【空シリーズ:遠いばかりの空でした、のシュナルルお別れ編です。(後)】
空港近くのホテルの一室。シュナイゼルは身支度を調えて-ネクタイは手に持ったままだったが-まだベッドに腰掛けているルルーシュの元に歩み寄った。彼はまだワイシャツとズボンを身につけただけでぼんやり宙を見ていた。それは自分を待ってくれているのだと、明け方見た目の色に思う。
「ルルーシュ、一ヵ月後の日曜日だ。」
一通の封筒を手渡す。ルルーシュは黙ってそれを眺めていた。
「驚かないのかい?」
「驚いてほしい?」
「いや。ただ…」
らしくもなく、躊躇いがちに口ごもる-実際何と言ったらよいものか考えあぐねていた-と、だって、と笑みを含んだ声が聞えた。
「だって、にいさん。」
くすくすと楽しそうな、朝の光に溶け込みそうなひっそりとした笑い声。
「昨日は、なんだか優しかったですよ。」
「…私はいつも優しくしていたつもりだったのだがね。」
返ったのはひらひらと今手渡したばかりの、招待状を振る仕草だけだった。ゆっくりと瞼を伏せて、長い睫に隠されてゆく紫の目を見ていると、不意にルルーシュが立ち上がって言った。
「珍しいんですって。これ、」
手に持ったままだったネクタイをそっと抜き取り、シュナイゼルの首に結んでやりながら口元にはやはり笑み。
「女性はできる人が多いみたいですけど。娘にせがまれて、後ろから手を回して結んでやったと同僚が言っていたのを聞いて、少し、」
すっと白い手が離れていく。綺麗なものだ。ルルーシュはいつも、何も言わなくともこうしてネクタイを締めてくれた。彼に結んでもらうと苦しくもなく一日中直す必要もない。ふとそれに気づいた時には、外すのが躊躇われたのだと今伝えるのはあまりに無粋だ。シュナイゼルはルルーシュが後に次ぐ言葉をわざと口にしないのだと思い、それでも彼の言いたいことはよくわかった、わかったつもりで視線を合わせた。
「ルルーシュ。もう煙草はやめなさい。」
自分と同じでない香りはひどく不快だった。だが不快に思う自分に気づかない振りをして言う。後ろめたい気持ちを気遣いに摩り替えるなど造作もないが、この時シュナイゼルは緊張していた。表には決して出さないけれど。
「それ、学校の恩師にも言われました。にいさんに言われたんじゃ仕方ないかなぁ。」
わかりました、そう返事をして箱ごとくず籠に捨てるのにどこか子どもじみたものを感じるのは、きっと彼がそうしているからだ。意識して子どもの振りをするようになったら、それはもう子どもではないのだと誰かが言っていたのを思い出す。そう。もう自分に囚われる必要もない君は大人だ。
「それじゃあ、私はもう行くよ。元気で。式にはぜひナナリーと一緒に。」
「ええ。お祝いを言うのはその時で。いってらっしゃい、…シュナイゼル。」
思わず振り返りそうになるのを堪えるのに必死だった。じぶんはひどく身勝手な男であった。これからは彼女を愛そう。彼のことは、
「愛して“しまった”んだ。ルルーシュ、………すまなかった。」
堪えて、零れてしまった呟きは宙に消えた。
fin.
昼メロドラマ風のお別れで。ルルーシュは何度も煙草を捨てていますが、その度に買っておりますよ。こっそり一人で吸っています。
次はスザクさんとご対面で。