出会いは空の上6(完)

藤堂機長からルルーシュの話を聞いた後、スザクはナナリーに会いに行った。二度目の邂逅はその後のことだったので、本人(幽霊状態の彼)に礼を言うことができないならせめて彼の妹に、できれば眠っている彼に。直接会って感謝の気持ちを伝えたかった。限界だった自分を励まし、臨時では在るがキャプテンとしての務めをまっとうすることができたことへの、心からのありがとうを。根底に流れるのは多分に憧れの気持ちが大きく、まだ好意であることは間違いないが純粋なものであったはずだった。また会うことが出来ないだろうか、どうにかして彼の目を覚ましたい。あなたは今の僕の目標で、なら僕の前を歩いてほしい。ただ、そう思っていただけなのだけど。
『どうぞ。…ルルーシュお兄様。枢木スザクさんがお見舞いに来てくださいましたのよ。』
昨年結婚したのだというナナリーは、苗字はもうランペルージではなかったしルルーシュとはあまり似ていなかったが、兄に対して注ぐ眼差しはスザクが彼から受けたそれとよく似ていた。目を細めてそっと微笑む様子は確かにこの二人を兄妹なのだと思わせる。けれど病室で初めて対面した生身のルルーシュは、スザクのイメージを大きく裏切っていた。
『キャプテン…』
そう呼ぶことが当たり前なのだと思っていた。今もその気持ちは変わらないが、スザクはナナリーの家へ向かう途中背後に気配を感じるルルーシュとの空の上での出会い、その時感じた気持ちが急激に醒める。
生気のないこけた頬。青白い肌。硬く閉ざされた瞳。
『ルルーシュ、だめだ。あなたは…生きなくちゃ…。』
端麗な造作と相俟って人形のようだった。作り物のように冷たかった。ただ、触れた頬とてのひらだけがあたたかく。

「ルルーシュ、ちゃんとついてきてる?」
道行く人に不自然に思われないほどの声で訊ねると、ふわりとルルーシュが姿を現して言った。
「来てる来てる。なんだか町並みが変わったな。」
きょろきょろと周りを見回して首を傾げている様子に思わず頬が緩む。仕草は存外幼いのだ。
「季節もね。ルルーシュ冬の制服着てるけど暑くないの?今日は夏日なんだってさ…でももう既に35は行ってる気がするぞこれ…」
「暑い?うん、じゃあ、ほら。」
「ぅわ!?なになに!?いきなり首に腕回さないで、あー…でもひんやりしていて気持ちいいかも。」
そうだろうと、得意げに言って後ろから抱きついて宙に浮く形になっているルルーシュを見て思う。
寂しかったんだろう。誰にも気づいてもらえない七年間。好きだった場所で一人ぼっち。
スザクとは会話も出来るしその気になれば触れ合うことも出来る。嬉しいのだろうと思う。尊敬に値するプロとしての一面と、こんな人懐こい仕草のギャップは、はっきり言ってスザクのストライクゾーンど真ん中だ。くるくると自分の髪を弄って遊んでいるルルーシュの指先の冷たさを、時折額に感じながらてのひらを握り締める。

ルルーシュ。あなたは必ずもう一度、生きなきゃだめだ。
ナナリーと再会して、触れられないもどかしさに俯いて、心を決めたルルーシュをつれてルルーシュの横たわる枕元。
「さあ、戻ってくるんだ。ここがあなたの帰る場所です。ルルーシュ。」
すぅと音もなく消えた彼を見送り---


*******


出港前。
ディスパッチャー(運航管理官)から上ってくる様々な関係書類に目を通してフライト・プランをチェックするのはコーパイの仕事だ。搭載燃料、飛行時間、乗客数---最後にPICのサインをもらって準備は完了。黒いフライトバッグを抱えてゆっくりと歩いてくる人の肩に光る四本線。
さらさらとペンを動かす指先はもう冷たくはない。かちりとキャップをしめる音。受け取って向き合ったその人に軽く敬礼をして。
「今日も、完璧なフライトを。」
「イエス、キャプテン・ランペルージ。」

また、一緒に飛びましょう。


fin.


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