「やあ、枢木。元気にしているか?」
「…こんにちは。いきなり現れるのはやめてください。驚いてパワー絞っちゃいます。」

出会いは空の上4

スザクは航行時間の短いアジア便のフライト中、二人編成で初めて組んだ機長がトラブルパッセンジャーの対応のために席を外している時。
不意にコックピットに現れたルルーシュに一瞬心臓を撥ねさせた。この人は気配もなく姿を現す。霊なら霊で、登場時・退場時何らかの徴候があってしかるべきなのに、ルルーシュは暢気に手を振りながら空いている機長席に滑り込むのだ。今日は天気は快晴。シップの状態もすこぶるいい。こんな空は、飛ばしていてとても気持ちがいいものだ。
「今日は戻ってからドメス(国内線)一本ってところか?」
「そうですね。ミヤザキからナリタへ飛んで明日・明後日はオフです。」
「もっとインター飛ばないか?ロンドン行こう、ロンドン。」
ルルーシュがふよふよと浮かび上がりながら言った。スザクの後ろ側で、シートに手をかけているらしい。なんとなく、ひんやりとした気配を感じてスザクは大人しく座っていてくださいと隣の席を指差した。ルルーシュはヨーロッパに行って戻ってくるフライトがお気に入りらしい。ロンドンの夜景を眺めるのが好きなのだと、以前も今のようにふわりと現れてスザクを驚かせたときに言っていた。
あの緊急着陸の事件以来、ルルーシュは時折スザクの前に姿を現す。コックピットがスザク一人になるのを見計らっていつの間にかそこにいるのだ。神社の生まれのせいかどうかはわからないが、スザクは物心がつく前から色々な科学では説明の出来ないものを見たり引き寄せたりしていたらしい。ルルーシュもその一人なのだろうか。
「それは半月前に飛んだでしょう。長距離便は離着陸の回数が少なくなるから嫌なんですよ。僕も早く機長になりたい。」
勤務時間は当然飛行距離で計算されるものだから、長時間飛び続けるヨーロッパ便の場合、国際線や短距離のアジア便が日に複数本就航するのと比べて離着陸の回数が少なくなるのは当たり前だ。パイロットの操縦テクニックを何を以って計るかそれは一概に言えるものではないのだが、少なくとも過去の統計上もっともトラブルが発生する離着陸時の対応、経験がその一つに数えられるのは確かだ。実際、機長に昇格するためのライセンス試験の前は離着陸の訓練を多くこなすために国際線一本に異動になる。スザクは高校、大学を出て一度民間の商社に勤務したあと訓練学校に入りなおし、そのあと今のBAW社に採用が決まったために出だしが一歩遅れている。もっとも、転職してくる人間が多い職種ではあるし40代で副操縦士をやっている同僚も多い。転職組みで一番多いのは自衛隊の航空部隊からの再就職者であるが、彼らは操縦センスがいい。ただマニュアルどおりに飛ばせばうまいと言われるわけではなく、高速で移動する乗り物であるから常に先へ先へ思考をめぐらし、またコンピューターからは読み取れない微細な機体の状態、空の模様を把握する能力はある意味持って生まれたセンスと言ってよいのではないだろうか。ルルーシュはたぶんパイロットが天職なのだ。同時に複数のことを考える頭の回転の速さは言うまでもなく、データとして上ってくる数字に対する几帳面な性格、それ以上に飛ぶのが好きという条件が揃って若干30歳で肩に四本線を光らせていたランペルージ機長を生み出したのだ。未来で、スザクはルルーシュのあまりにも人間離れしたテクニックを目にして度肝を抜かれることになるのだが、それはまだ先の話だ。今はまだ大きな問題が彼にはある。

「スザク、スザク。敬語やめろよ。同い年じゃないか。」
人懐こそうに名前を呼んできたルルーシュに、スザクはちらりと視線を投げてまた目を前方に戻した。


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