それは、女のように甲高い嬌声を上げるとは思っていなかったけど、これは…。
「ぁ、すざ は ぁ…」
吐息だけでいけると思いました。
遠いばかりの空でした14(完)
溜め息をつくような熱い吐息が首筋を撫でる。上擦り掠れた声をかすかに洩らすだけで、ルルーシュは身の内に溜まっていく熱を吐き出す呼気に紛らわせてスザクの二の腕にしがみ付いた。
「は…、も、 いいぞ。」
「そうかな。」
「んっ」
「…うん、じゃあ、これ使っていいのかな?」
入るものなのだなと場違いな感慨に耽りながら、少し動かすたびに自分の指を締め付けてくる中に、このくらいでいいかと顔を上げてゴムを探す。始末が悪いからと、二人ともつけなければ嫌だとこれだけはきっぱり言われて、先ほど放り投げられた箱から二つ取り出す。
「期限切れてるけど、」
「大したことないだろ。避妊のためにつけるわけじゃないし、まぁ、破らないように注意して。」
だいぶ前に購めたものなのだろうから使用期限云々は仕方がない。ただ、普通に常備されているあたりにルルーシュが女性ではないということを思い知るようだった。今時女性の部屋にもゴムの一つや二つ用意してあるのは不思議ではないだろうが、スザクにとって最後の女となった妻は箱入りのお嬢様でスザクが初めての男であったから、異性の体にも避妊具にも、物慣れない反応を示していたものだ。ゆるく反応を見せている自身に、自分で被せているルルーシュを見るとはなしに見ていたスザクの手から、すっと奪い取られた。
「どうした?付け方がわからないというわけじゃないだろう。…どうなのかな、ちょっと触るぞ、」
「…僕あんまり早いほうじゃないんですよ。結構遠慮ないんだね。」
萎えていたわけでも白けてきたわけでもない。続ける気は満々だし最後までしたいと思うのは本当だった。ただ、ルルーシュが思っていたよりも静かなのだ。それはAV女優さながらに前戯の段階からあられもない喘ぎ声を聞かされても、スザクの好みではなかったから構わないのだが、別に濡れるわけじゃないのだからと首筋や鎖骨、脇腹のあたりに指を滑らせたスザクにやや戸惑いがちに瞳を揺らしたのには驚いた。
「お前は丁寧だな。少しは乱暴されても仕方がないと思っていたんだけど。いいかな。」
何気ない口調で呟くルルーシュに他意はないのだろう。それはただの独り言でしかなかった。
今までどんなセックスをしてきたのだろうか。胸の突起を口に含めば驚いたように目を瞬かせて、手術痕の残る脇腹に舌を這わせればくすぐったそうに身を捩っていた。先ほどまでの螺子が一本飛んだようなやり取りから、最中には饒舌になるのかと思っていたが、ルルーシュは黙ってスザクの愛撫を受け入れていた。好きにしていいと言われたから白い肌にいくつもの紅を散りばめてみたけれど、心なしか震えているような指先でその跡を追ったルルーシュを見て、ああそうかと思う。
遠慮などなかったのだろう。ルルーシュにはじめて男を教えたやつがどんな人間かは知らないし知りたくもないが、手馴れた風に他人のものを手にして器用に指を這わせて様子を窺い、ゴムを装着してやる仕草は本人にとって不本意であり無意識のことなのであろうが、男に対する媚が見えた。声を出さずに喘ぐ様子はもしかしたらルルーシュの矜持の砦なのかもしれないし、常とは違いすぎるあけすけな言動は男同士の気安さと言うよりはスザクに対する葛藤を含んだ甘えに見えた。こんな人間だけれど嫌いにならないでくれますか。嫌いになる前に手を放してくれますか。逃げるなら今のうちだから。
「ありがとう。じゃあ…」
大人しくベッドに押倒されたルルーシュの唇にそっと口付ける。自分から仕掛けてきた時とは違って、薄く口を開けて待つ仕草も舌を差し出してくる従順さも、どこか痛々しかった。
「ん…スザク、」
「うん。」
目の前で見せてやってもいいけどどうする?そう言ってにやりと笑ったルルーシュに僕がするからと手を差し出せば、余裕の素振りでジェルが投げて寄越された。とろりとてのひらに受けて人肌に温めていると、ぱちくりと瞬いて次いでくすくす堪えきれないように笑みを深くしたルルーシュが、お前がもてるのもわかる気がするよと呟いた。足を開かせれば一瞬だけ泣きそうな顔で息を詰め、差し込まれたスザクの指に震えていた。
吸い付いてくるような意外な柔らかさに驚いたその場所にそっと熱くなった自身をあてがうと、ルルーシュが一度深く息を吸い込みゆっくりと吐き出す。慣れているなと思いながらあまり遅くなり過ぎないように腰を進める。
「ふ ぁ…」
「痛みは?」
「平気、だ。…優しいな、おまえ…。」
ぽろりと零れたような一言に、独特の締め付けに先走りそうになる自分を宥めてゆるりと擦り上げる。誰よりも優しくしてあげるよ。世界中で一番、君を大切にする。
「もう少し、深くしても大丈夫?」
「あぁ。ん…そこ、」
「ここ? うん、わかった、」
本当は足を抱え上げてしまいたかったが、なんとなく躊躇い大きく広げてもらうことで結合を深くする。細い腰に手を回して抱き寄せると、ふるりと震えてルルーシュがしがみ付いてきた。背中に回された白い腕は、汗で滑るだろうに爪を立てようとはしない。まだ理性を振り切るような激しさのない行為だから、肌を刺すひりつく痛みは確かに遠慮したいところなのだが、指の腹でスザクの背の筋を辿るような彷徨うような手つきは、これはくせなのではないだろうか。控えめな愛撫のようで、縋りつかれているというよりは抱きしめられているような心地よさを感じる。
「ね、ルル。爪立ててもいいよ?」
試しに少し律動を速め、煽って話しかけると、今度は細い足がきゅっと腰を締め付けてきた。
「っ、なんで?」
「僕が偏っているのかな。は、 けっこう今まで、勲章背負って、 きたからさ、」
どこを突けばよいものかと迷うような柔らかさはない。まっすぐに狭い肉壁だったが、さざめくような締め付けにそろそろ呼吸が乱れてくる。この体勢のせいもあるのだろうが、行為全体の主導権はスザクが握っていた。挿れられている側のルルーシュはスザクのペースで起こされる波に抗わないようそっと吐き出す息で寄り添ってくる。様子はよく窺って動いているつもりだけれど、どうしても自分の快楽本位になってしまいがちで、スザクは何度もルルーシュの表情を覗き込もうとしては更に煽られる結果になって、歯を食いしめながらの行為だった。こんな静かなセックスはしたことがない。
「立てたほうが、いいか? ぁ、ぁあっ んッ」
思わず、といった風に腕に力を込めて自分の首筋で喘いだルルーシュに、彼の中に埋めた欲望が力を増したのを感じる。それを受けてルルーシュが噛み締めた唇に、噛み付くように口付ける。耳よりも肌で感じるルルーシュの媚態に、一気に理性が焼ききれるのを感じる。
「ごめん、話は、あとでッ」
合間に囁き、自分が振った話ではないかと思う余裕もなかった。
ルルーシュの快楽に気を払う余裕もない。
ただ夢中で
掻き抱いた体を貪った。
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「ルル、」
「…ん、」
「だいじょうぶ?」
「あぁ…。すざく、」
好きにしすぎてしまったと青くなったのはルルーシュの中で熱が弾けた後だった。一瞬、背筋から這い上がるように通り抜けた快感に思考を持っていかれてから、スザクは軽く頭を振って荒い呼吸を宥めているルルーシュの顔を覗き込んだ。ぱたりとシーツの上に落ちた白い手に自分の指を絡めて、掠れてはいるが深い声で名を呼んだ唇をじっと見つめる。
「どう、だった?」
我慢できずに聞いてしまったのはほぼ無意識だった。達した最後の瞬間に強く抱きしめ返してきた細い腕の感触が背に残っているからかもしれない。この人は本来的に抱く側の性なのだ。男の腕の中で女性にも劣らないほど自分を煽っておきながら、それでもこの人の腕は相手を抱きしめるためにある。スザクの嗜好を窺いつつ悦楽の波に攫われておきながら、一筋たりともその背に傷を刻まなかったことがその証拠だろう。自分にきょうだいはいないけれど、兄との交接はこんな泣きたいほどの安堵をもたらすものなのではないかと些か倒錯じみたことを思う。
「そんなことを聞かれたのは、初めてだな。」
くすりとルルーシュが笑った。自分の言葉が子どもじみていたことに気づいて、スザクははっと身を起こした。
「!?んっ ばっか…いきなり動くな!」
「ご、ごめんっ抜くからちょっと待って…」
絶頂の余韻はまだ燻っていて、手を添えた自身はまだそこそこの硬度を保っていた。感覚が尖りきっている中でグラインドされた形になるルルーシュは、起き上がろうとしたスザクを慌てて留めて怒ったと言うよりは戸惑いの強い声を上げた。
「…っ は ぁ。」
ようやくぐったりと力を抜いた体を再びシーツへと沈めたルルーシュは、片腕を煌々と室内を照らし出すライトの光から庇うように持ち上げた。どんな表情をしているのかわからなくなって、スザクはかがみこんで様子を窺う。
「 、なに?」
小さな声が聞えた。聞き取れなくて聞き返す。
「いや…大したことじゃないんだが、」
別にいいと首を振ったのに釈然としなくてもう一度聞き返す。今度はやはり口元は笑んだままで、ゆっくりと腕を下ろして視線を合わせながらルルーシュは言った。
「同時にいったのは、初めてなんだ。」
「へ?」
「ああ、ちょっと正確じゃないな。何も考えないで相手に任せきりで、こんなに気持ちよかったのは初めてかもしれない。」
お前うまいなと笑って、よいしょと体を起こしたルルーシュはゴミ箱とティッシュを引き寄せて後始末をしている。妙に手早いのが面白くないが、何気ない一言に本音が滲んでいた。
「じゃあ、もう今日は、うわっ!?」
「もう一回くらいできませんか。」
ベッドから半ば身を乗り出していたルルーシュの肩をぐいと掴んで振り向かせると、スザクはにっこりと笑って言った。
「あなたのセックス感、ちょっとずれているようですからこの際矯正しましょう。僕まだしたりないんです、ほら、」
はっきり言って一回だけでは物足りない。想像以上と云うか正直過去関係を持ったどの女性よりもよかった。相性なのか、ただ気持ちの問題なのか。始める前に不敵に見下ろしてきた(実際はベッドでしなを作って見せたルルーシュが見上げてきたのだが妙な威圧感のせいで見下ろされる感覚に近い。)ルルーシュはもう妙な不安を感じていないようだしそこそこ満足してもらえたようだし、ここは回数を強請ってもよいのではなかろうか。
先ほどの満たされたようなルルーシュの表情を思い出して頬を緩めたスザクは、さりげなく視線を下に促して見せた。
「…できる、といえば出来るようなできないような…」
ちらりと見やってルルーシュは戸惑いがちに煮え切らない答えを返す。
「ならしよう?最低限の処理はしていたけど、僕この数年間ずっとセックスしていなかったから正直一回じゃ満足できなくて。」
衒いもなく言い、再び覆い被さってきたスザクに、ルルーシュはきょときょとと視線を泳がせた。
「あー…やなところで時間の経過を思い知った。」
「え?」
白い首筋に顔を埋めながら短く聞き返す。
「いや、あのな。俺はもう眠りたいんだ。さっきので十分満足だしこのまま寝ちゃおうかなーと思っていたわけなんだが、」
「それは疲れているからじゃない?年取ったというわけじゃないと思うよ。」
「そうか?うん、そうかな…どうだろう、じゃなくてだな!疲れていると分かっているなら大人しく眠らせてくれ、今頃頭がぐらぐらしてきた…。」
「明日休みだろ?」
「…。」
「先三日ほどオフじゃない?」
「……。」
「したいよールルー。途中で寝ちゃってもいいから。明日は家の掃除全部やるし。」
子どもおねだりに近い甘えた口調で言い募るスザクに負けたのか、ルルーシュは大きく溜め息をついた。
「…いいよ。もう好きにしてくれ。」
「やった!じゃあ今度はルルの好きなやり方でするね。体位はこれでいい?ゆっくりするのとぐいぐい進めるのどっちが好き?」
「え、いやスザクの好きにしていいぞ、」
「遠慮しなくていいよ。というかそんな寂しいこと言わないでよ。これ共同作業だから。」
「作業って…ものすごく生産性のない行為だと思うんだが、」
「僕は誰とやっても生産性なんてこれっぽっちもないから。ね、やっぱり引き伸ばすやつが好き?そんな気がしたんだよね、ルル焦らされるの好きだろ。」
「そういうわけでも…それよりなんか引っかかったんだが ひぁ!?」
ルルーシュが訝しげに眉をひそめて考え込む前に、スザクはさっさと準備したモノをぐいと挿入した。呼吸も計らず不意を衝かれたルルーシュはうっかり上ってしまったあられもない声に憮然とスザクを睨み返したが、何処吹く風で腰を進められて黙って体の力を抜く。
「俺はどうも、お前に甘い、ようだ。」
「僕もルルに優しいと思うけど、どう?」
「それは認める。 ん、」
「ねぇ、やっぱり魅力的な体ってあるの?女性にはまったく感じない?」
「そうだなぁ…挿れたいやつはどうか知らないけど、俺は、こっちが好きな方だから。あんまり想像することもないし…男の見方は、女に近い、かもしれない。」
「腕とか首とか胸板とか、個人の好みの範囲だと思うけど。僕の体では何処が好き?偶に見ていたよね。」
「あはは、悪い。そんなあからさまな気持ちで見ていたわけじゃないんだが。普通に観賞に耐えうる体してるよな、お前。」
「お、誉められてしまった。」
「複雑だったんだぞ。ひょいと抱き上げられると、やっぱり面白くないし。でも思わず二の腕や胸元の、筋肉なんかに目が行く。風呂とか。まったく人の気も知らないで。」
「同じ台詞を返しておくよ。気づいていたくせに知らん振りしていたのは、どっちだいッ」
「ぁっ んッ 繰り返してほしいの、か?」
「ああ、いや。僕には気を使わなくていいよ。さっきの。離婚の原因。」
「…え?……ああ、そっか。ごめん。」
「だからルルを好きになったわけじゃないから。は、そこは、誤解しないでね。」
「うん。…そろそろ、」
「了解ー。」
妙に気安い夜だった。
fin.
非常に中途半端ですがここで終わりです。ifルートなのでどうかお許しください(平伏)。
ここまで管理人だけが楽しいネタ話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。次はCC本筋に入りたいと思います。