べたべたべたべた鬱陶しい。息子に甘える父親なんてどうかしている。いい加減に子離れして、皆が思うとおりの立派な騎士様に戻って欲しい。
そう、思っていた。
パパはナイト・オブ・イレヴン
今日も今日とて枢木スザクはうんざりしていた。孤児だった自分を引き取り、おそらくはなんの見返りも期待せずに父親をやってくれているルルーシュ・ランペルージ。ブリタニア帝国神聖皇帝の騎士、ナイト・オブ・ラウンズ、その十一番目の騎士である。同時にエリア11総督の肩書きも持つまあ、すごい人である。長い帝国の歴史上最も歳若くしてナイト・オブ・イレヴンの地位に就き、十年間女帝陛下、そして生まれたばかりの皇太子殿下に傍近く仕えていた経験を持つ。つい半年ほど前にラウンズ持ち回りの伺候を終えて帰還した彼は、わけあって息子のスザクとはほぼ初対面なのにも関わらず、非常な子煩悩ぶりを披露してくれた。それだけならまだいい。スザクとて幼くして親を亡くした身の上で、新しい父が自分を好いてくれるならそれに越したことはない。もう一人で生きていくことが出来ないほど幼くはないが、まだもうしばらくは親の庇護下で過ごしても許される歳だ。この頃の父が何をしていたかはさておき(すでに騎士だった。化け物だとスザクは考えている)、普通の、できれば話しやすい人だといいとスザクは思っていたのだ。なんといっても史上最年少のラウンズ様だ。堅苦しくて取っ付きにくい、真面目を絵に描いたような人だと想像していた。
のだが。
「とうさーん、朝だよー、起きてー、これは俺のベッドだっつの。こら!毛布にしがみ付くな!お客さんだってば!」
父は話しやすい人ではあった。取っ付きにくくもない。むしろ自分からスザクに歩み寄ろうと、少々うるさいほどの努力を(努力だと思いたい)してくれている。しすぎである。気さくを通り越してこれはただの甘えただ。職場を抜け出して授業参観に駆けつけるような困った人である。四六時中父を補佐しなければならない副官のカレンは非常に苦労していることだろう。だからスザクはせめて家の中でくらい自分も癇癪を堪えてやろうと、殊勝なことを思うのだ。一応拾ってくれた人だしスザクの事はとても大切に思ってくれていることは間違いないのだから。悪い人でもない。ただ少しその愛情が空回りする上に過剰なだけ。
――そう、だから夜中にベッドに潜り込まれても毛布を奪い取られても抱きつかれても。
呆れるだけで済ませてしまうくらいには寛大であるべきだろうと思うのだ。
「…ぅ、あとごふん……」
「それは五分前にもう聞いた。起きて。お客さんがいらしてる」
「客…?スザクのうそつき…」
「寝るな!本当だから!俺より少し年下の男の子!仕立てのいい服を着ていたから貴族のお子さんかもしれない」
起きろ起きないのやり取りをもうかれこれ十分は続けている。あっぱれな忍耐力とスザクは自賛しながら悪態をつく。何が伝説のラウンズ様だ。絶対詐欺に違いない。外面ばかりがよくて自分やカレンに迷惑をかけて。取り柄と言えば顔だけだ。そして若さ。この人は本当にまともな仕事が出来るのだろうか。
スザクはぐずぐずと甘えてくる父に苛々していた。普通に考えても大の大人に甘えられては十代の少年には荷が重い。鬱陶しい。ルルーシュは他人だ。まだ半年の付き合いで、スザクはその距離を測りかねている。すなわち適正な親子の距離を。今の自分たちは絶対に間違っている。
「…子ども?」
ようやく父が目を開いた。その色を見てスザクはこう付け足した。
「そう。父さんとそっくりの目の色してるよ。俺と同じような髪の色をして、」
ブリタニア人はカラーリングが独特だから容姿を伝えるのに便利だなと考えていると、いきなり父が飛び起きた。くしゃりと髪を掻き揚げてじっと視線を落として考え込んでいる。それも数秒のことで、素早く自室に消えた彼は二分後には身支度を終えて姿を現した。
「騎士服じゃないか。休日だってのにいったいど」
うしたんだこのあほおやじ、と、言いかけてスザクは口を押さえられた。あれだ、指を一本立てて「しー!」とやるあれである。寝起きであることを一切感じさせない目で見つめられ、どうしたことか心臓が撥ねる。
「黙って。お前は着替えなくてもいいから、裾は入れて。ボタンも、」
ざっとスザクが着崩した服の乱れを直した後、父はついて来なさいと階下に向かった。わけがわからず後を追う。
玄関を開けると、先ほどと同じ様子で一人の少年が佇んでいた。こいつは何者なんだろうと思案している目の前で、少年が父に抱きついた。
「ルルーシュ!会いたかったよ!本国に留まって僕の騎士になってほしいと言ったのに」
「お待たせしてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。ロロ皇子殿下」
「で、んか?」
スザクは少年を抱きとめた後すぐさま跪いて礼を取った父の言葉に仰天した。これが。十年間女王陛下と父を独り占めした皇子。
「あれがルルーシュのが引き取った子ども?僕よりも年上なんだね」
「枢木スザクと申します。スザク、殿下にご挨拶を」
仮にもランペルージ公爵家の跡取りなのだ。スザクとて貴族教育は受けているものの実際に使う場面は少なかった。慌てて少々怪しい呂律で言葉を紡ぐ。下げた頭の上で、皇子の視線が冷ややかである理由を考える。
「殿下。護衛の者はお連れでないご様子。…捲きましたね?」
よしと、父が軽く頷いてみせるのにほっと胸を撫で下ろす。父はもうロロ皇子だけを見て常にない畏まった口調で話をしていた。
「ルルーシュ直伝だからね!総督府に住んでいてくれれば簡単だったのに、どうしてこんな普通の家で暮らしているんだ」
「家族がおります。家庭は職場の外に持つものです」
「…彼?ルルーシュは僕と母上が一番だろう?」
皇子が不機嫌そうにスザクを睨んだ。少女のようにやわらかく優しそうな面立ちも、特権階級に特有の傲慢さで歪められるとひどく鋭く見る者の神経を逆撫でる。スザクは思わず湧き上がる不快感と警戒心に身を固くした。
父さん、こんなのと十年も暮らしていたのか。
「私は女帝陛下の臣です。何を捨てても殿下をお守りします」
そして父の言葉に心が冷えた。先ほど家族と、言ってくれた言葉にうれしくなったのに。この、貴族の屋敷の仕様とは言え華美でない家を選んでくれたのは、庶民だった自分気遣ってくれたのだろうと思っていたのに。
「ですが、殿下をお守りする騎士はほかに幾人もございますれば。あまり臣下を困らせるものではありません」
窘める声音は捲いてきたのだと言う護衛の者を差して言うのだろう。きっと今頃政庁は大騒ぎだ。トップである父に皇子来訪の知らせがなかったのは解せないが、皇族と言う人種が一人でふらふら本国から海を越えた場所で歩いているはずがない。皇子は不満そうに顔を背けた。
「連絡を取ります。恐縮ながら我が家へお入りになってお待ちください」
いつの間にか背後に控えていた執事のハンスが父の目配せで皇子を中へと案内した。メイドもバトラーもいるにはいるのである。父が私生活で人を使うことを好まないせいで彼らは常に控えめだが、一応位としては帝国の中で女王陛下、宰相閣下、その次に位置するのがナイト・オブ・ラウンズである。間違いなくこのエリアの中で『一番偉い人』である。家を任せるプロが必要だった。
自分はどうしたらよいのかと迷っていると、見たこともない騎士の顔をした父が殿下の話相手をと、これもまた聞いたことのないような口調で言った。戸惑うスザクに気づいたのかくしゃりと頭を一撫でした父はすぐに通信機を設えた仕事用の部屋へ足早に立ち去る。
「…ちゃんと真面目な顔もできるんじゃんか」
「当たり前だろう」
「で、殿下!」
客間に通したはずのロロ皇子がスザクの独り言を聞いていたらしい。スザクは慌てて跪いた。
「いい。立て」
相変わらず不機嫌そうな声で言うのはどうしてだろう。あの父を跪かせて大事にされて、いったい何が不満だというのだ。
「ここがルルーシュの言うホームか…。天井が低いな。床も絨毯が敷かれていない」
何室かは毛足の長い絨毯が敷かれている。だが家のホールと廊下はごく普通に、大理石だ。小さい頃はこの傷のつきやすい石に恐る恐る歩いたものだ。これが貴族の屋敷の普通なのだと知ったときは眩暈がした。だが途方もないほど華美で壮麗なブリタニア宮しか知らない皇子には小さく、物珍しいものであるのだろう。きょろきょろと…首はあまり動かさない。目だけでものを追うようにと躾けられているのだろう…内装を窺う様子は子どもと同じだった。
「ルルーシュの部屋はどこだ?見てみたい」
「父の、ですか。それはどこを」
「寝室。書斎なんて見飽きている」
スザクは一瞬迷ったのだが相手は皇子だ。国で二番目に偉い。逆らうことはできるはずもない人間だった。
「こちらです。でもどうして…」
案内しながら訊ねる。ただの好奇心だろうが、きっぱりと最もプライベートな部屋を指定した皇子が気になった。
「見たことがないから。ルルーシュは僕の部屋で添い寝してくれたことはあるけど、自分の部屋は絶対に見せてくれなかった」
「添い寝、」
「別に不思議なことじゃないだろう。ルルーシュは僕の護衛であり教育係の一人だった。僕にとっては父にも等しい男だ。…お前にとっては、本当に父親なんだろうが」
スザクは皇子の機嫌の悪さの原因が分ったような気がした。皇家の父親、つまり女王陛下の夫は確か大公爵家の人間で、それだけの男だと言われている。武勲もなく政治に通じているわけでもなく、女王の治世に口出しをしないことだけど条件に婿入した人間で、大人しくしていれば名誉と地位を保証され、そのことでもって満足しているような器の小さい男。あまり大きな声では言えないが、女王は第一子をもうけてからは夫の好きにさせていると言う。後宮は人の出入りが密やかに途絶えることなく維持されているとか。
「でも、殿下」
スザクはやわらかく微笑んで皇子を見た。
「お、僕だって父とはたった半年の付き合いです。他界したとは言え実の両親も別にいる」
「…ルルーシュが父では不満だと言うのか」
「そうではありません。父には感謝しています。ただ、僕には…殿下の方がよほど父と親しいような気がして、ほんの少し、」
意図して口ごもったわけではないが、スザクは自分で言葉にしてみて気がついた。不機嫌になっていたのは自分も同じで、この目の前の皇子に嫉妬していただけであると。鬱陶しいと思っていた父の振る舞いも、忽然と消えうせてしまえば寂しいものだ。それもこの皇子は、きっとそんな普段の父の姿を見たいのだろうと知ってしまえば怒りもすっと薄れてゆく。
少なくとも、このとんでもなく高貴な生まれの少年は素直に父を慕っているだけだ。
「ここがルルーシュの部屋か。物がないな」
「そうですか?衣裳部屋は別室に取るものなのでしょう?」
「敬語はいい、スザク。一人称も気にしなくていい。さっき言いかけて直しただろう。…ルルーシュと同じなんだな。僕も一度だけ、彼が『俺』と言っているのを聞いたことがある」
よほど衝撃だったのか、スザクには想像しづらいのだが皇子殿下は考え込むように俯いている。
「父は、俺の前では自分のことを『父さん』って言うけど」
口ごもりもせずに態度を普段のものに変えたスザクに、一瞬目を瞠ったロロはすぐに笑顔を浮かべた。友達がいなかったのかもしれない。気安い友人は。
「想像もつかないな。でも『私』や『臣』よりはずっといい。ああ、そう、装飾品が少ないと思ったんだ。このライトもシンプルなものだ。絵画も一枚だけ」
「ああ。父さんはあまり派手なものは好きじゃないらしい。でもこの部屋の窓を開けると、春にはサクラが満開になるんだ。もう半月もすれば、ほら、枝の先が桃色に色づいているだろう」
少し冷えるが開け放ってそう教えてやる。本当はスザクの部屋からの方が眺めがいいのだ。料理の味付けから風呂の様式、細々したところで本国にいる父の気遣いを感じていた。あんなだらしがなくて甘ったれた人だとは思わなかったが、優しい人であることには変わりがない。
「サクラか。いいな。僕も見てみたい」
「ブリタニアにもあるんだろうが…でもそうだな。父さんが花見をしようと言っていた」
「花見か!夜がいいな。くだらないパーティーなんか抜け出して見に来るのに」
悔しそうにロロが言った。いったい何の用向きでこのエリアを訪れたのか詳しいことは父が確認中だが、名残惜しそうに外を見つめて室内に視線を戻したロロはおそらく近日中に本国へ戻るのだろう。しょんぼりと肩を落としたのをどう慰めようか思案していると、ふと何に気がついたのかロロが顔を上げて言った。
「ルルーシュは眠っていないのか?仕事が忙しいのか?向こうでもよく徹夜をしては母上に叱られていた」
「え、いえ朝は起こしても起きないくらいで、」
だからあなたを外で待たせてしまったんですよととはさすがに言えず、スザクはどう話したものかと首を傾げた。
「でもほら、寝具に一糸の乱れもない。整えた後なのか」
「あー…えーと、あの人、人のベッドに潜り込んでくる癖があって、」
「…は?」
ものすごく怪訝な顔をされた。スザクも知らなければそうしていた。
「だから、俺のベッドに潜り込んで眠っちゃうことがあって、」
「ルルーシュが?後ろを見なくても何人いるか数えられるあいつが?人前で眠ることなんて出来ないんだぞ。騎士はみんなそうだ。ルルーシュなんてレイピアで銃弾を真っ二つに出来るぞ」
「…俺にはそっちの方が驚きなんだけど。でもラウンズ様だもんな、普通じゃないはずだよな」
「ちゃんと寝巻きを着ているのか?騎士服で眠っているなんて事は」
「いや、ふつーに。ものすごくふつーにパジャマを着て寝てますよ」
「ぱ、パジャマ…想像がつかない。見せてもらえるか」
「いやさすがにそれは…でも俺も見てみたいよ。本当に普通でだらしのないサラリーマンって感じの人なんだもん」
「ルルーシュがだらしないだと?…想像力の限界だ」
「そこ。人の陰口は叩いちゃいけませんと、殿下にはご幼少の頃から、スザクには数日前に言ったばかりじゃないか」
二人が一人の人間のギャップに唸っていると、いつの間にかやって来ていた父が渋面を作ってそこにいた。心なしかやつれている。
「父さん、どうしたの」
「カレン・シュタットフェルトには僕からもよく謝ろう。ルルーシュ、ものすごく叱られたんじゃないか」
「え、父さんって本国にいた頃もカレンさんに叱られていたの?」
「大体僕の代わりにな。あと不摂生していたりすると、彼女にはすぐばれるんだ」
「へぇ。こっちでは父さんに勝てるのはカレンさんだけなんだよ。最終兵器」
「…二人とも、随分仲がよくなったんだな」
父が少し驚いたように言った。言葉遣いを窘める様子もない。あれと、スザクは不思議に思って父を見た。
「ああ、いや。殿下は今回の訪問の理由をお聞きになっておられますか?」
「少しな。どこでもいいから、一つのエリアを選んで見聞を広げて来いと言われた。シュナイゼルのエリア2でもクロヴィスのエリア3でもよかったんだが、ここにはお前がいるからな。総督が交代したばかりで不安定だろうと止められるかと思ったんだが、陛下は許して下された。でもそう長居も出来ないだろう。お前に迷惑がかかる」
「おや、殿下には珍しく殊勝なお言葉ですね。では可能ならもっと長く滞在なさりたいですか?」
「それは、もちろん。お前とスザクと花見をしてみたい。起こしても起きないお前も見てみたい」
「…スザク、後で説教だ。殿下に何を言ったんだ」
「え、ありのままを」
「スザク、知っているか。ルルーシュは怒らせるとものすごく怖いんだぞ。椅子に座らせて一時間睨みつけてくるんだ。あれは堪える。夢に見るぞ」
「夢……あ、いやいやそんなことは!」
「何を言っているんだスザク。まあいい、殿下。陛下のお言葉です。エリア11のアッシュフォード学園高等部に学び三年後に帰国せよと。滞在中は総督府にお住まいを新築するか、もしお嫌でなければこの屋敷でも」
ロロはぽかんと父を見つめた。
「ほんとうに?ここで暮らしていいのか?警備の問題も、」
「どこであっても私がお供いたします。学園の外での殿下の護衛は私が勤めることになります」
「父さんプラス殿下の護衛となったら大変な人数になるんだろうな」
そうしたらこの家では一緒に暮らせなくなるんだろうなと考えながらのスザクの台詞にロロがおかしな顔をした。
「そうならないようにルルーシュを連れて行くんじゃないか」
「?でも父さんも一応ここのエリア内では要人だろう」
「本国でもVIPなんだけど…ルルーシュ、スザクはお前のことを誤解していないか」
「公私は分ける主義ですので」
「ふうん…。スザク、ルルーシュのこの服はな、正確に言えば騎士服じゃない。総督の公務服とも違う」
ロロは父が身につけている白を基調とした着衣を示して言う。『ラウンズ様のご衣装』が総督の執務を執る際に着るものとは違うことは、毎日目にするスザクは知っていた。マントの布面積の違いだ。いわゆる騎士の正装だと思われている(スザクもそう思っている)衣装のマントは全身を覆うが総督の公務服はその半分の大きさしかない。左肩から脹脛までを覆う片肩タイプ。色は今のところパーソナルカラーで十一人分十一色あるらしく、父は瞳の色に合わせたのか紫色だ。中に着る服は正直あまり注意を払っていなかったことを告白しよう。なんだか動きにくそうだなと思っていただけである。軍服よりは華美で人目を引くが機能性には乏しいつくりであることは間違いない。
「騎士の職務の中核は戦うことだ。こんな形ばかりのフォーマルウェアで飛んだり撥ねたりできるものか」
「…飛んだり撥ねたりボールを蹴ったりしていましたが」
「スザクそれオフレコ!」
「…まあルルーシュだからな。でも大した装備もできないだろう。ほら、たとえばこんなタイトな着衣のどこに銃を仕込めると言うんだ」
先達ての授業参観時のことを言うスザクにどこか納得した風に頷いたロロは、父のマントをぺらりとめくってその下を指差した。確かに細い。着やせする人だとは思っていたが元が並みより細く出来ているので、見せることを前提に作られたものを纏えばよりいっそう線の細さが強調される。お仕着せとは言え100パーセントオーダーメイドのそれはすらりと引き締まった父の胴元から腰下にかけて僅かの弛みも残していない。
ふと、ロロが父の左脇腹を撫でた。曇った表情を見てそっと皇子の手を遠ざけた父が、だから、と話を継いだ。何かあったのだろうか。
「だから本格的にボディガードを務めるときは別の服を着るんだよ。こっちも制服なんだがもっと動きやすい。武器も隠し放題だぞ」
「…ラウンズは最後衛の砦だからな。ルルーシュが動かなくちゃならないことなんてそうはない。人目につく場所では形式を重視する。でもそうでないときは護衛服とでもいうべきか、まあそういう機能性を優先したものを着るんだ」
調子が戻ったらしいロロが、あっちは黒が基調だからルルーシュにはよく似合うのだと嬉しそうに言う。別に今着ているものが騎士の制服じゃないというわけではないだろうが、まだ少年の皇子殿下にとっては父の戦闘時のスタイルが格好良く映るのだろう。スザクとしても真面目に仕事をしている父なら見てみたい。
「ルルーシュがいれば護衛を三十人つけているのと同じだからな」
「は?」
「ラウンズになるための最低条件だ。軍のスペシャルフォース三十人斬り」
「え、うそ」
スザクは思わず呟いた。身軽そうだが肉弾戦に強いようには全く見えない。カレンの方が頼りになりそうだと思っていたのに。
「本当。父さんすごいんだぞー見直した?」
「でも証拠を押さえるまでは信用できない」
「…父さんうそついたことないのに」
「普段の行いが祟ったな」
「殿下までいじめないでください」
「そうか。素のお前はこんな人間なんだな。面白いものを見られた。でもまあ、それはおいておいてだ。大丈夫なのか?総督の責務は、」
「副官が優秀なので問題はありません。殿下が一生懸命勉学に励んでくだされば私の仕事も減りますが」
「する!負担は極力かけないよう善処する!住まいはここにしよう。総督府に移ってしまったらスザクと中々会えなくなるだろう。親子は一緒に暮らすべきだ」
スザクはロロの台詞にふと胸が苦しくなって、些か乱暴にその頭を抱えた。やんごとない皇子殿下は目を白黒させている。
「俺に遠慮しなくていいんだからな!父さんも殿下が居ればもう少ししゃんとするだろ」
「…ロロでいい。そうだな。でも僕は寝ぼけているルルーシュも見てみたいぞ」
「毎朝寝ぼけているけどな。昨日なんかベッドから落っこちてたし」
「ほ、本当か?」
「好物はプリンだ。勝手に食べると、」
「お、怒るのか?」
「涙目になる」
「それはぜひ母上にもお見せしなければ!」
「だ、だめです絶対だめだ!陛下に私のプライベートはお話にならないでください。本当に、…たいへんなんだ……」
取り繕うことも出来ずに遠い目をして、最後には独り言になってしまった父に、女王陛下ってどんな人なんだと背筋が冷えるがそれはまたゆっくりロロに聞けばいい。知らない父の武勇伝も聞かせてもらおう。
「じゃあ学園では俺がロロのボディ・ガードを…あれ?どう考えても小学生だろう?」
スザクはロロを見下ろして言った。大人びてはいるしブリタニア人だから背も高い。中学生にも見えるがスザクが七つの歳に生まれたはずだ。ちょうど十年前。
「ルルーシュが頑張りすぎたからな」
「殿下はとても優秀だぞ」
「…スキップ?」
「ミレイに同じクラスに入れてもらうよう計らおう。専門の護衛は付けるが、行き届かないこともあるだろうからな。スザク、殿下を頼むぞ」
「い、イエス・マイロード!」
fin.
ここまでで力尽きました。時間があったらシリーズ化したいのですが、今はまだ。とんでも設定で失礼いたしました。お付き合いくださり、本当にありがとうございました。