一人の化け物の女王様がおりました。
彼女はたいそう美しく、子どものように無邪気でした。

心の優しい少年が彼女の元におりました。
女王様が誰かに夢中になる度に、涙を呑んでおりました。

もう一人の女王様が、姉である女王様に言いました。
彼、あんまりいじめちゃだめですよ?そのうち愛想をつかされてしまいます。

女王様は驚きました。うんうん唸って考えます。
どうしたら彼と一緒にいられるかしら?どうしたら彼を私のものにできるのかしら?
少年は女王様のことが好きでした。深く愛しておりました。そしてとても律儀な性格でした
そうか!
女王様は、最初で最後の決心をしました。


子・作・り・しましょ♪


「ちょ、ルルーシュ、ちょっと待ったぁ!!」

大きな声が響き渡った。次いで誰が待つかと余裕の返事。
枢木スザクは大きなチェーンソーを構えて艶やかに微笑む美少女を前に、目を白黒させながら後ずさった。
「待った、待って、落ち着いて話をしよう。」
「いいぞ、俺は落ち着いているからお前が落ち着けスザク。」
「いやいやいや!そんな凶器を明らかに凶器として使おうと迫ってくる君を相手にどう落ち着けって、あれ違うそうじゃなくてなんでそんな殺気立ってるの!?」
華奢な少女が身の丈ほどもあるチェーンソーを抱え上げ、一歩二歩と近づいてくる様子ははっきり言って怖い。本気だとわかるからなお怖い。
ルルーシュは吸血鬼の女王だ。人外の化け物だと、日ごろから自分で言うようなあっけらかんとした少女であるが、実のところは何百年も(本人曰くもう歳を数えるのがめんどくさくなったらしい)生き続けておりその知力体力身体能力、はっきり言ってこの世の生き物とも思えない。姿だけを見れば、16やそこらの、そこらにはいないような美少女で、艶やかに伸ばされた黒髪にアメジストの瞳、白皙の肌そしてその造作と、どこをとっても非の打ち所のない絶世の美貌を誇る。その双子の妹であるユーフェミアも、桃色の髪にふっくらとした唇にまろみをおびた身体と、種類は違うが道行く人々が振り返る美しさだ。スザクは密かにルルーシュの方が好みだがもうすこしユーフェミアのやわらかさもあったらいいのと思っている。密かに胸の中だけで思うことであったから、それをうっかり口に出してルルーシュの空よりも高いプライドを傷付けたゆえの現在進行形の窮状では実はない。何故だかわからないが、お隣に住むルルーシュが朝も早よからにっこり笑ってちょっと死んでほしいんだとのたまった。
当然逃げる。追いかけられる。そして捕まる。間近に迫る、ルルーシュの顔。
ああ今日もなんて綺麗なんだろうと思う余裕は余裕ではなく逃避でしかなく。最後の足掻きで理由を尋ねる。

「俺、お前の子どもがほしいんだ。」

「うん!?」
「分かってくれて嬉しいよ。」
「いやいや違う、今の違う!なんで!?いくらでも作るよ!?」
「そうか。よかった。じゃあ死んで。」
「なんでー!?」
いささかエキセントリックに叫び続けたスザク少年は、しかし中々に強かな性格だった。ルルーシュの子作り宣言にちゃっかり諾と答えていたのはしっかりはっきり彼の願望からくるところの気持ちであったし、いつもいつも見目のよい男を見かけてはきゃあと叫んでユーフェミアと品定めに余念がないルルーシュを見てカナシイ気持ちになっていたのは本当だ。彼女ほどの美人が(ついでに年も盛大に食っているため世界諸々酸いも甘いも知り尽くしている。)望んで手に入らない男などゼロに等しいと思うのだがどうにも彼女は本命をこれと定める気がないらしく昨日も人間ウォッチングに一日を費やしていた。そのあと、相手にされずにしょんぼり背を向けたスザクを見かねて姉より人情の機微に聡いユーフェミアが何事か囁いていたような気がするそれが原因か。
「ユフィ、ユフィなの!?ルルーシュに何か言ったの!?お姉さんをよからぬ目で見てごめんなさいベッドのお供になんかしてごめんなさい!!」
「あらスザクはベッド派なのですか。」
「そこにつっこむの!?」
ルルーシュの隣でおっとりと微笑んでいたユーフェミアがのほほんと言った。
「父親が入ってきて微笑ましく見守るんだな。」
ルルーシュがあははと笑いながら口を挟む。
「お母様は少しショックでしょうね。」
「リスクを考えるとバスルームだろう、なぁスザク?」
「百年の恋が醒めるぅー!!」
スザクが本日最も悲痛でよく響く叫びを上げた。


*******


「…で。建設的に話をしよう。死んでというからには何か理由があるんだろう。僕のしごく常識的な考えで言うと、死んだら子作りできません。」
何とか押し留めて(危ないものは部屋の隅に片付けて)、スザクはこの目の前のぶっとんだ姉妹に言った。
「いや、そのままでも無理なんだ。お前がいくら俺の○○で▲▲して◇◇で●●してても無理なんだ。」
「…百年の、」
「百年、お前は生きられないだろう。」
ルルーシュのあられもなく恥じらいもなく、ついでにデリカシーもない言葉に先ほどと同じ台詞を吐こうとしたスザクは存外真剣な声で遮られてあれと顔を上げた。(憧れていた少女に伏字相当な言葉をけろりと言われ、掛けたソファにめり込みかけていた。)
「あのですね、スザク。私たちが不老不死なのはご存知でしょう?」
「うん、それは知ってる。」
「ついでに普通の人間とじゃ子どもを作れないんだ。」
と、そこから始まりルルーシュは時にユーフェミアと交代しながら吸血鬼の特殊な生態について語った。当該ジェイソン事件に関わりのある部分だけを抜き出すとこうだ。
彼女たちは翼手と呼ばれ吸血鬼の中でも生物ピラミッドの頂点に位置し、必ず双子で生まれ、互いの血液が体内に入ると死にいたり、それによって敵対する仲間もいるそうだが自分たちは幸運なことに仲がよく、互いの望みのためには協力を惜しむつもりはない。自分たちはシュヴァリエ(仏語で騎士だそうだ)という自分を守り生涯ともに過ごす血を分けた吸血鬼を作らなければならないのだが、非常に不可解なことにこの自分の血で作ったシュヴァリエとでは子どもが出来ない。双子の片割れのシュヴァリエとでないと次代の翼手は生まれない。
「で、そのシュヴァリエになる過程として一度死んでもらわないとならないんだな。」
事もなさげにルルーシュは言った。明日晴れてもらわないと洗濯物乾かないんだよなと言うのと変わらない暢気な声だ。
「…つまり僕にユフィのシュヴァリエになれと?」
「そう。」
こっくりと頷く仕草もいつものとおりで。これはシュヴァリエとやらになった後にあっさり捨てられはしないだろうかとスザクが不安に思った時、いつのまにやら隅に立てかけておいた凶器をユフィが引っつかんで背後に迫っていた。
「じゃあさっそく、」
窓から捨てて置けばよかった。
「待った、話は分かったけどまだ心の準備がッ!!うわあぁぁぁぁ---」


*******


◆◇◆尺の都合上説明義務を果たしたと言うことでスザク氏には一度生まれ変わってもらいました。◆◇◆


*******


ぼんやりと光をとらえる。薄明かりが差し込んでいる、今は夜だろうか。
「…ここは」
「スザク?目が覚めたか?気分は?」
気遣わしげな声だった。そっと前髪を掻き揚げられる感触がひどく心地よい。
「ルルーシュ?」
「ああ。ここは俺の部屋、のベッドの上。じゃあさっそく」
「は!?ちょ、ま、何脱いで、って何も着てないー!?」
いい雰囲気だったのは気のせいだった。毛布をめくり上げてのしかかってきたルルーシュが自分の身体に巻きつけていたシーツをはらりと落とせば現れるのは一糸纏わぬ白い裸体で。(これはある意味いい雰囲気だ。)
「よかった、目が覚めたら大丈夫なんだ。おめでとう。これでお前は俺たちの仲間入りだ。」
「なっちゃってるの、なっちゃってるの!?あれ傷がない!え、すご…」
「俺のからだ?」
「いや跡形もなく消えている致命傷…ルルーシュもすごいね、綺麗だ…」
うふふとポーズをとって見せたルルーシュが、別のものに気をとられていたスザクに拳を握り締めたとき天然タラシはうっとり言った。ルルーシュ、ほんとにいいの?
「もちろん。そのために死にっ放しになっちゃうかもしれない危険な橋を渡ってもらったんだから。」
「そ、そうだったんだ…でもまあ結果オーライで許しちゃおうかな。こんなご褒美ならおつりがくるってものだよね! いただきまーす!」



◆◇◆子作り中◆◇◆


「…で、ちょっと真面目な話。ルルーシュさ、僕のこと好きだったの?いつも見向きもしなかったくせに。」

事が済んでいわゆるピロートークの気だるい甘さの滲む声でスザクは訊ねた。ルルーシュが涙の跡が残る頬を僅かに赤らめてそれに答える。
「…恥ずかしかったんだ。好きな子ほどいじめちゃうあれ。」
シーツに潜り込もうとするルルーシュの肩を掴んで留め、スザクは彼女の顔を覗き込んだ。
「そんな理由?こんな嘘までついて?」
「嘘って、なにが…」
ルルーシュが顔を強張らせた。
「吸血鬼なんてさ、嘘だろう?さっきの騒ぎもみんな嘘。僕は痛みなんか感じなかったし、きっと薬か何かで気を失わせたんだろう。」
手の込んだことをするものだねと、スザクは滑らかな自分の上半身を見下ろして言った。傷などどこにも見当たらない。吸血鬼なんているはずない。すべてルルーシュとユーフェミア姉妹の戯言だ。彼女たちが隣に越して来た、最初からわかっていた。
「…ばれちゃったか。」
残念そうに眉を下げるルルーシュに、スザクも笑みで返して続ける。
「さすがに君たちの言うことをすべて信じるなんて無理があるよ。荒唐無稽にもほどがある。」
不死身?シュヴァリエ?少女二人の妄想か、人にはかなり素直で騙されやすく見えるらしい自分を揶揄かってのことだと分かっていた。チェーンソーはまぁ、持てないことはない。
「嘘つきは嫌いか?」
不安そうに、だが持ち上げた手の動きは絡みつくように。ルルーシュはスザクの首に腕を回した。目を細めてスザクが応える。
「いいや。こんな大騒ぎして、ユフィまで一緒になって。雁字搦めに仮面を被って、ようやく素直になってくれたルルーシュのことが、とても好きだよ。」
「ほんとうに?好き?」
「うん。愛してる。結婚しようね、ルル。」
「嬉しい、スザク。大好き!」


*******


「…ユフィか。」
「はい。うまく、いきました?」
再び寝入ったスザクを月明かりに見下ろしていたルルーシュが、気配を感じて低く言った。音もなくユーフェミアが滑り込む。
「問題ない。もう一度目が覚めたらお前の血を飲ませてやれ。そうすればこいつはお前のものだ。」
「嬉しい!ありがとうございます、ルルーシュお姉様!」
言葉のとおりの喜色も露わに、両手を合わせてユーフェミアは礼を言う。目を細めてそれを受けたルルーシュがその細い指先で眠るスザクの髪を弄ぶ。
「お互い様さ。俺はこれから先お前とこいつに危害を加えないと約束しよう。お前たちも、俺と、この子には手を出すなよ?」
ルルーシュはそっと自分の腹に手を当てて言った。
「もちろんですわ!お姉様はスザクの子どもを手に入れる。私はスザクを手に入れる。棲み分けは大切ですもの、約束も協力のうちですわ。」
にっこりとユーフェミアが笑う。その目が一瞬紅く揺らめくのをみとめて。ルルーシュもふとそのアメジストの瞳を紅く瞬かせる。

全ては二人の姉妹の決め事だった。意中の男の、子どもと男自身。
ルルーシュは前者を望み、ユーフェミアは後者を望んだ。二人は吸血鬼の女王だった。互いの血を介して互いの死をもたらす敵だった。だが二人はある日思ったのだ。殺し合わなくとも、互いの領分を侵さなければ共存することも出来るのではないか?互いを侵さないと確かな約束さえあれば、日々を穏やかに過ごすことができるのに。二人は毎日考えた。そして考えているときに一人の少年に出会った。二人は双子で、とてもよく似ていたから好きになる人間も同じだった。稀に違う男を選ぶときもあったけれど、多くは重なりなぜか好いて我がシュヴァリエにと望んだ男とは子どもができず。シュヴァリエは血を受けた女王から、再び目覚めの血をもらうことで女王だけを見るようになるから、見向きもされなくなることを苦にしてみんなみんな、互いのシュヴァリエは殺してしまった。だから。
今度は失敗しないように決めたのだ。スザクはルルーシュのことが好きだったようだけれど、ユーフェミアの血を飲ませてしまえばいずれ忘れてしまうだろう。ルルーシュを愛したことも、愛してその身体を抱いたことも、ルルーシュが囁いたその心も。

「さっきは冷や冷やしたよ。別に押さえつけてしまえばなんということもないが、はは、俺たちって想像力逞しい夢見がちな女の子らしいぞ。」
「あら、ではしばらくの間はここに留まって、慣れていただいてから移動した方がよろしいかもしれませんね。あと二、三年は大丈夫でしょうか。」
吸血鬼は年をとらない。少年少女の外見の自分たちは一つところに留まることは不可能だ。
「そうだな、まぁ危なくなったらどこへなりとも行けるだろう。人間みたいに弱い生き物じゃないんだから。」
「お姉様はどうされるのですか?赤ちゃん、こちらでお生みになられます?」
いや、と一度スザクの寝顔に視線をやって立ち上がったルルーシュは応える。
「さすがに父親だと言う自覚は残るだろうから、俺がここにいるのはまずいんじゃないか?俺は、そうだな、シュナイゼルのところにでも行くよ。」
「まあ。申し訳ありません、お気を使わせてしまって。」
いいや、構わないと言う姉に妹は嬉しそうにありがとうございますと応える。扉に足を向けるルルーシュの背中にユーフェミアは言った。
「シュナイゼル・エル・ブリタニア?あの方、お姉様のシュヴァリエになったあと私に言ったんですのよ。」
シュナイゼルは珍しく姉妹二人の好みの一致を見なかった幸運な男だった。つまり、ルルーシュのシュヴァリエの中でユーフェミアに殺されずに生き残った唯一の。
「なんて?」
「『あなたのシュヴァリエであれば、ルルーシュと子を成せたはずなのに』と。まあ、あの方なら執念でお姉様への想いを残しそうな気もいたしますけれど。私はそんな危ない橋を渡りたくはありませんわ。好みじゃない男に付きまとわれるのなんてごめんです。」
おっとりと優しげな風貌でいて、ユーフェミアは言うことははっきり言う。シュナイゼルは彼女のお眼鏡に適わなかったらしい。ルルーシュは苦笑してじゃあと手を振った。ええまた、いつかこの人の子どもを見せに来て下さいなと、返すユーフェミアの声を最後に扉が閉まる。



「…俺の手に残るのは、お前の一部でいい。心なんて変わるものだから。」
血の繋がった、お前の子どもだけでいい。

ルルーシュは何百年も生きてきた化け物だった。人の世の、酸いも甘いも知り尽くしていた。汚いものも醜いものも、美しいものも清らかなものも、永い時間の中で目にしてきた。そして何人もシュヴァリエを作り出しては、自分に傅く彼らに疑念を抱いた。私の血のせい?好きだと囁くその言葉は、私が与えた血のせいなの?
はじめは本当に愛して伴侶と選んだ人間だった。彼らはルルーシュだけを見てあなたが一番と頭を垂れる。それがとても嬉しかった。シュヴァリエの性だとしても決して自分を裏切らないのならそれでもいいと思えていた。だが今はもうわからない。ユーフェミアとシュヴァリエを奪い合って、何度も殺し、殺されていくのを目にした彼らは自らの主だけを思って死んでいった。ルルーシュ、あなたに会えてよかった。そう言ってばらばらと崩れてゆく身体を抱きしめることに疲れてしまったのかもしれない。ねぇ、自分の命よりも私のことが大事なの?死ぬことよりも私と離れることが辛い?
ねぇ、その心は作られたものじゃなくて?

「ルルーシュ、迎えに来たよ。」
夜が明ける前の、冷え切った空気に凍っていた身体を抱きしめる者があった。
「…シュナイゼルか。お前のところに、行こうと思っていた。」
「『帰って』、来てくれると嬉しいな。私はいつでもルルーシュのために腕を広げているよ。」
シュヴァリエの身体は冷たい。一度死んで、生き返ってからもそれは本当の生ではないのだろう。触れた腕は氷のように熱を知らない冷たさだった。
「シュナイゼル。お前は、全てを知って、私のシュヴァリエになることを選んだたった一人の人間だった。」
ルルーシュはその冷たいぬくもりに身を任せて呟いた。人の身の暖かさを知ったのは、この男に抱かれたときだった。愛していると衒いもなく囁かれ、あの頃もうシュヴァリエを持つことをやめようと思っていたルルーシュは投げやりに彼に全てを話したのだ。自分は不死身の化け物で、ともに在りたいのなら同じ異形へ身を堕とせと。
「君のことを愛していたからね。知ることは喜びでともに生きることが出来るのなら本望だった。それは今も変わらない。」
冷たい指が頬をくすぐる。あたたかいと、感じてしまうのは錯覚だろうか。
「…もう一人、いるんだ。ここに、」
シュナイゼルが目を細めるのに俯いて、そっとその自分よりも大きな手をそこに重ねる。スザクのことは好きだった。でも殺してしまうのも殺されてしまうのも、心を疑うのも嫌だった。だからこの子だけでいい。
「ルルーシュの子どもだね。なら私の子も同然だ。一緒に育てよう。」
「パパって、呼ばせていいか?」
「君がそれを許してくれるなら。さあ、『我が家』に帰ろう。こんどはオーストラリアに白い家を建てたんだ。」



女王様は一生懸命考えました。
どうしたら彼と一緒にいられるかしら?どうしたら彼を私のものにできるのかしら?
少年は女王様のことが好きでした。深く愛しておりました。
そうか!
女王様は、最初で最後の決心をしました。

疑う前に離れよう。多くを望めばすり抜ける。私のこの手に残るのは。


あなたの欠片だけでいい。





end.



このあとスザクさんはルルーシュを探す旅に出ると思います。一度騙されているからちょっと性格悪くなっていて、幸せなエル家に激震がはしったりするのだと思われます。…お目汚し失礼いたしました。


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