【空シリーズ:遠いばかりの空でした、でスザルルとシュナイゼル。(後)】



なぜかパッと顔を輝かせた、調子を取り戻したらしいルルーシュに、当然の嫉妬といまだに理解しづらいルルーシュの価値観に振り回されていたスザクは、少しばかり険を含んだ声で言ったのだったがきょとんと目を丸くした彼はシュナイゼルに向かって指を振った。そのずれた反応も(そもそも目を丸くするその反応が最早致命的にデリカシーを理解していない証拠である。貞淑の二文字は彼の辞書にないのだろうか。…ないのかもしれない。)仕草も、大人しく応じるシュナイゼルもみなおかしい。んー久しぶりだなーと息を継ぐ合間に呟きながら、満足したのか離した唇をぺろりと舌を見せて舐めたルルーシュにスザクは頭が痛くなった。自分も大概大らかな性格であると思っていたが目の前の人は規格が違う。今までしていた遠慮なんか必要なかったのかもしれない。
「ベッドに直行していいですか。」
「いや、だめ。」
「仕掛けておいてしれっと言うな!」
「だってまだにいさんいるし。」
「もうそっちを向いてもいいかな?」
「いまいちあなた方の感覚についていけませんよ!どこまでならOKなんですか!」
「「脱がずに出来るところまで?」」
「疑問形なのに息ぴったりかよ!実はすごく相性いいだろあんたら!」
「スザク、スザク、言葉が悪いぞ。」
「惚れた腫れたで世界を回せると思っちゃいけないな若人よ。」
「どっちもフォローになってないよ!言い訳くらいしてくれよ!」
「スザク!口寂しかったんだ!」

「…は?」
「だから言い訳!」
にっこりと、よくよく並べて見てみれば似通った笑みを浮べてとんちんかんなこと(シュナイゼルの言葉はそこはかとなく耳に痛い)を言う従兄弟同士にくわっと叫んだスザクは、しかし間髪いれずに応えたルルーシュの台詞にぽかんと口を開けた。何の話をしていたのだったか。言い訳?…ああ、でも一体なんの言い訳なのか始めからいまいち理解できなかった。両手を握り締めながら言い募るルルーシュはなんだか妙に可愛らしいが付いて行くのは大変だ。眉を顰めてなんの?と訊けば、煙草の!と丁寧にものを取り出しながらどこか得意げに言うあたり、いい加減に思考のずれというものがありすぎるのではないか。
「…僕はあなたのというかあなた方のデリカシーのなさについて言い訳してくれるものと思っていたのですが。」
「でもお前とにいさんの会話から始まったんじゃないか。」
「う…なんだか冷静になってきましたね。」
スザクは肩を竦めてそもそもと言ったルルーシュにほんの少し身構えた。そう、落ち着いて考えれば出会いがしら早々に火花を散らしたスザクとシュナイゼルが昔のことを掘り返したのが(楽しそうに口を割ったのは主にシュナイゼルであったが)今のひと悶着の始まりであり、今更と言えば今更な話題であることは、いい年をした大人として割り切ったつもりで二人ともいたわけだ。そうと気づけば最早傍観者の体でこちらを眺めているシュナイゼルが恨めしい。掻き回しに来たのかこの中年男。
だが胸中で罵り睨んだスザクの視線に気づいたのかそうでないのか、シュナイゼルはじっとルルーシュに視線を据えて呟いた。
「私にはまずいからと言ったくせに。」
「子どもだったんですよ。忘れてください。」
「しかもまた変えているし。…随分軽いじゃないか。」
「だって下手したら月の半分も会えないんです。寂しいじゃないですか。どうしても本数が増えてしまって。もう若くもありませんし健康診断に引っかかるのも嫌ですから。」
「二月に一度会えたらいい方だった私の時は?」
「野暮ですね。」
はぁと深く溜め息をついたシュナイゼルは立ち上がってコートを手に取った。そろそろ、本当に引き上げ時だ。それなりに楽しめたからよしとしよう。もうルルーシュのことは胸の中だけで気にかける。
「枢木スザク君と言ったか。もうわかっただろう?」
「…ええ、まあ。僕のルルーシュが惚気ちゃって失礼いたしました。」
「え、俺惚気てた?」
「「自覚なかったんかい。」」
二つ目の溜め息を吐き出して、玄関先まで出てきたルルーシュにそっと訊ねる。パイロットの制服は確かネクタイを締めるのだった。
「彼には結んでやっているのかい?」
最後にルルーシュが、自分のネクタイを締めてくれたのはもう十年近く前のことだ。あの時彼は笑っていたけれど、逆光で翳っていた表情は隠し切れない苦さを滲ませていたと思う。ずっと気になっていた。シュナイゼルが、ふとした折に自分の罪を意識するのはあの朝のルルーシュを思い出すときだ。
「スザクはね、自分から言ってくるんです。俺が何を思う暇もありません。」
くすくすと忍び笑う顔に陰はない。そう思う資格はないのかもしれないが、でも、安心した。硬質な輝きの、しかし艶やかに柔らかい黒髪に手を載せる。従兄弟が目を丸くしたのに目を細めてシュナイゼルは言った。
「よかった。君には幸せになってもらいたいと、思っていたんだ。これでもね。…よかった。 っ!」
しみじみと零してしまった言葉にか、その滲み出た想いにか、ルルーシュが腕を回して抱きついてきた。懐かしい感触だ。自分はこの身体が膝ほどに小さかった頃から彼を見てきた。これからも。
「ええ、今、とても幸せです。あいつを好きになれたのは、にいさんのお陰ですから。ありがとう、…と、言っておきます。」
悪戯っぽい笑みを浮べて従兄弟の身体が離れていく。寂しさも感じるが、それは口にするものではない。
「どういたしまして。こういうことを言っているから彼にはずれていると言われるのかな。揶揄かうのもほどほどにね。」
「あ、気づいていましたか。面白いでしょう。反応がいいとついついね。」
子どもの頃から知っているのだ。おろおろして見せても本気で困っているのなら自分だって口を噤んだ。しかしこの愉快犯の従兄弟に本気で遊ばれるのだろう彼には多少の同情を禁じえない。
「ほどほどに、ね。君のためにも。」
「…そうなんですよね。実は今も背中に感じる視線に振り返るのが躊躇われて…」
いつの間にやら閉めたはずの玄関のドアが開いていた。腕を組んで立っている青年の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「…健闘を祈る。」
あははと硬い表情で手を振ってくれた従兄弟の運命に涙を流しながら、シュナイゼルは帰路についた。


fin.


たぶん、大変でした。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました!アブノーマルルル編はこれで最後になります(平伏)。