「その、スザク君とはどうだい?」
「ええ、とても---」
遠いばかりの空でした おまけ〜藤堂さんごめんなさい(前)〜
翌朝の話である。事は日付を越えて空が白み始める頃にようやく一応の落ち着きを見せて二人の恋人たちは一つのベッドで眠りについた。起き出したのはもう正午も回ろうと言う昼の頃であり、未だだるさの抜けきれない体を横たえて惰眠を貪ろうとしたルルーシュはあることに思い当たりぱちりとその紫の瞳で瞬いた。
「…おれ、スザクに言ったっけ?」
「何を?」
「その、男が、好きなんだって…」
昨夜(と云うか日付が変わってしばらくした頃)の約束どおり、手始めに一階から掃除機を掛けて最後の寝室まで辿り着いたスザクがやっと起きたなとベッドに懐くルルーシュに問い返した。自分ははっきり話しただろうか。昨日の会話を振り返るだに、スザクは特に驚きも身構えもせず(と思っているのはルルーシュだけである。)抱いてくれたがそのスムーズな成り行きは釈然としない。
「いや?藤堂さんから聞いたんだ。」
「…なんで?」
一瞬固まって床に足をつける。布団干すからねとソファの上に追いやると、またこてんと上半身をクッションに沈めたのに苦笑しながらスザクは言った。
「僕がルルーシュに追い出されそうなんですーって相談したらね、ルルーシュ君はゲイなんだって…ルル?」
埃も髪の毛も落ちていないルルーシュの部屋は掃除機を掛ける必要はないような気がする。そろそろワックス塗りなおさないとなぁなんて暢気にフローリングの具合を確めていたスザクは、どんより、という擬態語がふさわしいような雰囲気を纏って俯いているルルーシュに気づいて訝しげな顔をした。
「どうかした?大丈夫だよ、居酒屋で話したけど、周りも賑やかで内容が漏れた心配はないと思うし、」
スザクののんびりとしたフォローを聞いているのかいないのか、
のっそりと立ち上がったルルーシュはまだ視線を床に落として低くうめいた。
「普通言うか?その流れだとあれか、俺がお前に欲情して我慢できなくなったから追い出したとか他の男連れ込みたいからだとかどちらにしろ両方にとって不名誉な」
「ストップストップ!違うよ、僕が最初にルルーシュが好きなんですって言ったから渋々話してくれたんだ。言うつもりはなかったと思うよ、でも僕がルルーシュの顔も体もやばいよねーなんて明らかにそういう意味で好意を持っているってわかる言動をしたから、あ。」
「…ほぅ。」
「いや、あのね?藤堂さんも人間できた人だからおかしな想像なんて」
「藤堂さんは俺がゲイだと。お前は俺を邪な目で見ていたと。そう、直接的な表現で会話していたと言うことだな?」
「え?あ、うんまぁ…」
うっそりと長めの前髪から覗く紫の瞳で見つめてきた、その眼差しはひどく冷たい。自分が一言小言を言われるのは覚悟していたのだが、どうもルルーシュの怒りのポイントは少し違うようだ。神経質そうに組んだ腕の長い指をとんとんと動かしながら、何を思案しているのかルルーシュは目を細めて黙り込んでいる。
「あの、ルルーシュ?何かまずいことでもあるの?」
どうにも気まずい場の空気に耐え切れず話しかけると、やや躊躇いがちに聞くやつは聞く、と低い声が返って来た。
「個室じゃないだろ。カウンターか、オープンな座敷で飲んだんだよな?」
「カウンターだけど、それがどうかした?」
長い脚を組みなおして米神のあたりを揉みながら、ルルーシュは言った。
「いいか。俺たちみたいなマイノリティーは相手を探すのに苦労する。大雑把なやつはそうゆう仲間の伝で初対面のやつとも気にせず寝るし、別に生涯の伴侶を欲しているわけでもないというのが大方の言い分で、まあ、乱交みたいなことも起き得るわけだ、わっちょっ!」
「ルルも?そんなことしていたの?」
わざと乱暴な言葉を選んでいるというわけではない。他に言い様がないだけだ。ということはルルーシュは事実をそのまま述べているだけであって頭痛を堪えているような素振りは昨夜の酒が残っているわけではないのだろう。スザクはがしっとルルーシュの肩を掴んで詰め寄った。
「そういうこともあると言っているだけだ。言いたいことはこんなんじゃない。続きを聞け。」
「…どうぞ。」
すいと視線を逸らして答えたのに疑わしげな目を向けながら、とりあえず聞く体勢に戻る。隣に腰掛けてぐいと自分の方に向き直らせれば、一瞬困ったような色を浮べて紫が瞬いた。だがすぐにいつもの飄々とした食えない顔で口を開く。
「普通はそういう店に行くわけだが、偶にふらふらうろついているやつもいるわけで、物慣れないどっちつかずの人間をな、こう、まあ、なんだ。同類はなんとなくわかるものだし、話し声は聞こうと思えば聞えるものだ。」
「…ルルーシュは、そういう経験があるの?色目使われた側?それとも、」
言葉を濁したが妙に実感の篭った口調である。考えたくないが一夜の相手を探して秋波を送るとかそんな…でもこの人の目はやばいと折りに触れて思うことも多く…
「俺はそんなお盛んじゃない。が、面白くない思いはしてきているわけで。ちょっとお前心配なんだよな。」
「へ?僕?」
「ちょっと立って。うん、そう。」
ひたすら、昨日ようやく手に入れた恋人の艶やかな肢体を想像しつつ(…。)ルルーシュの方を心配していたスザクは間抜けな声を上げた。目の前に立たせて上から下までじっと眺めているルルーシュの視線が痛い。
「あの、ルル、」
「どっちにもうけるんじゃないかな。上背はあるし痩せ型だけど筋肉はついているし…結構肩幅あるしな。」
「えーと、」
「顔立ちは甘いし優しげだし、粗野なところはないし…うん、困ったなぁ…。」
誉められている気は、しなかった。どうしようかなと、今度は腕を組みなおして口を噤んだルルーシュはなにやらスザクの理解できない世界の住人だった。別にそのせいで嫌悪感を抱くと言うわけではないのだが、まさか自分が男に押倒されるあるいは口説かれるなど普通に考えてありえない。そもそも今までそんな目にあったことは皆無だし、現実的に考えても返り討ちか素気無く断りを入れてさよならだ。そのくらいの器用さは持ち合わせているしむしろルルーシュの方が心配であって、過去に一体どんな男関係を築いてきたのか非常に気になる。誠実な人だとは思うがどうも自身に対してはいい加減なところが見られるのも本当で、ドライな大人のお付き合いをしてきた男たちの中に自分も入っているのではないか非常に不安だ。
「ル」
「りんごとか潰せる?」
下降気味だった思考のままに、不機嫌な声で詰問しようとして遮られた。は?りんご?
「できる、んじゃないかなと思うけど試したことは…じゃなくてルルーシュ、」
そもそもの話の行き先と脈絡のない話題に付いていけず、困惑気味に立て直そうとしたのだが。
「いいね。ちょっと牽制しに行こうか。」
お前はもう俺のものだから。
どこか妖しい笑みを浮べながらルルーシュは言った。
…とりあえず、一番の懸念は解消されたのだろうか。
失礼いたします…。管理人の嗜好としてスザクさんは絶対に左側のお人なので、間違っても他×スザクにはなりませんからご安心を(平伏)。またクールダウンしてギャグになります。