【空シリーズ:遠いばかりの空でした、でスザルルとシュナイゼル。(前)】



退院の際には時間を作って、従兄妹のナナリーと一緒にルルーシュを自宅まで送ったのだったが、それ以来数えるほども会っていない。連絡もない。。ルルーシュはルルーシュで試験だのなんだのと急がしそうにしていたし、もともと頻繁に顔を合わせていたわけでもないのでそれは構わないのだが、(自身も家庭のある身であるし、仕事は時差の関係で昼夜を問わない。)ふむ、と、シュナイゼルはふらりと訪れたルルーシュの家で顔を合わせた男に目を細めた。
「あの、どちら様ですか?鍵はかけておいたはずなんですが、」
「合鍵を持っている。」
つまりはそういう親しい身分のものであると告げて、目の前の男を品定めする。まだ若いし顔のつくりは幼いが、二十代の後半ではあるだろう。実のところルルーシュの家を訪ねる機会は昔からそう多くはなく、彼が仕事を持ってからはもっぱら外で落ち合うのが常であった。従ってシュナイゼルはルルーシュが他の男の存在を匂わせようと実際その人物と鉢合わせすることはなかったし、鉢合わせしたとして少々含みを持った視線で眺め回してやる用意はあったのだ。あったのだが。
「ああ、もしかしてシュナイゼルさんですか?従兄弟の。はじめまして、一緒に暮らしている枢木スザクです。」
にこりと笑って握手を求める様子は不自然なところなどないのだけれど、妙に力を込めて握られた手の痛みといい、笑っていない緑の目といい、これは敵視されているのは自分の方だなとシュナイゼルは苦笑した。そもそも躊躇いもなく同居していますなどと。自分の知らぬ間に年下の従兄弟は相手を見つけていたらしい。結婚式の招待状を渡した時のような生ぬるい安堵感を味わいつつも、それでもやはり面白くないと思ってしまうのはルルーシュのことを本当に想っていたからだ。少しばかりちょっかいをかけることは許されるのではないかと目論む、あたりシュナイゼルは実に自由な男であった。
「君はルルーシュの新しい相手かな?」
「The last love.お見知りおきを。」
間髪いれずに返事が返る。珍しい。ルルーシュが年下を相手にするなど。
「君もBAWの?」
「まだコーパイですが、ルルーシュとは何度か一緒に飛んでいます。もうそろそろ戻るんじゃないかな。ああ、ほら、」
玄関に向かう際にソファを進めて出て行く辺り、もう枢木スザクという男はルルーシュの恋人-口にするには些か気恥ずかしくもある言葉だ-の位置に納まってそのことに微塵の不安など感じていないのだろう。リビングの革張りのソファに腰掛けながら(昔は勝手に落ち着いていた場所である)腕を組んで考える。あの従兄弟は自分のように男も女も相手に出来るような器用な性質ではなかった。結婚するつもりはないのかと、彼が四本線を光らせ始めた頃に訊ねたことがある。見合い結婚であったがその頃今の妻と付き合いを持ち始めていたこともあって、さりげない風を装って口の端に上らせた。
「殴られたんだったな。軽くだったが。」
実に凄みのある笑みを刷いて、ルルーシュは言ったのだ。「あなたの時には駆けつけて差し上げます。でも俺の式には一生呼ばれないと思ってください。」そういう意味であることは明白だったが、ならば一生ふらふら複数の男と関わりを持って過ごすつもりかと心配になった。ルルーシュは飄々と人の間をすり抜けるのがうまいが、本当はひどく寂しがりやであることをシュナイゼルは知っていた。嫌われるのを怖れて身を退くが、すぐにまた人恋しくなって誰かの手を取る。相手には不自由しないだろうが彼は器用なようで実のところ無頓着にすぎるところがある。何をと、具体的に案ずるのも無粋な上に余計なお世話であろうが今は純粋に兄(あるいは保護者)の気持ちでシュナイゼルはルルーシュのことを思った。今でもあの柔らかさのない細い体がほしくなる時がある。他の男の身体を見て惹かれることはないが、ルルーシュに関して言えばひどく魅力的なものだと思う。妻と比較してどうこうなど、思うだけで両者に礼を欠いたことであるとそれだけは人並みの理性で持って二人を重ね合わせることはなかったのだが、こうしてルルーシュと閨を共にするのだろう男を目にするとどうしても想像してしまう。
(そう体格がいいわけでもないが、まだ若いしな。ルルーシュはもう三十も半ばを過ぎているし、大丈夫なのだろうか。)
実に失礼な心配である。他人がとやかくいう問題ではない。そして年のことを言うのならシュナイゼルは○○歳である。そろそろ落ち着いたほうがいい。
「にいさん!来るときは連絡してくださいって言ったじゃないですか。」
ぱたぱたと足早に駆け寄ってきたルルーシュは少し疲れているようだった。困ったように言うのは、後ろでそこはかとなく睨みを利かせている彼の目を気にしてのことだろうか。おやと思う。もしかしたら本当に枢木スザクを一人と決めたのだろうか。そうなら少しばかりのちょっかいもかけてみたい。
「ルルーシュ、無茶をされたら私に言いなさい。仲間にそちらに明るいやつがいるからね。」

落ちた沈黙を気にもしないシュナイゼルは、実に自由な男だった。


また方向性を見失いました…。シュナイゼルから見ると、ルルーシュは来るもの選ばずの嫌いがあるのです。