調子に乗って、ルルマリを生徒会の皆さんにお見せする。
ルルーシュという友人は、人当たりがよいとは言えないけれども基本的に処世術に長けており、対人面での所作はいつでもどこでも如才ないものだった。距離の取り方がうまいのだ。自らには決して踏み込ませずにそこそこ良好な交友関係を築く。彼自身が他人に踏み込もうとはしないため、近づくのはそう容易なことではない。女性に関してもそれは変わらず、学園で一・二を争う人気なのにも拘わらず、情報通の自分が浮いた話の一つも聞いたことが無かった。
ルルーシュの悪友の座をちゃっかり押さえたリヴァルは、そんな彼の淡白な人間関係を面白くも思っていたし、嬉しくもあった。傍にいることを当たり前と言える優越感。
それが目の前で儚く崩れた。
「・・・すっごい美人。会長、あの人新しく入ったメイドさんですか?」
「そうよん。咲世子一人でもルルちゃんたちの住む棟は切り盛りできるのだけど、マリアがどうしても働きたいっていうから。」
「マリアさんって言うんですか、彼女。なんかわけありっぽいですね?」
ルルーシュとナナリーちゃんのいるところに配属されたのか。しかもはたらく必要なんてない感じ?
「ビンゴー。あんまり深入りしちゃ駄目よ。観賞するだけに留めておきなさい。」
「りょおかい!」
問い詰めるならルルーシュ君ってことで。隠し事の多い悪友殿にまた一つ秘密が増えましたってか。
「ところで会長。今日って、スザクの誕生パーティーだから私達集まっているんでしょう?あの、どうして主役があんなに縮こまっているんですか?」
シャーリーが、クラブハウスの隅で影を背負いながら丸くなっているスザクを指して言った。そう、一応今日は生徒会メンバーで彼の生まれた日を祝ってやろうという企画なのだが、当の主役がちっとも嬉しそうではない。
「ルルーシュ君がいないからかしら?」
「カレン、それを真っ先に出してくるってあなたも好きね。」
ミレイが軽く笑って言うが、スザクがルルーシュに向ける好意はこの場にいる誰もが知るところである。彼はルルーシュの姿を見かけると走り寄り、顔を見かけなければ一言説教と断り押しかける。秘密の王子様との呼び名が普通に通る私生活の謎めいたルルーシュに、こうまで押せ押せの姿勢で張り付く人間は彼しかいないし、許されているのも彼だけだった。『君がいないのならなんのために学校に来ているのかわからない。』と素で言うスザクに仕方がないなぁで済ませるルルーシュ。
「わ、わたしもそう思う・・・。」
ニーナのお眼鏡にも適うようだ。二人でくんずほぐれつちょっと密度の濃い関係を築いていてもかまわない。寧ろ観賞させていただきたい。
「ニーナも?だってあの二人ちょっと怪しいわよね。・・・ひっ!」
カレンはアブノーマルな関係には興味がないが、ルルーシュの澄ました顔を面白くなく思っている。猫被ってないでもう少し素直になればよいのにと隙を窺っているだけだ。軽い気持ちで揶揄するつもりだったのに、スザクがいつの間にか背後に立っていた。
「怪しくなんてない・・・僕とルルーシュは健全な同性の交友関係にある友人だ。」
カレンが息を飲むような悲鳴を上げたために一同の視線が集まった先で、スザクが青褪めた顔を俯かせてぼそりと言った。どんよりとした空気をまとってかすかに震えている。
「ど、どうしたんだよ?お前今日暗すぎ、いつもの馬鹿みたいに明るいルルーシュ好き好きオーラをぶッ!」
「黙るんだリヴァル・・・それ以上言ったら僕が大変なことになる。」
もちろんその前に君も道連れにする。
口を塞ぎフフフと不気味に笑って言うスザクに、リヴァルは背筋を凍らせた。他のメンバーも似たようなもので、平気な顔をしているのはミレイとマリアだけである。二人ともそ知らぬ顔で一言二言交わしながらパーティーの準備を進めている。誰か、と視線を走らせたときに、ルルーシュがナナリーを連れて入ってきた。
「遅れてすまない。どうしたんだ?」
「あ、ルルーシュ!よかったスザクがなんかおかしくて、っておい!?」
リヴァルはああ救世主と、遅れて入ってきた悪友に不穏な手つきでがしっと肩を掴んでくるスザクを押し付けようとしたのだが、目で追った先のルルーシュの行動に続く言葉を飲み込んだ。
軽食と菓子類を並べ終え、ティーポットの準備をしていたマリアが振り返る。やわらかく微笑んでルルーシュが彼女の頬にキスをした。二度。左右。
白い指先も、同じくらい白くて整った長い指でそっと持ち上げそこにもキス。
なにしてんの秘密の王子さま。
「ただいま、マリア。」
ああちょっと、その声破壊力あり過ぎだっての腰にくるやついるんじゃない?
「お帰りなさいルル。ナナリーも。」
ルルですか、王子さまの接吻受けて平気な顔してルルですか。シャーリーが後ろでムンクになってる気がするんですけど気の毒だから見ませんけど。
「ただいま。マリアさん。」
ああナナリーちゃん。君は本当に天使だね。今君のお兄さんがしたこと見た?見たよねしっかり見たよね、許しちゃうんだ?君それでもブラコンなの?
「リヴァルさん、マリアさんはいいんです。でも、お兄様にキスしてもらえるのは私とマリアさんだけですからね?」
「ははははいっ!!」
枢木、なんでお前が答えてんの。
「今日はマリアがいちごのタルトを焼いてくれたんだよな。スザク感謝しろよ。これはマリアの得意料理で俺やナナリーもよくせがんで作ってもらったんだ。」
「ふふふ。そんなに誉めてくれると頑張った甲斐があるわ。あのね、スザクさんの分はまた別に作ったのよ。なんていっても今日の主役ですもの。特製タルト。」
「あっ、僕これから軍務があって」
「スザクさん?せっかく今日のパーティーをミレイさんたち生徒会の皆さんが開いてくれて、マリアさんが準備をしてくれたのに、お帰りになってしまうのですか?」
「ええええと、本当にごめんっ!残念なんだけど、本当に残念なんだけど!呼び出しが」
「大丈夫ですよスザクさん。そんなこともあろうかとお持ち帰りようにちゃんと用意しましたから。」
「さすがマリア。準備がいいなぁ。」
はははなんて、ルルーシュさん?そんな爽やかに笑われると別人じゃないかって思っちゃうじゃない?そして枢木?なに重苦しい空気背負ってるんだよ、ちょっと・・・ちょっとありえない色のタルトってだけじゃないか。ちょっと、緑とか、青とか、奇抜な色彩になってるだけで。
「ん?マリア、これ随分派手な色だね。」
「そ、そうだよな!ほら、こっちのは普通に赤いいちごの色なのに不思議だよな!」
さすがにちょっと疑問に思って枢木のためにも口を挟んでやる。ルルーシュも気に留めたようだし、この枢木の怯えようを見ていると、どうにもマリアって美人にも警戒心ってものが芽生えてくる。ルルーシュがやけに親しげなのも気に食わないっちゃ気に食わない。誰にでもクールに素っ気無く接してこそ我らの氷の貴公子・・・
「でもマリアが作ったものなら絶対おいしいはずだもんな!」
「・・・はい?」
そんな満面の笑みで自慢げに!?なに彼女自慢してる彼氏の顔してんのルルーシュくん!?絶対シャーリー後ろで気絶してるから、会長あたりが介抱してくれてるかな。
「もうルルったら。じゃあナナリー、包むの手伝ってくれる?」
「はい!スザクさん、必ず召し上がってくださいね?」
ナナリーちゃん?ちょっとその天使の微笑みに黒いものが横切ったような気がするのは気のせいだよね?
「・・・アリガトウゴザイマス。」
おお、とうとう片言か。冷や汗ってか、脂汗だよな。
「・・・ああっと。スザク、道連れはなしな。」
俺あっちの正常な色の方食べるから。
よくわからない・・・。スザクさんの誕生日なんて三ヶ月も先ですよね、わかって、います・・・。(土下座)