前に目を瞠り、そして適わないというように両手を挙げた。目元に刻まれたのは、悔しさよりも深い安堵だっただろう。


ルルーシュ、彼を待っていたんだろう。七年間、たった一人の人間を待ち続けて、ずっと眠りの淵にいた。