普通の、普通の会話なのにっ…
どうしてこんなにエロいんですか!
遠いばかりの空でした おまけ〜藤堂さんごめんなさい(後)〜
「なんというか、わざわざすまないね。」
「いいえ。こいつがつまらないことで藤堂さんに管を巻いたようですみませんでした。俺も考えが足りなかったし…。」
ルルーシュは控えめに微笑みながら冷酒の入った瓶を傾けた。
「結局スザク君はルルーシュ君の家に居候を続けるんだろう?」
「はい。社に近いですし、二人だとなにかと便利ですし。居候なんてそんな、素っ気無い関係じゃないですよ。」
男二人なんて、学生時代を思い出して意外と楽しいものです。
そう続けたルルーシュの台詞は普通に聞いたら聞き流してしまえるごく自然なものであったが、ツイと周囲に流した視線は艶を含んでどこか妖しい。誰ということもなく投げているようだが、標的はいるのだろう。ルルーシュが店に入ってすぐぐるりと店内を見回しにやりと笑ったのをスザクは見ていた。そんなにはっきりわかるものなのか…。自分は相当彼に悩ましい態度を取ってしまっていたに違いない。ちらりと藤堂を見てスザクは心の中で手を合わせた。今日の一番の被害者だ。人がいい上に存外聡いこの人はルルーシュの含みのある喋りに気づいているのだろう。既に店に入ってきたときから微妙に顔を引き攣らせていた。すみません、藤堂キャプテン。何を頼んでもいいんで、ちょっと会話のサンドバッグになってください。
「その、スザク君との仲はうまくいっているのかね?」
ルルーシュの目がきらりと光った。
「ええ、とてもうまくイっています。」
「…君たちは気が合うようだからね。はじめから仲がよさそうだった。」
「ええ、すごくイイんだと思います、相性が。」
「……。」
黙って酒を注ぎ足したスザクに、黙って頭を下げて藤堂は杯を傾けた。しばし沈黙が下りる。
(普通の、会話なんだ。ただ仲がいいってことをちょおっと含みを持たせて言っているだけの。…この人、なんでこんなにエロいんだろう…惚れた欲目?絶対違う。)
居心地悪そうに(帰りたそうに)している藤堂が哀れだった。心なしかルルーシュもすまなそうに様子を窺っている。だがまだ足りないらしい。聞き耳を立てている人間がいるのかどうかスザクにはわからなかったが、仮にいたとして(すごく嫌だが)これではスザクとルルーシュが同性で同棲していると(※涼しくして申し訳ありません)教えているようなものである。逆効果だ。ルルーシュがまた口を開いた。
「こいつ、けっこう力があるんですよ。俺がまだ本調子じゃない頃から随分助けられました。」
「ああ、筋力も、戻すのに苦労したことだろう。もう完全に回復したのかい?」
気遣わしげに訊ねてくれる藤堂は本当にいい人だと思う。ルルーシュがテーブルの下でころりとりんごを転がしたのを感じながら心の中で涙を堪える。
「握力なんかは意外に戻りませんねぇ。背筋ががたがただったから指先にも力が入らなくて。スザクの鍛えられた腕なんか見ていると時々憎たらしくなったりして。」
「いやぁ、あはは。ルルーシュだってそんな貧相って訳じゃないでしょ。筋肉がつきにくいだけだと思うよ。」
「おまえなぁ。それはフォローになっていないっての。」
気安い素振りで小突いてくるルルーシュが名前で呼んできたからそれにあわせた。社では意外と縦社会な気風があるからキャプテンと呼び枢木と呼ばれる。もちろん敬語だ。目を細めて見守っている藤堂は本当に(以下略)
「でも男でも見惚れる肉体美っていうのはありますよね。ジムなんて行くとなんか暑苦しそうなやつもいますけど、やっぱり質のいい筋肉というのは見た目軽そうなもんなんだなって、こいつ見ていると思います。」
「ほう?まあスザク君はいい体しているからね。学生時代は武道も嗜んでいたと言っていたか。」
思わぬ拾い物なのかルルーシュは空手?柔道?とややはしゃいだ風に(つまり声をやや高めてよく通るように)訊ねてきた。
「ええと、小学生の時から剣道と空手、高校、大学と合気道を。もう十年も前の話しだけど、インターハイにも行ったことがあるんだ。」
「へぇ。それはすごいなー。俺なんて帰宅部だったし。思えばつまらない青春を送ったものだと思うさね。だからこんなにいい体してるのかぁ。」
絶対に酔ってはいない。付き合いでかぱかぱ飲んではいるが(ルルーシュのペースであるから大分速い、念のため。)今日は考えて酒を選んでいる。しかしじゃれ付くようにスザクの首に腕を回してくる仕草は酔っ払いのそれだった。(ちなみにスザクは運転要員なのでウーロン茶で我慢している。)
「なぁ、藤堂さんにあれ見せてやれよ。絶対驚くから。」
「あれっていうと、あれですね。」
どこから取り出したそれ!?という反応はもっともだ。あまりおいしそうではないが赤味だけは強いりんごをくるくると指先で回しながら(器用だ。だから絶対酔ってはいないのだが。)ルルーシュはやや棒読みで応じたスザクに手渡した。
「何かね?」
「もったいないんですけど、はッ!」
ぐしゃり…
「すごいと思いません?なんか見てるだけでスカっとするんですよね。」
「あ、ああ。」
「力を込める一瞬間前の、筋の張るところなんかいいですよねぇ…。」
「う、うむ。」
「細身に見えて力持ちなんてべたでうけますよ、ほんと。ふふ…」
普通の客には、酔っ払いが友人にしなだれかかっているようにしかみえないだろう。あいつ悪酔いしているなーくらいにしか見えないはずだ。だがちろりと舌を見せてあまつさえスザクのてのひらをしとどに伝う果汁を舐め取る仕草はやばかった。やわらかい感触と視覚的攻撃の双方攻撃を受けたスザクもやばかったし正面で見せ付けられた藤堂は噎せ返っている。
「る、ルルーシュ、酔っちゃってるねぇそろそろ帰ろうか。」
棒読みになってしまうのは大目に見てほしい。ここまでやるとは思っていなかった。ただスザクが外見に似合わず怪力で押せば倒れるような軟弱な男ではないということを、どこにいるのか結局さっぱりなやつに見せ付けられればよかったはずだ。これではルルーシュの方が邪な目で見られてしまわないだろうか。
「そーだな。藤堂さん、じゃあ本当にお世話になりました。あ、半月後のチェック、一緒に入っていましたっけ。よろしくお願いします。」
同じ頃に機長になっているルルーシュと藤堂は査察試験も一緒になることがあるらしい。いいなぁと少しばかりのコンプレックスを抱きながら、それでも大人しく散会の挨拶をしているルルーシュにほっと胸を撫で下ろす。目的は達したようだ。本来招かれた立場の藤堂を優先させるべき状況でルルーシュが音頭を取るのはおかしなものだが、スザク以上にほっとした表情を隠さないのを見るに、藤堂には後日改めて頭を下げたほうがいいだろう。今回のこれは純粋に利用されただけになる。返す返すも申し訳ない話だった。こんな手のかかる後輩は迷惑だろうなと、店をでてからころりと態度を変えしっかりした足取りで歩き出したルルーシュを見て思う。
「で、さ。うまくいったの?」
「ばっちりー。俺が嫌いなのがいたからやりすぎちゃった。」
いたのか。新人発掘とか、そんなものなのかどうなのか…。あまり深入りはしたくないが、基本的に人のいいルルーシュをして嫌いと言わしめる男は過去彼にどんな狼藉をはたらいたというのだろうか。噂は広まるからなーと上機嫌に隣を歩くルルーシュはやはり綺麗だ。先ほど感じた不安が蘇る。
「お前がそんな強いなんて知らなかったよ。これで俺のスザクの貞操は夢の中でも守られたー。あはは」
「ルル。」
「ん?」
相変わらず言葉に無頓着な人だが少し嬉しい(<俺のスザク)と思うがそれはまた今度物申すことにして、今は別のことを片付けなければ。
「ルルはいいの?なんか、そっちは却って狙われちゃったんじゃないかと思って僕心配だよ。その、嫌いってやつ、なにかされたことあるの?大丈夫なの?」
「ああ、若い頃にちょっと。大丈夫だよ。ちょっと焦がしたら逃げていったから。」
「…焦がしたって、なにを?」
「今日は月が綺麗だなぁ。」
「…。」
聞かなかったことにしよう。これはきっとルルーシュの気遣いに違いない。そしてこの人はそう弱い人間ではなかったようだ。自分のことは自分で始末できるだけの器用さは、歳相応に身につけているはずだ。聖人君子でも菩薩でもないわけだし。
帰ったら飲みなおそう。見上げた月は真っ白に輝いていた。
fin.
意味の不明な雰囲気文字を失礼いたしました。お読みくださり、ありがとうございました(深々)!