【タイムトラベラースザクで小話です:シリアスバージョン子ども付き。】
※名前はスザクジュニアにしたかったのですが、長いので母の日シリーズのやつ使います。オリジナルとか、申し訳ありません。
「…ねぇ、ルルーシュ。この子、だれ?」
卒論の下書きを提出して帰って来たスザクが、ひどく訝しげな顔で訊ねた。ルルーシュの膝の上には5歳ほどの男の子が乗っている。
「くるるぎあずま、五さいです。こんにちは、パパ。」
「……。」
「よくできたな。」
いい子いい子と頭を撫でられて嬉しそうにしている子どもをじっと凝視する。パパと言ったか。自分のことを。
「…ねぇルルーシュ、いつの間に赤ちゃん産んだの?」
来年の今頃には確かにもう一人家族が増えていてもおかしくはないのだが(増えていないと困るのだが。現在ルルーシュのおなかの中ですくすくと成長中だ。)。スザクは引き攣った頬を指で撫でさすりながら仲のよさそうな母子(仮)を見つめた。
「お前が大学に行ってる間に。」
「ぼく、一じかんに一ねんぶんおおきくなるんです。」
「へぇ。それはすごい。」
あははと、とりあえず笑ってみる。花が飛んだ。背景に。子どもの手書きのチューリップとか。
「んなわけあるかい!だれ!?誰の子!?」
「そんな昼メロチックな叫びを上げるなよ。正真正銘お前と私の息子だ。ほらお前に似てるだろ、このくるくる。」
「ねぐせがついちゃって大変なんです。パパのいじわる。」
「僕のせいなの!?僕も毎朝大変なんだよ!ってか五歳児がそんな髪型気にするんかい!」
「ママ、パパってデリカシーがないんだね。ぼくパパみたいになりたかったのに、これじゃあがっかりだよぅ。」
「いやいや早まるんじゃないぞ。人は成長するんだ。このスザクも父親になれば少しは落ち着いてかっこよくなる…かもしれない。」
「微妙な間はいらないよ!ってかこんな五歳児いてたまるか!」
「私は五歳でこのくらい喋った。頭の良さは私似。」
「ママ似ー。」
「うわぁすっごく説得力あるぅ!……本当なの?」
「とりあえず信じておいたほうがパパはしあわせだとおもう。あ、ちがうや、平和?」
「…五歳?」
「話が進まないからはっきり言おう。本当にお前と私の子どもだ。未来からやって来た、今私のおなかの中にいる子が大きくなった姿だ。…なんとなくわからないのか?男親って言うのは薄情なんだな。」
「おとこは子どもっぽいから。」
「ふむ。お前はもっといい男になるんだぞ。」
「がんばるー!」
…という出会いだった。我が子との最初の邂逅は。悲しいことに今まさにこの世界に生まれ出たばかりの赤ん坊を、父親になった喜びを込めて抱きしめるとか言う、ステレオタイプだが古今東西歓喜の瞬間の一つとして数えられる体験はいつの話になるのやら。
スザクは今目の前で、籍を入れたばかりの妻となったルルーシュ-少しおなかが膨らんでいる-の世話を甲斐甲斐しく焼く息子に眩暈がした。
「母さん少し寒くなってきたからこれ羽織って。お白湯持ってこようか。お茶じゃ眠れなくなるから。」
「悪いな。こんなちょくちょく来てくれなくていいんだぞ?学校とか、忙しくないのか?」
「今は父さんが頑張ってるから大丈夫。中堅どころの製薬会社と契約できて、研究が軌道に乗ったんだ。帰ったら僕も手伝うけど。」
なんだろうこの会話。目の前の、来るたびに大きくなっている息子(もう信じることにした。)はそれでもまだ17やそこらに見えるのだが。
「ああ、もう卒業しているんだったな。スザクは大丈夫なのか?無理はしていない?」
「父さんはまあ、元が文系から転向した人だからね。でもあの人やっぱり頭いいよ。母さんに会いたい一念かもしれないけど、チームの主任も一目置いてる。母さんが心配してたって言ったらきっと喜ぶよ。」
「そうか…。」
「…ねぇ、話が見えないんだけど。僕薬でも作ってるの?モル峠を越えられなかったこの僕が?」
スザクはルルーシュと息子の話が途切れた隙を狙って割り込んだ。この息子はどうも自分がいない時を狙ってやってくるらしくルルーシュとなにかこそこそ話をしては挨拶もそこそこに帰ってゆくから、未来で自分やルルーシュがどうしているかなど聞けたためしがない。製薬会社?無理だ、絶対。
「…それ本当?」
呆れを通り越して心底驚いた顔を向けられる。居心地は悪いが事実だ。
「ちなみに大学では算数っぽいものを全力で回避した。」
「いやせめて数学って言ってよ。ぽいってなんだよぽいって。…本気で努力したんだな。母さん。僕、父さんを見直した。」
「やればできるやつなんだろう。でもそれはたぶん言ったら傷つくから聞かなかったことにしてやれ。」
なにやらしみじみと言い合う二人についぞついてゆくことの出来ないスザクだったが、事の全貌を知ることになるのは数年後のことだった。
ルルーシュが死んだ。完治はまずありえない、致死率の高い難病の一種だった。生意気で可愛げのない息子だったが、産声を上げたばかりの小さな身体を腕にすれば愛おしさは溢れて。ルルーシュと三人で写した写真はいつもケースに入れて持ち歩いている。四歳。まだ幼い子どもを遺していってしまった。
「まま…」
しっかりと手を繋いでいたはずだ。小さな体温がいつの間にか消えていた。
「っ?アズマ!?」
駆け回って探しても見つからない。もしやと、思い当たったのはあの冬のワンシーンだ。安物の指輪を買って、ルルーシュの姿を探して。ようやく彼女の姿を見つけたとき、彼女はある男の腕の中にいた。茶色の髪をして、すぐそばには小さな子ども。
「あれは…ッまさか!」
記憶を辿る。今の自分の装いを見下ろす。濃茶のトレンチ…確かあの男もそうではなかったか…子どもの服装は…
「僕も行けるのか、過去に。ルルーシュ、アズマ、今、行くから。」
「------じゃあ父さん。行って来るよ。」
黒のアタッシュケースを抱えた息子が振り返って言った。もう青年の背中をしていた。自分は既に若くない。
「ああ。ごめんな。父さんが行けたらよかったんだけど。」
「何言ってるのさ。母さんがキャリアだった分僕の方が力は強い。父さん、あのあと帰ってから寝込んだじゃないか。」
随分昔の話だ。あれが、ルルーシュに会った最後だった。元気だった彼女を抱きしめた最後の記憶。試薬の色が染みて荒れた両手を見下ろす。もう三十年近く、がむしゃらに研究に打ち込んできた。時を越える能力が存在すると知ったとき、心を決めた。絶対にルルーシュを取り戻す。彼女を病魔になど奪わせない。
「何度か過去に飛んで、業界にコネクションを作っておいた。許可が下りるまで二年はかかるだろうから、保険をかけて僕が生まれる前まで遡って仕込んでくるよ。“天才科学者枢木スザク”は誕生しない。…ノーベル賞でも獲ってからにする?」
おどけた声で息子が言う。画期的な治療方法だ。確立すれば何千と-もともと発症率が低くだからこそ研究が進まない厄介な病であった-いう患者の命が救われるだろう。応用分野からの共同研究の申し出が引きも切らない。だが疲れた声で、父親は応えた。
「いいや。父さんはね、母さんのためだけに今までやってきたんだ。悪い父親だった。すまなかった。」
寂しい思いもさせた。息子が何度も過去の自分たちの前に現れたのはきっと、毎日毎日研究室に通いつめて一緒に遊んでやることもしなかった父親に、幼い子どもは母のぬくもりを求めたのだ。大きくなってからは気楽な学生生活を早々に終えて手伝ってくれた。枢木父子の名は、この世界で知らない者はいないだろう。
「まあ、仕事人間ではあったけど。でも僕はそんな父さんを尊敬もしているよ。しぶといところとか。三十年も一人の女性を思って生きるのは、人によっては至難の業だと思うしさ。じゃあ行って来ます。帰ってきたら、母さんと二人で迎えてくれると嬉しいな。僕は、きっと算数ができないままの父さんをみて笑うんだろう。」
にやりと、姿を掻き消えた息子を見送る。あの子-もう子どもではない-だけはこの研究に明け暮れた年月を胸に生きることになるのだろう。一人だけ、時の流れから外れた生を強いてしまう。本当は自分が過去に飛べたらよかったのだけれど、もうそんな力は残っていなかった。
「僕も年をとったなぁ…。ルル…目が覚めたら、君に会えると、いい…。」
「スザク!起きろ!早くしないと飛行機に間に合わなくなるぞ!ほら、アズマが車出してくれてるから急いで!」
「…んー?……わわっまずいあと一時間もない!」
顔を洗って身支度を整えている間にルルーシュがスーツケースの中身を調べている。
「ったく、起こしても起きないんだからこの寝ぼすけ!クビになっても知らないからな!ほらネクタイ曲がってる!」
「僕は成績優秀な営業マンなのできっと大丈夫です。 ありがと、じゃあ行って来ます僕の奥さん。」
チュ、と軽く音を立てて頬にキスをすればいつまでも初々しい彼女はほんのりと頬を染めて行ってこいと背中を向けてしまった。にやけて後を追うといい加減にしろと言いながら今年大学に入ったばかりの息子が腕を引く。
「父さん、もういい年なんだから落ち着いて。母さんもいちいち恥ずかしがらないの。こういう人なんだから。」
「むー、父親にその言い方はない!ルルー、息子がいじめるよー。」
「ああもう情けない声出さないでよカナシクなるから!ほら行くよ、便数ないんだから乗り逃したら大変でしょ!」
いくつになっても若い父親に溜め息をつきつつ、ずるずると引き摺られていく夫を苦笑いで見送る母に手を振る。
「ルルー!すぐに帰ってくるからね!愛してるー!」
「わ、わかったから叫ぶな!少しは息子を見習え恥ずかしい!……わたしも、待ってるから///」
やれやれと肩を竦める。この夫婦は万年新婚夫婦だ。仲良きことは美しきかな…限度を知ってほしいと思わないこともなけれど。
「父さん、よかったねぇ。」
「ん?何か言った?」
「いや。飛ばすよ。捕まらないように祈ってて。」
「うわっ安全運転で頼むよ!」
fin.
とかいう、だいたいこんな設定を考えていたような気がします。メモを小話っぽくむりやりつなげただけなのですが、あのまま終わらせると薄暗いだけなので、蛇足おば(平伏)