【ルルーシュがスザクのパパです。(…。)】
スザクはテーブルの上に鎮座しているものを見つめて無言だった。冬になるとたまに出現するそれ。出現しない年もあるし出るときは出る。今年は出たのだ。
「・・・父さん、反抗期だな。」
口をついてすべり出た言葉がそれだった。
反逆のパパ(前)
スザクは小腹が空いたので階下に下りてきたのだ。とりあえずコーヒーメーカーのスイッチを入れる。ふとダイニングのテーブルに目をやると、蜜柑が一つ転がっていた。不自然だったので手に取った。ぐにゃりと潰れる。
「…。」
中身がなかった。皮だけ、器用に二つのパーツにわけて残されていた。別に食べたいわけでもなかったがなんとなく面白くない。食べたものは片付けろと言うのではないのだ。いや言うには言うが、これは明らかに誰かを引っ掛けるつもりで放置されていたのだ。誰かと言えば、父一人子一人の父子家庭において、スザクはこんな器用なことは出来ないからもちろん犯人は父である。あの人はたまに蜜柑をぼっちゃん刈りにする。普通に剥けばいいのに黙々と蜜柑(の皮)を真っ二つにする。そしてスザクを引っ掛ける。
(※想像はつくかと思いますが、ブログに写真を載せておきます)
スザクは父がどこかに隠れて見ていやしないかと気配を探った。――書斎に引っ込んでいるのだろう。してやったりとうれしそうな顔をしている父の姿は見つけられなかった。
「…やっぱりあれが原因かな。」
スザクは呟いて腕組みをした。これは何かしら不満があるという父のささやかなメッセージなのだ。
――念のために断っておくが、「スザクぅ、一口ちょうだい」だの「むいて食べさせてほしいなぁ」とねだったところを、普段から実の父親に思うところのあるスザクが保身のために素気無くあしらったための反抗期ではないのだ。そんなことは日常茶飯事である。蜜柑一つ食べさせてやるくらいのことで出来(てはいるが嗜好に問題がある)息子は眉一つ動かさない。父の甘えんぼうは筋金入りだ。
ではいったい何に不満を覚えているのかと言えば、先日父に見合いの話が舞い込んだのだ。
見合い。
子持ちで妻は居るのかいたのかいないのかよくわからない、三十も半ばの男に見合い。いや年齢はぎりぎりセーフだろう。晩婚化の進んだ現代で四十路の独身男だってそう珍しくはない。もしかしたら子どもが大きいこともポイントが高かったのかもしれない。すぐに新しい家庭が築けるだろう。子どもも親もともに。
そして息子のスザクから見ても父はまっとうな人間だった。仕事は真面目だし気立てもやさしい。おかしな癖もないし非常に普通の男。ルックスは子の欲目を差し引いても最上の部類に入るだろう。相当の親馬鹿であることを除けば夫にと望む女性は少なくないのはわかる。そして今更再婚話などが持ち上がった(いや、昔もそういった話があったのだろうと今なら想像がつくが)理由に思い至るほどにはスザクも幼い子どもじゃなかった。
つまり、スザクが親の手を離れ独立したその後のことを、親切な上司が気にかけてくれたのだろう。無類の親ばかで甘えんぼうである父が一人で暮らすようになったら寂しくて死んでしまうのではないかと、認めたくはないしそれをうれしいと思ってしまう自分自身はもっと認めたくないのだが、不安に思う人間はスザクだけじゃなかったということだ。「どうかね、スザク君ももう大きくなった。そろそろ自分の第二の人生を考えてみては。」
大変におせっかいなことである。今更なのだ本当に。もちろん父に意中の女性がいるというのなら話は別だ。もともと母親については何も知らないスザクにとって、その分肉親への慕情がいっさいがっさい父親に行くことを除けば誰に義理立てする必要もないのだ。父が再婚(なのか初婚なのかは知る由もない、かなしいことに。)したいのならスザクだって祝福して、やらないことも、ない。
けれどどう見ても父にはそんな人物がいる様子はないし、いたならいたでスザクはきっと安堵した。父が普通に恋愛しているところを見たくはないが、それならそれで諦めは付くと。だから、もし。もし父が再婚話を受けるつもりなら邪魔をする気持ちはなかったし未練はあっても潔く自分の気持ちにけじめをつけるつもりだった。けれど。
こんな話が出ていてと、相談してきた父の様子に少しいじわるな気持ちになってしまった。父の顔は明らかにスザクに止めてもらいたいと言っていた。父さん二人で暮らそうよと、大事な一人息子が言ってくれるのを期待している顔だった。
…それがわかるくらいには、長い付き合いの二人なのだ。
「?どうした、スザク。」
父は黙り込んだスザク首を傾げた。いくつになっても仕草がかわいらしいぜこんちくしょう!と思ったかどうか定かではないが、この時スザクは父をいじめてみたくなったのだ。父の態度がとてもとても面白くなかった。自分の気も知らないでと、甘えんぼうで息子にべったりな父にやり返してやりたくなったのだ。
「父さん、僕は構わないよ。いい人なんだろう?試しに付き合ってみれば。」
大人の男女の付き合いが、学生の彼氏彼女のそれとは同じ尺度で測れるものでないとわかってはいたが、どうせ断るのだろうこともわかっていたからにっこり笑ってそう言った。答えなんて決まっているくせにわざわざ何を言わせるこのばかおやじ、と、スザクが思ったかどうかは定かじゃないが、
この時父はかちんときたに違いない。あるいはショックか。珍しい紫の瞳を瞬いてそれきり会話はしまいになった。
そして、この坊ちゃん刈りにされた蜜柑が鎮座しているのだろうと、スザクは推理した次第である。