傍から見れば
「あら、ご夫婦そろってお散歩ですか?いいですねぇ。」
ルルーシュは隣を歩く息子が凍りつくのを見て苦笑した。絶句とも言うのだろうか、ぱくぱくと、いつもは達者な口を操れないでいる。
「親子ですよ。この子は夫にそっくりなんですけどね。」
「あら、あらあら!こんなに大きなお子さんがいらっしゃるなんて、若くてうらやましいわぁ。」
悪意のない純粋な驚きだったので、ルルーシュはそのまま世間話に花を咲かせることにした。この時間にはいつもわんちゃんとお散歩を?まあ、あそこのおうちでも今度あかちゃんが?お友だちになれるかしら、あら今度あそこのお店が閉まってしまうの?不便になりますねぇ。とりあえず時間をおいてやれば自分で解凍するだろうと、ちらりちらりと気にかけながら他愛もない話をする。街区が違うブロックを散歩コースに遠出をしてみたのだが、こちらはご近所づきあいもなく息子のことを知らない人もいるだろうとは思っていたのだ。だから選んだ。ルルーシュとしては事情を知らない他人には自分たち親子がいったいどのように映るのか気になるのである。
本当は手を繋いで公園デビューなるものもしてみたかったし、「あのねおかあさん、ようちえんでおともだちができたんだ!」と言うのに「女の子?男の子?」「…かわいいね、おんなのこなの。」ともじもじ答える幼い息子ににまにましてもみたかった。誕生日にはバースデーパーティーを開いてやりたかったし、雨が降ったら昔――叔父がそうしてくれたように――こっそり傘を持って迎えに行ってやりたかった。
できなかったことは多いのである。悔いても仕方がないし時間は元に戻せない。『俺たちの力は、無闇に使っていいものじゃない。いいね、ルル…――』何度も祈るように言い聞かせられた言葉を破るつもりはなかった。だからせめてと、おそらく恥ずかしいのだろうに付き合ってくれる息子の優しさに甘えて外出してみたのであるが、どこへ行っても言われるのは『若い』の一言に尽きる。複雑でもあるがあからさまに不快な意味を込められて言われるわけでもないその言葉は、存外心地よいものだった。自分は日本人よりは大人びて見える顔立ちらしいし、息子はスザクに似てあどけないものだからきっぱり親子ですと断ってみれば人のいい皆は好意的に見てくれた。
「ほんと、綺麗なお母さんでいいわねぇ。お友だちに自慢できるでしょう。」
器量よしのカップルさんが仲良く散歩してるわぁと思っていたのよと、初老のご婦人がにこにこと息子に水を向けた。ルルーシュはなんと答えるのだろうとどきどきしながら見守った。
「…ええ、まあ。母を見た友人はみな、一度は父を犯罪者にしたがります。これでも36歳のおばさんなんですけどね。」
「あら、それはお父さんがかわいそうねぇ。あなたもだめよ?おばさんっていうのは私みたいなおばあちゃんのことを言うの!」
そんなことありませんよと如才なく受け答えする息子はどうやら無事常温にもどったらしい。おばさんと言われたことは密かにショックであるが、ここで『もちろん自慢しまくってますよ全力で!』と言われるのはさすがに恥ずかしいし適度な謙遜を好む日本では抵抗を感じる人も多いだろう。ころころと笑いながら話をしているご婦人は愉快そうでほっとした。見た目もそうだが自慢の息子は対人面に関してもスザクに似てくれたらしいとほっとする。自分はどうしても昔から人付き合いが苦手でもどかしい思いもしたのだ。『笑ってごらん』と、懐かしい声が頭の中で聞える。今はスザクの声に重なりかけているそれだけれど、忘れることはないだろう。
ふと想い出に浸りかけていたルルーシュの顔を息子が覗き込んで言った。
「母さん?帰るよ。ぼうっとしてどうしたの。」
「いや、なんでもない。『カップルさん』だって。スザクに言ってやきもち焼かせちゃおう。」
「うげ、ほんとに妬くんだからそれ禁止!時々父さん大人気ないんだよ!」
弱りきった顔で言うのにあははと笑って、家路に着いた。
fin.
大学にも出かけていって息子を慌てさせるんだと思います。
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