「…おい、飼い犬はもっと厳しくしつけておけ」
「…大人しくしているじゃないか」
「邪魔しないからいいってものでもないだろう…」
「…あんな子どもに育てたつもりはないんだ」

C.C.は感じる視線に溜め息をつきながら、久しぶりのルルーシュの血を口に含んだ。


C.C.さんのお食事タイム



「…スザク、今日またC.C.がやって来る」
朝起きるなりルルーシュが言った。ひどく暗い顔をしている。
「うん、わかった。別に構わないよ。またピザでも焼くのかい?」
スザクの中では既に『お義母さん』と呼ばれているC.C.である。ルルーシュとの仲の進展に間接的に(たぶん)手を貸してくれた人だ。昼間に訪ねてきてくれる分には一向に構わない。
「…お前って実は自分に素直なイキモノだよな」
「不意にした十年を取り戻しているだけだよ」
「う…」
それを言われると弱いルルーシュはいつもすまなそうな顔をする。別にルルーシュのせいではないのだから彼がそうする必要はないのだが、眉を下げて俯く仕草が密かにヒットしているスザクは気にしていないことを黙っていた。とても自分に正直な男である。
しかし今日のルルーシュは口ごもりはしたものの毅然とした態度で切り出した。
「スザク、C.C.が来たら少しの時間でいいから二人きりにしてくれ。布を織っているところを見てはなりませぬ」
「君にはいつから羽根が生えたんだい」
「血も飲ませてほしいんだ」
「昨日飲んだじゃないか」
「…あ、アイシテルワ!私のダーリン!」
「いや、無理はしなくていい…」
そこはかとなく様子のおかしなルルーシュだったが(彼はいつも少しおかしい。ジェネレーションギャップかもしれないと疑っているスザクである)、色仕掛けと云うにも拙い、棒読みで媚を売られてもうれしくない。ルルーシュだったら黙って脱いで見せれば一発だとスザクは常々思っていた(いやそこまでしたくないからまず言葉を使うのである)。
「でも僕以外の人の前で脱いじゃだめだからね」
「な、なにっ!?」
「…どうしてそこで驚くの?」
「、驚いてないぞ!さあ首を洗って俺に差し出せ!」
「いきなりえらそう!洗えって…お湯沸かしてないよ」
この時代にシャワーはない。湯沸かし器なんて便利なものは絶対ない。スザクがえっさほいさと井戸から汲んで大きな桶(一応浴槽)溜めた湯をルルーシュがふーふー吹いて沸かすのだ。実条件がよければ力持ちのルルーシュはこの役割を代わりたいなと思っているのは秘密である。重いものをもつよりも肺活量に挑戦するほうが疲れるのである。
「うん、じゃあいいよ。いただきます、」
話の勢いだけで言っただけであることはわかっていた。大人しく頷いたルルーシュはスザクを椅子に座らせて自分もその膝の上に横座りに腰掛けた。邪魔な襟元を指で払ってかぷりと噛み付く。

「おいしい?」
「おいひい(おいしい)」
「もっと吸ってもいいんだよ。足りなかったら遠慮しないで僕に話して」
「わるひ(悪い)」
もごもごと舌足らずな(と云うか歯が足りない状態)調子で答えるルルーシュに苦笑しながら、スザクはふとあることが気になった。
「ねぇルルーシュ」
「ひゃに(なに)?」
「ルルーシュっていつも僕の、首の右側から吸うけどそれって好み?それともそこが血液の多く集まる場所なのか?」
吸血鬼と言えば首から吸う。疑問を持ったことはなかったが、左右の違いは好みの問題なのではなかろうか。
「…太い血管があるんだ。吸いやすい。左右で違いもあるんだが、俺はこっち(右)の方が落ち着きがいいからそうしている」
ぺろりと一舐めして顔を上げたルルーシュがそう言った。足りたのだろうか。いつも思うが、スザクはルルーシュに血をやるようになってからも貧血がどういうものかわからなかった。少々血が減ってもスザクの体調に変化は起きなかったのであるが、ルルーシュはそれで足りているのだろうか。戯れで噛み付いてくることはよくあるが(癖になりそうで困っている。スザクが。)月に二、三度こうして頼んでくるだけでルルーシュはだいたい健やかだ。
「ふーん。お城ではどうしていたの?人間はいなかったんでしょ?」
「…兄上から」
「…吸ってたの」
「い、いや…グラスに、注いでもらって、」
スザクとしては他意のないただの興味だったのだが、ルルーシュが自分以外の人間(しかも男)の膝に乗って首に顔を埋めているところを想像して思わず声が低くなってしまった。(本当は口移しだったことをとても言い出せる雰囲気ではなかった。ルルーシュもうそをつくべきところは心得ている。)
「そっか。それはよかった(ルルーシュが。)」
「副音声が聞えたぞ…。とりあえずごちそうさまでした」
ひくりと頬を引き攣らせたルルーシュがそそくさとスザクの膝から降りた。




そして、C.C.さんが再登場するわけであります。


「来たな、C.C.」
「いらっしゃいお義母さん」
「夫婦仲は円満か」
「ぼちぼちですね。うちの嫁さんはずかしがりやだから」
「素直にさせるのが夫の手並みと云うものだろう」
「毎晩磨いていますよ」
「…ツッこんでいい?」
ルルーシュはスザクとC.C.のやり取りに顔を顰めながらひとまず皆で中に入った。
すぐさまC.C.の腕を引いて奥の寝室に向かおうとする。
「ちょ、ルルーシュまずはお茶の一杯も、」
スザクはティーポットを用意しかけていたので呼び止めた。なんで寝室なんだ。小さいがもう一つ書斎のようなものもこの家にはあるのに。
「飲むかC.C.」
「いや、もっといいものがあるだろう?」
「加減はしろよ。じゃあスザク、布を織っているところを見てはなりませぬ」
「(覗くならそっとな)」
しかし素っ気無い会話の後にルルーシュは先ほどと同じ台詞を繰り返してぱたりとドアを閉めてしまった。二人の意味深な台詞とC.C.のいたずらげなお誘い(ちがう)。





「…まあ、空気を読むなら覗くべきでしょ」

スザクはそうっと中を覗いた。









「こっ、こらC.C.!いきなり、そんな、」
「恥ずかしがるような仲でもないだろう。ふふ、相変わらず白くて吸い付くような肌だ」
「撫で回すな!さっさとしろ!」
「いいじゃないか。かわいいお前を人間風情に下げ渡してやるのがどれだけ諦めの要ったことか」
「あいつは血族に迎え入れる、こら、だからくすぐったい!」
「ほぅ、ようやく思い切ったか。くす…ここ、」
「なっ!見るな!」
「お前も器用なことをするなぁルルーシュ。あいつがつけた痕だけ残しているのか?」
「だ、だって…悲しそうな顔をする、ものだから…」
「不自然なことに気づかないわけでもなかろうに」
「そりゃあ…でも残っていると嬉しそうな顔をするんだ」
「健気なことだ。どれ、私も一つ、」
「いっ…C.C.!お前、」
「ちょっと待ったぁ!」



スザクはたまらず部屋の中に押し入った。ベッドの上で後ろに傾くようにしているルルーシュの上にC.C.が乗っている。上半身の前を肌蹴て覗く輝くような肌にC.C.が吸い付いていた。
「す、スザク!?見られたからにはもうここにはいられません!お名残惜しゅうございますが涙を呑んでお別れもうし」
「もう乗ってやらない!ルルーシュのおふざけには乗ってやらない!」
「C.C.!お前のせいで円満な家庭が壊れようとしているぞ!責任を取れ!」
「仕方がないな。枢木スザク、これは浮気ではない。お前が生まれるよりもずっと古い昔から続けられてきた儀式なんだ」

「…人のベッドで人妻と事に及ぼうとしていた言い訳にしか聞えませんよこの泥棒猫め」
「ずいぶん格下げされたぞC.C.」
「お前は妻でいいのか」
「この際スザクの機嫌を損なわないことが大切だ。俺の安らかな眠りのために」
「…苦労しているのか?いつでも実家に帰ってきていいんだぞ」
「でもそうしたらあの人泣くんだもの…」
「困った夫だ」
「でもワタシそんなだめなあの人でも付いて行くって決めたから…」
「いまどき昼メロドラマでもそんなべたなストーリーは書かないよ!ルルーシュはいい加減僕を揶揄かって遊ぶのはやめてください!!」
「チッ」
「舌打ちしたー!行儀悪いからやめなさいと何度言ったら」
「スザクうざーい」
「まあ!そんな悪いことを言う子どもに育てた覚えはありませんよ!お父さんに言って叱ってもらいます!」
「親父、今日は出張だぜ?同伴者のいる」
「まあ、まあなんてこと!父親があんなだから息子までこんなことになっちゃうんだわ!もうスザ子どうしたらいいかわかんない…」

「ほら、C.C.。スザクはとても興奮しやすい上にとってもノリのいいやつなんだ。揶揄かったら収拾がつかなくなるから」
「ルルーシュはちょっとそこで正座してなさい!お口チャック!」





※途中誰がどの台詞を言っていたのか不明なところがあったかと思いますが、ほとんどスザクとルルーシュです。最後の台詞はスザクです。





「――…で。」
深呼吸をしてスザクはC.C.に向かって切り出した。
「愉快犯は捕獲しましたので建設的に話をしましょう」
「ルルーシュは正座が苦手だぞ」
C.C.はルルーシュの方に面白そうな視線をやりながらそう言った。
昔からそうなのだとは思いたくないが、ルルーシュはとてもよく喋る人である。真面目な話もまぜっ返してあさっての方向に持っていくのが大好きだ。出会った頃の寡黙でちょっぴり翳のあるクールな彼はどこに行ったのかと思わないでもないのだが、まあ無口に黙り込まれるよりはよほどいい。二人きりの生活で退屈しないかとルルーシュはよくスザクに訊ねるが、むしろルルーシュの方が退屈しているのではないかと不安になる。スザクはもう十年も一人で暮らしてきた。会話のない生活ははじめのうちこそ寂しかったが今ではもう慣れてしまった。そこへ会いたくて会いたくて仕方のなかったルルーシュが現れて、朝も昼も夜も一緒に居てくれるのである。退屈などするはずもない。それにルルーシュといたら話さないわけにも行かない。だって彼はおしゃべりなのだ。
話が逸れてしまったが、ともかく今は話に茶々を入れられるわけにはいかないのである。だからスザクはルルーシュの口に飴玉を三個放って自分の隣で正座をさせた(スザクもベッドに上ったので三人ともがベッドの上だ)。ルルーシュはなんだかんだ言って行儀がいいので口にものが入っている間は決して口を開かない。吐き出すことも絶対しない。彼が食べ物を粗末にするはずがない。スザクが試行錯誤で見つけ出した必殺☆ルルーシュ口封じである。小さい口に三個はいじわるかもしれないと思ったが、ルルーシュの好きな苺味だから今のところ大人しく舐めている。
「痺れたら横に転がればいいんです」
ころん
「転がったな。お前の膝に」
狙ったのか?
C.C.のにやりとした笑みと眼差しに屈しないよう気を引き締めて、スザクは自分の膝の上でカリカリ飴を齧っているルルーシュの頭を撫でた。
「ルルーシュ、もうちょっとお義母さんとお話があるからゆっくり舐めてね。齧っちゃいけません」
「(カリカリ、カリ……)」
静かになったのを確認してスザクは改めてC.C.と向かい合った。
「お前たち二人は少しおかしいぞ」
「あなたに言われたくありません」
「だからこれは古い儀式だと言っている」
「なんでもかんでも伝統に吸収させればいいと思ったら大間違いです」
「本当に違う。私は単に食事をしていただけだ」
「食事?」
「そうだ。私はルルーシュの血しか飲まない主義だ」
「飲まず嫌いはよくありませんよ」
「他の血族やまして人間の血なんて飲んでいられるか。まずいんだぞ」
「ルルーシュ、僕の血はまずい?」
スザクは、おそらく三つの飴玉の大きさを揃えようとしているのだろう存外に真剣な表情で口を噤んでいるルルーシュに話を振った。ふぁさふぁさと黒髪が揺れる。
「まずくないそうです」
「ルルーシュは血に関しては味音痴だからな。何を飲ませてもうまいと言うぞ」
「…ルルーシュ、ほんと?」
「…(カリカリカリ)」
「噛んじゃいけません」
視線を逸らして飴玉を齧り始めたので止めた。スザクは溜め息をつきながら話を元に戻す。
「百歩譲ってルルーシュの血しか飲まないのだとしましょう。それでどうしてルルーシュがこんな格好になるんです」
スザクはよいしょと脇の下に手を入れてルルーシュを持ち上げた。あれだ、お母さん(お父さんでもいい)が子どもを抱き上げる仕草である。
サテンのシャツの袷は全開で、くっきりと残った情事の痕が目に痛いほどだった。
「…もう少し優しくしてやれよ」
「善処します」
「まあルルーシュはマゾだからな」
スザクの腕の中でルルーシュが暴れた。
「抗議しているようですよ」
「たぶんお前の方がサディストだと言いたいのだろう」
「否定はしません」
がっくりと肩を落として不貞寝してしまった(それでもスザクの膝枕なので世話はないといえばまったくない)ルルーシュに気をよくして、スザクは何度脱線したかわからない話を根気強く引き戻した。
「首なら少し襟を緩めればすむことでしょう」
「私は胸から吸うのが好みなんだ」
「む、むね…!?」
「何を想像したか知らんが、このあたりだぞ」
過剰な反応を示したスザクに嫌そうな顔をしてC.C.はルルーシュの鎖骨の下数センチほどの場所を示した。別に乳首から吸うわけではない。
「あ、なんだよかった…」
「おい、ルルーシュが軽蔑しきった目でお前を見ているぞ」
「だってルルーシュはここすごくよわ…ごめん。もう言わないからつねらないで痛い痛い!」
今度はC.C.が溜め息をつく番だった。血族の中でも一番のお気に入りがこんな馬の骨にとられてしまったのだと思うと内心涙がちょちょぎれる思いである。
「もう一気に説明してしまおう。いいか、確かに首が一般的だしそこが一番勝手がいいが、私にだって好みがある。これはお前が生まれる何十年も前からそうしてきたことだ。ルルーシュだって私の血を吸うことがあるし私はえらいからいつだってルルーシュの甘い血を堪能する権利がある。お前のところに嫁に出してからはこれでも我慢してやっているんだぞ。たまの食事くらい文句を言わずに見届けろ!」

「…わかりました」
背は自分よりも低いのに見下ろしてくるC.C.の眼差しに屈した(どうせ勝負など見えていた)スザクがしぶしぶながら頷いた。
「仰せのとおり、ここでしっかり見届けさせていただきます」
「…見ているのか」
ようやく飴を飲み込んだらしいルルーシュが口を挟む。起き上がって嫌そうな顔をしている。
「当然だよ。疚しいことがないなら僕の目の前で食事して」
「だってお前、イライラしそうじゃないか」
「しないよ。ちょっといいことを思いついたんだ」
「…なんだ?」
「まあいいから。C.C.さん、どうぞ」
スザクはひょいとルルーシュを差し出した。(ルルーシュはスザクさんの所有物ですので)






そして、冒頭なのである。

「…ルルーシュ、ヨコシマな視線を感じるのは私だけか」
「…俺は全力で無視している」

スザクは目の前で繰り広げられる吸血行為を別の何かに変換していた。
目はうっとりととろけている。
「薔薇じゃなくて百合に目覚めたという…」
「言うな!スザクはそんなヘンタイの子じゃない!」
「でも明らかに…ほら、」
「あっん!こら!不必要に噛むなって!」
C.C.はちらりとスザクの方を窺いながらルルーシュの胸の頂に歯を立てた。ルルーシュの身体を半ばクッションに埋めるようにして、平らな胸を横から見ているスザクの視界から隠す。つまり見目麗しいルルーシュが男に見えないようにした上で、艶めかしい声が上るように悪戯する。
「…っ、いいね…」

「…いいそうだぞ」
「スザクはあんな子じゃない!」
ぼそっと洩らしたスザクの言葉に、ルルーシュがいやいやと首を振る。
「スザク!人の食事中に物ほしそうな顔をしてはいけませんとあれほど」
「ルルーシュ。夜にがっつかれたくなかったらもう少しかわいらしくC.C.お姉さまに悪戯されて」
にっこりと笑って言われた台詞に、ルルーシュは心の中で涙を流した。





Fin.












※オチていなくて申し訳ありません(土下座っ)

ここで『どらきゅら』は終わります。(ひどすぎる)(仕様。)ルルーシュはスザクをお城に連れて行って仰々しい(もちろん本編の騎士叙勲の儀式を変換しております)儀式を経てスザクさんを仲間にします。スザクさんもグルメでルルーシュの血しか飲めなくて、結局ルルーシュは手のかかる子どもを引き取ったようなバンパイアになったせいで体力が地球生物の規格を超えた旦那に目を白黒させるような外見年齢の差を利用して現代では父子ごっこをして遊んでみたりしているような、そんな感じで幸せ(たぶん)になります。

途中スザルル以外のCP色が濃くなってしまい失礼いたしました。
読みづらいところも多々あったかと思いますが、ここまでお付き合いいただきましたこと、心から感謝申し上げます。
管理人
 


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