本気でルルマリ。ナナリーが二人の子ども。で、スザ→ルルマリ。現代パラレル。ありえなーい、とはどうぞ心の中に・・・。
久しぶりの大型連休で好天にも恵まれ、しかしそうそう小旅行にも行けない家庭はしばしば郊外型の百貨店系店舗に一家総出で買い物に繰り出す。ことが多いと思うのは書いている人間の独断と偏見であるのでどうでもよいが、とりあえず青天井の晴れ渡ったホリデー、枢木スザクは女友達のユーフェミアに腕を引かれいくつものテナントが入ったデパート内をくまなく連れ回され、感想を求められ手には一つ一つは軽いがかさめばそれなりの重量になる代物が増えていき。つまり荷物もちをやらされる彼氏の役どころを満喫していた。
大学時代の友人であるユーフェミアは美人で気立てもよく、つれて歩けば男連中の目を引いて実にいい気分を味わえるはずなのだが、二人は傍から見られているような関係ではないのでそれは虚しい羨望の空回りだ。スザクとユーフェミアはいわゆる恋人同士ではない。
「スザクッ もう!すぐに休もうとするんですから。私がこんなに元気に歩き回っているのですから、男の方はもっと溌剌と横を歩いてくださっても良いのではなくて?ほら!買ったものを床につけない!」
ツンツンと指を指しながらスザクに文句をつけるユーフェミアに遠慮はない。もう長い付き合いで夫婦のような距離感なのだろうとの見方も当らない。正真正銘二人はいい友人である。いい、とは忌憚なくものを言い合えるという意味であって正しく気の置けない間柄ではあるのだが、休日に呼び出され興味もない場所を何時間も歩き回り、見ても違いなどわかりはしない衣服について延々とこれはどう、あれも可愛い!とあちらこちらに目を移す彼女についていくのはなかなかどうして骨の折れることだった。
スザクが大学時代いかに種々武道をたしなんで体力には自信を持っているといえど使う神経が違う。終始笑顔で君なら何を着ても似合うよと誉めるだけの方向で済ませるにはどうにもこうにも親しすぎて逆に手抜きおざなりな対応に取られかねない。こんなところで裏目に出るんだよねと、男女の友情は成立する、が持論のスザクは確かに成立はしているが(それは見事に。)利益は何処にあるのだろうと探してしまうくらいには疲れていた。女の子の買い物ってどうしてこんなに時間がかかるんだろう。
「ユフィー・・・少しだけ休ませてよ。ほら、ちょうどベンチも空いているし。」
「情けないですねぇ。仕方ありません。私はランジェリーを見てきますので、スザクはその間こちらで荷物の番をしていてください。」
休憩じゃなくてね。つまりあくまでも自分は付き人で間違っても恋人同士のデートなんて、そんな甘やかなイベントではないのだ。ほっとするようなちょっと虚しいような、複雑な気分を味わう。
「まぁ、いっか。 あーもう疲れたー!」
どさっとお買い上げした代物を投げ出して自分も背もたれに体重を預ける。レディースフロアであるためにこの前に回った雑貨テナントがひしめくフロアに比べると男性客は少ない。どちらにしろ女性に腕を引かれて疲れた笑みを浮べている同士ばかりが目に付いた。ずるずるとベンチに上半身を横たえる。採光のために広く取られたウィンドウから、初夏のきつめの日差しが降り注いでいた。
「・・・いい天気。ルルーシュ、どうしてるかなぁ。」
ルルーシュ・ランペルージ。学部こそ違うけれど一般教養履修のために文理専門キャンパス問わずごちゃ混ぜに詰め込まれた一年次のゼミ講義で知り合い、なんとなく気が合って思い出したように付き合いを持ってはたわいのない会話に笑いあった友人だった。スザクは人当たりはよいから交友関係は広い。だがどちらかというと当たり障りのない所作で広く浅く付き合うのがモットーで、いわゆる親友と呼べる存在は学生時代を終えてなお見当たらない。
にこにこ笑って自分の明るい面を見せているほうが楽だ。何を好き好んでどろどろした悩みを打ち明け愚痴を言い合い負の感情を分け合わなければならない。結局は自分ひとりで消化しなければならないのに、感傷のままに醜い部分を見せ合って何になる。
「その点ではユフィはちょうどいいんだよねぇ・・・。」
ものにも愛情にも自身の器量にも不足なく育ち、恵まれた環境が彼女に見栄を張る余裕を常に与えている。見られる自分を知っているし見せかたもうまいものだ。スザクに対してもわがままに振舞っているようで本当に踏み込ませたくない場所には線を引く。正しく二人は長く続くことの出来る友情を確立させていた。
ルルーシュは少し違う。社会に出て五年も経つか。思い出したころにメールのやり取りをする。しかも近況を教えあうわけでもなく、ぽつりぽつりと二人共通の思い出話を一方的に送りつけては、思い返しての今の自分のコメントを付して送り返す。なんでこんなことをしているのだろうと不思議になることもないではないのだけれど、彼と繋がっていると思うだけで背筋が伸びるような気がした。惰性で生きている毎日が引き締まるような。
スザクはルルーシュのことが好きだった。ルルーシュはいつも落ち着いていて余裕があって、そこにいるだけで場の空気を支える存在感を持っていた。決してムードメーカーを担えるような賑やかな人間ではなかったが、話を振られれば流れを読んだ答えを返してくるし、聞いていないようで皆の輪を気にかけていたのかと思わせる、なんと言ったらよいのか、一種保護者のような安堵感を与えてくれる男だった。
「“かっこいい”って、ルルーシュみたいな人に使うんだよね。大人でさ、かっこつけてかっこつく人なんてそうはいないよ。皮肉屋なくせに意地悪なわけじゃないし。」
自分は彼に憧れていたんだと思う。あんなふうに、そう、優しい人間になりたかった。自分の悩みも重荷も人に見せはしないけれど、他人のそれを抱えることにはためらいのなかった友人。一見冷ややかな容貌をしているから、話しかけやすいわけではないのだけれど、一度彼と親しくなってしまえばいつだって、彼は皆の中心にいた。
一度だけ、ルルーシュとひどく近づいたことがある。距離を詰めて触れて重なった記憶が今も胸の奥に蟠っている。たぶん、自分から彼に近づいた。人の体温なんていらないと思っていたのに、あの日はほしくて仕方がなかった。
「・・・違う。ルルーシュだから、・・・埋めてくれると、思ったんだ。」
縋りついた瞬間、ほんの少し。瞳を揺らしてあとは微笑んで体温を分けてくれた彼には適わないと思った。
足りないんだ、もっと僕にあなたを。
自分ではない誰かと、溶け合うものがあるのだとはじめて教えてくれた人だった。きれいなだけのぬくもりがあるのだと、言葉によらずに伝えてくれた。ルルーシュの前で、自分は確かに子どもでしかなかった。
今でも思い出して堪らず触れたくなるときがあるけれど、ぐっと堪えて記憶の中の紫の瞳を瞼に描く。高ぶった熱がほどけてゆくように地に着く感覚が静かに静かに舞い降りた。彼と共有した時間を抱きしめて、あとは眠りにつくだけだった。
いつも、そんな夜は夢を見なかった。
夢でも彼には会えなかった。
「ルルーシュー・・・会いたいよぅ。戻りたいなんて言わないから、ちょっとだけさ、ひょっこり出てきてくれないかなぁなんて。思うんだよなぁもう!住所くらい教えて寄越せよ!僕ら友達だろうがぁ!ルルーシュのばかやろー!」
「ほぅ。俺が馬鹿なら公衆の面前で駄々をこねるいい年したお前は軽く職質されてきたほうがいいんじゃないか。」
「・・・。」
「久しぶり。 あ、これ住所な。送ろうかと思っていたんだが、偶然ガキっぽい叫びを上げている悪友殿をお見かけしたんで手渡し。先日この街に越してきたばかりなんだ。」
さらさらと名刺の裏に走り書きされた住所を渡される。反射的に受け取ってちらと視線を走らせれば意外と近い。まぁ、こんなところで会うわけだし。と、そうではなくて。
「・・・ルルーシュ?」
「スザク?」
くすくすと笑いながら同じように名前を返される。変わっていない。清潔感の漂う線の細い長身も、少し眺めの黒髪も、様になる立ち姿も。
「そ、か。ルルーシュ、あはは。もう、心臓に悪いよ。座って。少し時間あるんだろ?」
会ってしまえば意外に冷静でいられるものだ。さっき叫んだからかもしれない。どちらにしろ今の自分は抑えた声でベンチの反対側をルルーシュに勧めることが出来ている。
「ああサンキュ。あんまり暇なわけではないんだが、十五分くらいな。人待ちしているんだ。お前もそうなんじゃないか?」
「うん。ほら、ユフィ。覚えてるでしょ、英文学専攻の。腐れ縁でさ。せっかくの休日引っ張り出された。」
「もちろん覚えているさ。彼女元気か?お前も、まぁ少しは落ち着いたか?」
「あっちは僕よりパワーあるよ。ひどいな、ちゃんとお仕事やって生活しているさ。ルルーシュはどうしていたの?」
一箇所に場所をとらないようにまとめて置かれた荷物は、先ほどユーフェミアにつれまわされたブティックの包装ではないか?メンズは扱っていない。それにこの量。嫌な予感がした。
「資格とってすぐにフランスに渡ったんだ。そこで事務所持って固定クライアントもついたんだが、兄に呼び戻されてな。一人独立したから雇ってやるってさ。国内企業相手の大型事務所のくせに渉外弁護は埒外なんだぜ。俺が自由にやっていいって言うから、まぁいずれは戻ってこようと思っていたし。娘ももう三歳だから言葉を覚えさせるには早いほうがいいと思って。」
「ちょっと待って。・・・娘って言った?」
「言った。」
「誰の?」
「俺の。可愛いぞ、天使だぞ。パパって呼んで駆け寄ってくるんだ。どちらかというと妻に似ている。」
「つ、妻って、君、結婚してたの!?」
「あれ?言わなかったけか?卒業してすぐ籍を入れて、妻の国籍がフランスだから一度そっちでもまれて見るのも悪くはないと・・・ああ、言ってなかったな。悪い。ごめんスザク。」
軽く片手を顔の前で振って謝る仕草はどこか幼さを感じさせて可愛らしいのに、言葉もすまなく思っている気持の表れかいつもよりもやわらかいのに。言われた内容がショックでなんと言ったらよいのかわからない。とりあえず、左手の薬指に目をやってしまった辺り、むんずとルルーシュの男のくせに綺麗な指先を掴んでしまった辺り、自分はロマンチストなのかもしれないし彼に未練たらたらだったのかもしれない。
アクセサリは好きじゃないんだ。一応あるし、彼女はつけているけど俺はしまったままで。
爪の先まで整った長い指をまじまじと見つめてかがみこんだ頭上から降って来るテノールに涙がにじんだ。
「ど、どうしたスザク!?舌でも噛んだか?俺なんか気に障ること言ったか?・・・教えなかったことがそんなにショックだったか?」
静かな問いかけにグスとしゃくりあげる。情けない。もう四捨五入すれば三十に近いというのに。
「そ、れもあるけどっ!でも、るるーしゅ、もう、ちがう人みたいで・・・ひっく・・・」
ルルーシュなら結婚したい人はたくさんいるはずなんだ。思いやりがあって余裕があって、相手を尊重することができる懐の深い人で。かっこよくて頭も良くて、こんなふうに黙って待ってくれる優しい人で。
でもどこか自分と似たところのある人だと思っていた。憧れながら適わないと諦めながら、この人もきっと腕を広げて他人を拒絶する人間だと思っていた。同じ暗闇に蹲って互いのてのひらで目を塞ぎあって夜を越した人だと思っていたのに。もう一番を見つけている。
「・・・ルルーシュ、今幸せなの?」
「ああ。」
大の男が泣いているのだ。遠巻きに視線を感じる。吹き抜けのホールを上下に貫く螺旋状の柱の陰、そっと移動しながら幸せだよと返ってくる。嘘のない声だった。胸に刺さる。こんな声は聴いたことがなかった。いつも、どこか苦しそうで、むしろ冷たく響く・・・あれ、そんなことはないはずなのに、どうして。激情に駆られたルルーシュの声なんか聴いたことなんてなかったはずなのに・・・違う違う、ルルーシュはいつも穏やかで静かな声で話すやつで、俺は・・・
「---スザク?目を開けたまま寝るなよ。」
はっと我に返る。ルルーシュが気遣いをこめた不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「だ、大丈夫!ごめんなんか思い出したような夢を見ていたような、あ、奥さんなんて名前なの?娘さんは?今買い物に行っているの?」
顔を拭っていきなり声を明るく張り上げた自分におどろいたのか一瞬目を瞠って、それでもルルーシュはほっと目元を和らげて応えてくれた。ああ、やっぱり君は優しい。君に愛される家族は世界一の幸せ者だよ。
「マリアンヌ・ヴィア・ランペルージ、が奥さん。娘はナナリー・ランペルージと言うんだ。あっちで生まれて、国籍も。俺だけこっちだな。いっそ名前の通りに帰化しようかとも思ったんだが、マリアが永住するならこっちってさ。お前もいるし、今度はちょくちょく遊びにこいよ。小さいけどな、庭付きで一戸建て買ったんだ。近いんだろ?」
「うん。車で三十分てとこかな。ユフィとか、リヴァルもそこそこ。そんなこと言っていいのかな?押しかけられちゃうよ?独り者が多いからさ、つつきまわされるだろな。」
「あはは。いいさ、家族自慢して中ててやる。すっごい美人なんだぞ。絵本作家でな、今まではフランス語で出していたんだが、日本語も出来ないわけじゃないからそのうち書店に並ぶかも。お前も子どもができたら贈るよ。」
できるかな。口には出さずに笑ってみる。笑えているといい。
「君と並ぶ人ならそりゃあ期待していますよ。よし、当てて見せよう。そうだなぁ、髪は長くてウェーブがかかっていて、色は・・・黒かな。君と同じような綺麗な黒髪で。目は青かな。」
思いつくままに言ってみた。記憶の底を掠めるようなデジャヴを、口にした特徴に喚起される。・・・どこかで、見たことがある?
「すごいじゃないか。全部当ってるぞ。もしかしてどこかでみかけたとか?あっちでは本雑誌に写真も出たりしていたんだが、」
「いや、違う・・・なんでだろ・・・まぁいいや。で、ナナリーちゃん?は、目は君と同じ紫色かな。髪は・・・うーん、僕みたいな薄茶?」
冗談で言って見ただけなのに、ルルーシュがちょっと黙り込んでイエスと答えた。
「・・・さっき見かけたのか?ここから見えなくもない。お前昔から目、良かったしな。」
「いや、見ていないよ。ずっと天井眺めていたし、それに君に先に気づくはずだろ。ルルーシュ未だに細すぎ。後ろ姿だけで君だってわかるよ。」
「さっきは聞き返したくせに。うん、何かの偶然だよな。フランス人に黒髪も青い目も珍しくはないし、ストレートは少ない。ナナリーは俺の色当てはめて見ただけだろ、髪は・・・なんだお前焼もちか?」
「何に対してだよ。この親ばか。いいもん、君が僕を置いてさっさと所帯持ちになっちゃったんだから、独身のお兄様の魅力を駆使してナナリーちゃんに“わたしスザクさんのお嫁さんになる!”って言ってもらうもんね!」
「わたしはパパのおよめさんになるんです!」
「・・・へ?」
女の子のあどけない声が聞こえた。
「ナナリー!買い物は終わったのか?」
「はい!かわいいリボンをかってもらいました。パパ、ナナリーのかみのけ、ゆってくださいね?」
「ああ。誰よりもかわいくしてやるからな。 スザク、娘のナナリーと、 マリア。」
ルルーシュがナナリーを抱き上げながら、近づいてきた女性を空いた腕で指し示す。
「ルル、こちらどなたかしら?」
「大学時代の友人で、ほら、俺がよく、でもないか。たまにメールしてる枢木スザク。写真も飾ってあったろ。」
「ああ、スザクさんね。ルルがいつもお世話になっております。妻のマリアンヌと申します。マリアでよろしいですよ。」
「あっ、いえこちらの方こそ・・・枢木スザクといいます・・・」
「こんにちは。ナナリー・ランペルージです。よろしくおねがいします!」
「よ、よろしく。ナナリーちゃん・・・。」
「ルル。」
「ん、ああ。悪いスザク。これから兄に夕食会に呼ばれていて。さっき住所渡したろ、前もって連絡くれれば予定空けておくから。意外とウィークデーの方が時間取れるかな。それじゃ、ユフィにもよろしく言っておいてくれ。じゃあな。」
「---ク、スザク!どうしたのですか、ぼうっとして。」
「・・・ユフィ。」
「?買い物は終わりましたよ。あとは早めのディナーを頂いて帰りましょう?付き合ってくれたお礼に、すきなものをご馳走して差し上げます。何がよろしいですか?」
「ごめん、また今度。・・・ああ、ユフィ、ユーフェミア。君は今ここにいるんだね?」
「なんです?寝ぼけてらっしゃるのですか?」
「いいや。目は覚めているよ。でも、夢みたいだ。今は平和で、なんて、幸せなんだろう。見つけた、見つけた!僕の俺の大切な人!!」
「す、スザク?一体どうしたのですか?待たせすぎてしまいましたか?」
「いいや、いいやユフィ!違うよ、見つけたんだ!幸せそうに笑っていた、家族に囲まれて笑っていた!もう笑顔だけを願える、憎まなくたっていい!」
「・・・スザク、お疲れなのですね。もう帰りましょう。今日はありがとうございました。」
「そう?疲れてなんかいないよ。今日はとってもいいことがあったんだ。でもそうだね。時間作りたいから持ち帰りの仕事片付けちゃおう。」
「後で話してくださいね。あまり浮かれていると注目されてしまいますよ、お気をつけて。」
「大丈夫!こんな視線くらい痛くも痒くもないし。ふふ、よかったぁ。」
スザクは鼻歌を歌いながら軽い足取りで親友と再会した場所を後にした。
なんで忘れていたんだろう。・・・気づいていたら放しはしなかったのに。あの二人にも渡しはしなかったのに。俺とずっとずっと一緒・・・俺の、ルルーシュ。
・・・ちがう。こんなホラーにするつもりじゃなかったのに・・・なんで(涙)
↓こんなおばかな話にするつもりだったのにいれられなかった、ぐす。
「ルルーシュ?ルルーシュじゃない!?」
スザクは大学時代の友人の姿を見つけて声をかけた。実に六年ぶりの再会だ。卒業以来とんと音沙汰がつかめなくなってしまった悪友。混んでいたためかベンチに荷物を載せ、自身は場所を取らないよう背もたれの部分に軽く体重をかけていた。ポケットに手をつっこんでおざなりに立つ様子も様になる、姿のよい男だと思う。童顔であることを密かに気にしているスザクには、大人びたルルーシュのシャープな横顔が羨ましかった。
「ん?ああ、スザクか。元気にしてたか?なんだ、もしかしてデートか?」
「相変わらずマイペースだなぁ。もう少し驚いてくれたっていいのに。デートじゃないよ。リヴァルももう少ししたらくるんじゃないかな。ほら、彼国文科のミレイさんととうとう結婚することになってさ。家具とかこまごましたものとか、新居の準備に借り出されたわけ。半分ユフィやシャーリーたちのショッピングになっちゃってるけど。」
よく休みが重なったものだと思う。皆それぞれの職種についていると言うのに、この大型連休は奇跡的に集まることが出来た。独身最後の馬鹿騒ぎに、ちょっとした旅行も計画していたのだがどうやら都合が悪かったらしい。いやおめでたいのだけれど。ミレイよりもリヴァルの方が照れていたのが微笑ましかった。人手が要るでしょうと、シャーリーが呼びかけて一足早い調度誂えにかつての仲間が集まった。
「そうか。お祝いしなくちゃな。いつなんだ?式は挙げるんだろ?」
「うん。えっと、来月の」
「第三日曜日、大安祝日ジューンブライド!サムシングフォーはばっちり揃えてあるんだぜ!ルルーシュお前も出席してくれよ、こんなところで会えるなんてすっごいラッキー!」
リヴァルが割り込んできた。幸せいっぱいの満面の笑みを浮べている。
「久しぶり。第三か・・・そうだな、あけようと思えば空けられる。おめでとうリヴァル。」
「へへ!いつこっちに来たんだ?どっか外国行ってたんだろ?連絡先も教えずに行方くらましやがってこの水臭いぞ!」
「いやぁ、面倒だったと言うか。」
「・・・ルルーシュ本当にマイペースだなぁ・・・。ミレイさんなんか怒ってたんだよ?あとシャーリーも。」
「『私の結婚式に来てくれないなんてルルちゃんの薄情者!』ってな。俺だって会ったら納豆攻めにしてやろうと思うくらいには腹が立っていた。」
「・・・勘弁してくれ。日本にいるとそれだけが気懸かりなんだ。好きになられたらどうしようかと戦々恐々だよ。」
「? そういえばルルーシュ。誰か待っているの?それルルーシュの荷物だよね?」
「ああ。今男子禁制のサンクチュアリでお買い物中。もう三十分も戻ってこないんだ。休めていいけど、そろそろ家で横になりたい気分だな。昨日も遅かったし。」
ふぅとため息をつく様子がなんとなく艶めいていて、頬に熱が集まるのを感じた。ルルーシュ、心臓に悪いのも相変わらずだ。
・・・ってそうじゃなくて。
「んんん?ルルーシュ君も彼女ができたのかなぁ?言って見なさい!」
リヴァルに先を越される。いいねぇ他人をうらやまなくていい幸せに浸っている人間は!遠慮もなければ含みもない。純粋に、学生時代二月には上を下への大騒ぎの渦中にいた王子様の女性関係を興味を示している。僕は心中穏やかではない。ルルーシュに付き合っている女の人が?・・・いてもおかしくないけど、むしろなんで大学時代一人の噂も立たなかったのか不思議なくらいだけど!
・・・あれはやっぱり若気の至り?僕が押して押して流されてくれただけ?
「『彼女』ねぇ・・・。まぁそんなところかな。式には彼女と一緒に出てもいいのかな?そのとき改めて紹介するよ。」
「もっちろん!楽しみにしてるぜ!なぁなぁ、美人?そりゃあミレイよりも美人はいないけどさぁ。」
「でれでれしていると『ガァッツ!』とか言って締められるんじゃないか?ミレイは確かに華やかだし誰が見ても美人だけどさ、彼女も綺麗だぞ?たいていの人間が振り返る。」
「でも買い物は遅いんだ?君に荷物持たせて自分は楽しくショッピング?」
「んー?スザクなに不機嫌になってるんだよ。さては大好きなルルーシュを取られて悔しいんだろ。」
リヴァル、それあんまり洒落にならないんだ。・・・ルルーシュは全然気にしていないみたいだけどね!もうなんだかないちゃいそうなんだけどね僕!
「だってランジェリーフロアに俺が行くのもなぁ。女性は試着もするんだっけ?確かにちょっと時間かかりすぎかな。どうせ俺しか見ないのに。」
ひくり。頬が引き攣る。
「なになに、ルルーシュもうそんな深いお付き合い?」
楽しそうなリヴァルが恨めしい。ここにいたらまずその女性と顔を合わせなくてはならないのだろう。僕からルルーシュを取った人。今ルルーシュの一番近くにいる人。
「ルル!」
涼やかな声がした。ルル?なにその親しげな呼び方。僕だってしたことがない。黒髪の、確かに凄い美女。男女を問わず振り返る。ルルーシュが軽く手を挙げて答える。
「家事分担は基本だろ。俺が炊事洗濯、彼女が掃除。 じゃあな。また改めて連絡いれるよ。」
ぽんと、たたかれた肩の先でシルバーが煌めいた。
「「・・・うそ?」」
結婚してたなんて聞いてない。
とかやるつもりだったんですが・・・どちらにしろシチュエーションが不明ですね、しかもルルマリすぎてスザクが乙女すぎ・・・失礼いたしました。