知らなかったパパの一面ver.1(お試し版)
(パパルルーシュそのあと。色々試しているので仮の設定です。)


※『枢木スザク』『ルルーシュ・ランペルージ』のまま法・実質ともに親子関係にするとんでも捏造をしようかと思ったのですが、ややこしくなるだけなのでひとまず、『スザク・ランペルージ』とさせていただきます。ルルーシュはそのまま。














 枢木スザクは父親に似ていない。では母親似かといわれればそれはよくわからない。いるのかいないのかさえわからないから仕方がない。だからモンゴロイドとコーカソイドの明確な特徴を互いに示す外見に、自分は貰い子なのではないかと幼い頃父に尋ねた。

 『そ、んな、スザク…お前は父さんのことを疑うのか…』

 泣きそうな顔で声を詰まらせた父にそれ以上の追及は控えたが、だって似ていないものは似ていないのだ。陰ながら皆がひそひそ噂をしていたことを知っている。片や白皙で薄い色味の瞳を持つくせに髪は日本人もかくやの漆黒の絹糸。片やブリタニア人に多い薄茶の猫っ毛に健康的な黄味の肌、そして緑の目。おそらく子どもの頃から大人びていただろうシャープで理知的な顔立ちをした父に対し、息子は年を重ねても甘めの印象が残るだろうどことなく幼い顔立ち。相似点がない。この人の遺伝子を半分も受け継いでいるのか疑わしいことこの上ない戸籍上は実の父親であるルルーシュ・ランペルージを前に、息子はけれど母親の存在について訊ねた事がなかった。
 必要ないと思っていた。それは今も変わらない。父がいればスザクの生活は満たされたし多少の不便はあっても子煩悩な父は一人息子の自分をそれは大事にしてくれる。いっそ母親不在で幸運だった、いや寧ろそれは度ツボいや奈落なのではないかと思い煩うことはあるのだけれど、それでも父一人子一人の家庭に不満はなかった。
 なかったのだが、ふと気づいてしまったことには常に頭を悩ませられている。父の年齢だ。現在夏生まれのスザクが18として、冬生まれの父は36だ。
 若すぎる。ありえなくもないが若すぎる。自分は彼が18の時の子どもだというのか。
「ねぇ、父さんほんとに36?さばをよんでいないかな?」
 ずっと訊きたくてなんとなく気恥ずかしく思い訊けなかったことを、自分が18になった日に父に訊ねた。
「?さばをよむ必要がどこにあるんだ?」
「じゃあ学生時代に子持ちになったってこと?二年スキップしていることは知っている。でも大学二年の年には少なくともそういったことが必要なわけで…」
 なんとなく、なんとなく言いにくくて口ごもる。ずっと訊けなかった理由はこれだった。あまり父のそういった方面について聞きたくはない。それは母親について触れぬ理由と同じ感情に由来しているように思われた。だからスザクは自分の前では常に『父親』であった父に後ろめたい気持ちでそう尻すぼみの言葉をかけたのだ。
「…お前は試験管ベイビーでもなければ借り腹でもないし、一夜の過ちの結果でもありえない。」
「え、あ…」
「正真正銘父さんが望んで授かった、大事な一人息子だ。容姿が似ていないのは認めるよ。母親の方に少し日本人の血が混じっているから、それが出たんだろう。鑑定を依頼するか?それでスザクが安心するなら、」
「いいや、いいよ。ごめん、もう訊かないから。」
 そこてスザクは話を打ち切った。殊の外真剣な父の顔を見たせいでもあったし、父にしてみれば愉快ではないだろう過去を想像していたせいもある。スザクに母はいない。父はいい大学を出ているし間違いなく知能指数は上位5パーセントにランクインする。背も高く健康で(やや頼りない風情ではあるが)ルックスは息子の自分が心ひそかにうらやむほどだ。だから、もしかしたら何かの手違いで、押し付けられたのだとか引き取ったのだとか、もっと下世話なことすら想像していた。つまり、自分は父が望んだ子どもではないのではないかと。父が自分の学生時代の話を極力避けているようであることを、薄々感じ取っていたこともあるのだが。彼は今でも仲のいい妹と過ごした幼少期の話は好んでよくしてくれるのだが、時代が下ると途端口を噤むのだ。まあ多感な時期でもあっただろう。話したくないことの一つや二つあっても仕方がないのかもしれないとスザクは無理やり納得していた。

 まあ、実際その予想が大幅に外れる、どころではなく見当違いも甚だしいであろうことはスザクが一番よく知っている。父は職種上常に多忙を極める人ではあるが息子を気にかける姿は義務感などでは到底達し得ない極みであり、生半可な気持ちでそうあれるほど彼が暇な人間でも酔狂な人間でもなかったのだ。
 だからスザクはこの父との会話を最後に自分は父の実の息子であり、彼にとってそれは空気のように当たり前であることをいやと云うほど実感したのである。それはすなわち、父、ルルーシュに向ける己の感情がどれほどに危ういものかを痛感させることであった。
 だからスザクは家を出た。寂しいさみしいと訴える(このあたりで父もあぶないのではないかと思わないではない息子である)父を残して通学のためにと用意してもらったアパートで大多数の友人たちがそうであるように、若干不規則になりがちな自由気ままな一人暮らしを楽しんでいた。家にいれば仕事の呼び出しでいいように乱される以外は極力規則正しい生活を営むよう、スザクが物心つく頃から心を砕いていたらしい父に合わせて朝は定刻に起床し夜はそれが可能なように無為な夜更かしはしない。休日でも起きればきちんとボタンを留めたシャツ、あるいはごくまれにトレーナーなどを上に、下は裾を出さないようきっちりとベルトも締めた格好で過ごす、家の中でも基本的に身だしなみを整えて行動する(風呂上りはなんとなくだらしない父ではあったがそれはもしかしたら甘えなのではないかと、自分が大学に入ってから富に寂しがりやの甘えたになった父に、認めたくはないが父性か母性なんてものを感じ始めていることをスザクは複雑な気持ちで分析している。)人であるから、スザクもパジャマのままで自室の外をうろついたり、ジャージ以下に服装を寛げることはしなかった。家の中はやや神経質なところのある父が無言で整頓して回るので常に整然と保たれ、父がいないときは父子家庭であるために家事全般に長けたスザクがそれを維持する。
 だが学生の一人暮らしとは恐ろしいもので生活リズムは少し気を抜いただけで狂いまくる。そうでない者も当然いるだろうが少なくともスザクはそうだった。実に馴染んだ生活態度がそう簡単に変わるものでもないから男子学生の部屋としては綺麗なほうだと思うがそれでも実家にいたころと比べると無惨である。スザクが個人的に、父が見たら眉を顰めるだろうなと思うのが、食べたものをすぐに片付けないことなのであるがそれはさておき。
 この少々乱れた生活リズムを立て直そうと、スザクは一度父の待つ実家に帰ることを思いついた。訂正しよう。思いついたのは家に帰るための口実である。父には「父さん僕がいなくてちゃんとやってる〜?」と世話焼き加減に軽口を叩いて顔を合わせればいい。父は料理はできる人なのだが一人の時はどうも手を抜く癖がある。部活の合宿や修学旅行といった長期の外出から帰ったスザクがみたキッチンはあまり活用された形跡がなかったことから窺える。だから時間のある自分が父の分も食事の用意をするのが常だった。それを面倒と思うことは稀であったし、嬉しそうに目元を和らげ、時間が許す限り息子の都合を優先させようと無理をしがちな父に対して不満に思うことはそれを自覚しているスザクには不可能だった。
 一言で言ってみれば会いたい、会いたくないがそれでも会いたい。
 とまれ数々の言い訳つまりは対自分用の後ろめたさを緩和するためのエクスキューズを用意して、スザクは二月ぶりの実家の玄関の前に立っていた。

「さて、どうしようかな。」
 鍵を手に思案する。
 自分で鍵を開けて入ってもいいし、今日は父が家にいるはずの日だからインターフォンを押して嬉しそうに飛び出してくるであろう父に迎えてもらうのも悪くない。旧式のインターフォンは音がするだけでカメラ機能も通話機能もついていない。誰か客かといぶかしみつつドアを開けて、父は自分の帰省を驚きつつも蕩ける笑顔で喜んでくれるだろう。
「うん、それがいいな。」
 せっかく何も言わずに帰って来たのだ。スザクはにやけそうな頬を意識して引き締めつつボタンを押した。

 ピンポーン---

 父は、どんな顔をして迎えてくれるだろう。

「…あれ?」
 まだ寝ているのだろうか。通勤に使っている車はガレージに見とめている。家にいることは確かなのだ。
 
 ピンポーン、ピンポーン---

「おかしいな。今日は非番のはず…」
 耳を澄ましても家の中から物音は聞えない。もう一度押して反応がなければ自分で鍵を開けて入ろうと思い再度インターフォンに手をかけたその時。
ガチャリとノブを回す音がして。

「…はい、どちら?」

 不機嫌そうな声が聞えた。
 ついでにひどく気だるげな仕草も目の前に。

「え、あ、と 父さん?」
「…。」

 間違いなくスザクの父だ。ルルーシュ・ランペルージその人である。漆黒の髪も白皙の肌も細身の肢体も紫の瞳も父に間違いはない。こんな美丈夫が溢れていてはたまらない。(いや溜まるかもしれないがそれはさておき。)
 
バタン---

 開けられたはずのドアは開けたその人の手によって再び閉ざされてしまった。次いでガチャリと鍵を掛ける音。
 父は無言で家の中に引っ込んでしまった。

「…父さんだよな、あれ。」
 スザクはたった今見た人を過去の記憶と照合した。
 二つどころか一つ目さえ滅多に外さなかった胸元のボタンが三つ外れている。細身のスラックスに几帳面に収められていた裾はだらしなくはみだし。いや別にだらしない中年親父が登場してショックを受けているわけではないのだ。あれはあれであの人がやるなら格好がつくしむしろ几帳面すぎるほどかっちりした装いは見ていて少し堅苦しかった。スザクがもっぱら脳内データベースとの照会を急いでいたのは父の醸しだす雰囲気である。だらしないというよりしどけない。そして嬉しそうと云うよりは煩わしさを前面に押し出していた。
 驚き、次いで嬉しそうな顔を見せてくれるのだろうと思っていたスザクの予想を裏切り、父は寝入りばなを起こされた人間のように不機嫌な様子でドアを開け、視線はどこか冷たく同時にしていた髪を掻き揚げる仕草がひどく気だるげで艶めいて。大人の男の色気とはこういうものなのかと、今まで「かわいらしい」に傾いていた父に対する印象を覆されてスザクは無意識のうちに先ほどの父の姿をリピートしていた。非常にまずいデータの上書きがされていることは理性の部分が自覚していた。かわいらしくてちょっと色っぽいなんて、あの人の魅力はそんなもんじゃなかった。退廃的で、少し妖しい。
 スザクは些か大げさな、つまり視覚情報・聴覚情報ともにやや誇張して知覚されていくのを感じつつも、頭の中では疑問符が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返した。
「…なんで、ドアを閉めたんだろう。」
 どったん、ばったん!
「……何の音だ。」
 かすかだがばたばたと家の中から音がする。鍵を開けて入ってしまおうと、右手は鍵穴の手前で構えているが、スザクはどうしようか迷っていた。たった数秒の邂逅であるが、己の認識とは180度異なる父の姿に、目下片思い中の(認めた。もう自分は実の父親にあらぬ思いを抱いていることを無意識のうちに降参の体でもってスザクは認めた。)一人息子は恋には(たぶん)つきものの誇張と美化そして過大反応で以って身動きが取れなくなっていた。と、
 ガチャリ---
 再度鍵を開ける音がして扉が開いた。

「スザク!帰ってきてくれたんだね!父さん嬉しいよー!!」

 大げさに過ぎる気もしないではないが、スザクが当初思い描いていたとおりのオーバーアクション、しかしランペルージ家にとってはそれは普通の熱烈なハグで以って父ルルーシュは息子を迎えた。先ほどの不機嫌さを隠しもしない素振りは影もない。満面の笑み。実に爽やかに父は大事な一人息子を抱擁している。もみくちゃにされながらそっと服装を確めればいつものようにきっちりと、このまま職場に出て行けそうな代物だ。




 …あれは夢だったのだろうか。







中途半端に終わってしまい申し訳ありません。品行方正で生真面目温和、なパパが実は駄目男だったらおもしろいかもと思ってみました断片です。母親やルルの過去については、現代パラレルなので突飛なことはいたしませんがいつか必ず。


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