---立派になったな、スザク……
掴まえた!

Kight−11

政務が山のように押し寄せていた。日本にはないハリケーンがエリア11を襲い、エリア全土が大規模な停電に見舞われた。浄水機関も電力によって稼動しているのであるから、人々は最低限必要な飲料水の確保もままならず、夜の暗闇であったことも手伝い一時恐慌状態に陥った。
「軍の食糧の備蓄をあるだけ開放しろ!発電機を避難所へ!本国からの支援は至急受け入れ態勢を整えて不公平のないよう分配するようにッ!」
まだ雑然とした街並みを、総督を乗せたジープがガタガタと走り抜ける。現地の被害を自分の目で確めたいというスザクに、政庁の者は皆せめて朝になってからと引き止めた。ルルーシュにお前はどう思うと訊ねれば、「暗いならこのダサイゴーグルも外していいですかねぇ?」と肩を竦める。スザクはにやりと笑って夜の街に繰り出した。
「ひどいな。台風もこんな風に建物を吹き飛ばしたりするが、まあ、似たようなものか…問題は発電所がやられたことだな。最優先で復旧の計画を組まないと…」
「黒の騎士団のアジト、全部つぶさに調べました?」
窓の外の景色を眺めながら渋面を作るスザクに、ルルーシュが話しかけた。珍しいことだ。いつも発言を求めない限り、彼はじっと黙り込んでいる。
「いや、数箇所少数名を派遣しただけで正式な、つまり隅々までと云う意味だが正式な調査は先送りしている。それどころじゃなかっただろう。立て続けにハリケーンがやってきたんだ。」
「ではポイント・アルファジャックへ大型トラック二台を向かわせてください。発電機が隠してあります。最新式ですよ、ありがたいでしょう。」
「…軍の資材までちょろまかしていたのか、お前たちは…。」
「一種義侠団のようなものでしたから、理解は意外に幅広かったんですよね。」
悪びれないルルーシュに、スザクは脱力して政庁に戻って指示を出した。本国からの援助申し出、逐次上ってくる被害報告、死傷者の告知、やらなければならないことは掃いて捨てるほど溢れていたが、それでも区切りと云うのはあるもので、目の下に隈を作りながら書類に通信にサインにかぶりつくスザクを見かねた-のだろうおそらく-ルルーシュがいつもよりも元気のない-であるから非力な彼でも可能だったと思われる-総督を引き摺って仮眠室のベッドに放り投げた。
「二時間経ったらお起こしします。はいお休みなさい。」
「ちょ、まだやることがあるんだってのっ」
「お・や・す・み・な・さ・い。ただでさえも貴重な脳の容量を睡魔を払うことに費やされては終わるものも終わりません。一度リセットなさってください。」
飛び起きようとした腹の上に腰掛けてにやりと見下ろす。昔のルルーシュにも、今のルルーシュにも見られないちょっと乱暴で強引な所作だった。なんなら子守唄でも歌いましょうかと云う声には隠し切れない気遣いが滲んでいて、大して重くないと思ったことは言わないでおいてやろうと思う。
「ルルーシュはどうなんだよ。お前だって寝てないだろ。隣空けてやるから一緒に寝ればいい。」
だめだろうなぁと思いつつだめもとで声をかけると、案の上にこりとかわされた。
「私は頭脳労働には慣れておりますので、スザク様ほど疲れてはおりません。二時間後にまた参りますので、それまでしっかりお休みになってくださいね。」
最後まで聞き終わるか終わらないか、すぐに瞼が重くなった。覚えていろよルルーシュ、全部片付いたらベッドの中に引きずり込んでやる---

そして二時間後。より少し前。
何時と決めたら、どれだけ疲れていようが体内時計で目が覚めるのが子どもの頃からの密かな目標で、それはルルーシュがそうだったからこっそり目覚ましをいくつも仕掛けながら時間の感覚を叩き込んだ成果であるのだけれど、とりあえずスザクは二時間より前と頭に刻み込んで眠りに落ちた。だからルルーシュが起こすよりも早く目が覚めた。でも目は開けない。ルルーシュが、自分をどう起こすのか知りたかった。昔、うとうとと昼寝をしていて探しに来たルルーシュがどうしていたかを覚えている。
まず、そっと優しい眼差しが注がれる。
(わかるんだ。ルルーシュがそっと笑っているのが目に見える…)
そしてふわりと前髪を掻き揚げて、
(起きていたら、もう大きくなったでしょうって言って、絶対にしてくれない。だから眠った振りをして待つんだ---)
額に触れるか触れないかの、柔らかい感触が---
( へ?…これ、夢じゃないよ な…)
「大きくなったな、スザク。立派になった。あんなに小さかったのに…。」
そうだ。昔々のように、まだ二人とも王子だった頃のように名前を呼んで、このあと気を取り直したように距離を取って声を上げるのだ。
どくどくと心臓が鳴る。この上から降ってくる声は、間違いなく今自分の耳が聞いているものだ。空耳でも、夢の中の彼の言葉でもない。なら、ルルーシュは…
「スザ」「ルルーシュッ!!」
びくりと肩を震わせるのが、寝起きには少し眩しい視界でもわかった。思わず後ずさろうとするのを、腕を引き寄せて留める。
「す、スザク様、あの」
「ルルーシュだ、俺のルルーシュ!記憶がないなんて嘘をついたな!?いつからそんなに意地悪になったんだよッ!」
「…ごめん。」
抱きしめた身体が一度大きく震えて、力が抜けていくのが触れている場所から伝わってくる。睨みつけるように変わらない紫の瞳を覗き込めば、諦めたように切れ長の目が細められた。
「寝ていると思っていたのに。」
「ちょっと前に起きた。」
「それはご無礼を失礼いたしました。」
「無礼だなんて思っていない。俺はもっとすごいことをしてやろうと思っている。」
「…ええと、聞かなかったことにしていい?」
「拒否権はない。でも命令するつもりもない。」
「それを人は矛盾と云う…」
「お前が黙って頷けばいいだけのことじゃないか。ルルーシュ、」
「…なんでしょう?」
「俺のものになれ!全力で!!」


fin.



後書き(蛇足付きです。)