「お久しぶりです、『扇センセ』。」
「…懐かしいなぁ。お前にそう呼ばれると、何だか面映いよ。」
同業者がよく足を向けるハネダ周辺穴守稲荷界隈、蒲田裏、そこらを避けて飲み屋街にしては比較的閑静な店で、実に七年ぶり、二人は隣り合って座っていた。
遠いばかりの空でした1
「…それ、本当ですか。」
しまったと、藤堂は頭を抱えた。低い声でぼそりと、スザクはもう一度本当ですかと訊ねてくる。
「語弊が、ある言い方をしてしまったようだ。」
慎重に言葉を次ぐ。変にこの後輩の気を荒立ててはいけない。
「知っている人間はごく僅かだよ。彼があからさまにそうだったと言う訳ではなくて、」
「なんで藤堂さんが知っているんですか。」
「それは、こうして一緒に飲んでいる時に、まぁ…口が滑ったのかな。ルルーシュ君はたまに酒量を過ごすことがあって、」
「あの人ざるですよ。ワインなりビールなりウィスキーなり、どんな肝臓してるんだってくらいかぱかぱ空けるうわばみの巣です。」
「あー、酔うためには日本酒を飲むんだって言っていたかな、」
まずい、この二人には思ったよりも距離があったようだ。ルルーシュは自分の身体に合う酒合わない酒がはっきりしていて、それぞれ都合によって飲み分ける。自分と一杯やる時は大抵彼が合わせてくれて居酒屋に入るから、焼酎を傾ける隣で付き合い程度に日本酒を頼み、あとはビールでつまみをつついていることがほとんどだった。あの時は、彼も少々参っていて、ぐいぐい流し込んだ酒精に負けてぽつりと零したのだったか。
「随分親しいんですね。藤堂さんがまさかルルーシュの、」
「いや!それは、それだけはない!」
「じゃあ誰が相手ですか。いたんでしょう。男所帯だ、一人寝を囲ってルルーシュの魅力に落ちてあまつさえくんずほぐれつまぐわったあんちくしょーめは。」
完全に目が据わっていた。声は異様に低く落とされているから周りで気持ちのいい酒を楽しんでいる人間にスザクの呪詛のような、内容から言えばゴシップでしかない台詞は聞えていないだろうが、自分はおそらく。説明義務がある。このままスザクを帰せばルルーシュが困るに違いないのだ。
「いいかい。さっきも言ったが、落ち着いて聞きたまえよ。俺もよくは知らないんだ。」
そう、現在ルルーシュとその相手がどういう関係にあるのかは分からない。ルルーシュが凶刃に倒れたあの事件からこっち、少なくともあの男は見舞いには来ていた。何度も。いつも同じ白い花を持って、耐えるように彼の意識のない寝顔を眺めているところに出くわしている。スザクが一度もあの男に会っていないというのは、ただ単に勤務時間のずれによるものだろう。幸か不幸か判じかねることではあるが…
藤堂は腹を決めてスザクに向かい合った。ここはしっかり話しておこう。
「スザク君、ルルーシュ君が同性嗜好であるということを、君がどう捉えているかは少し気になるところではある。だが彼が付き合いを持っていた人間は一人だけで、その男とは特に何もなかったんだ。」
たった一度を除いては。心の中でそう付け足して。
すみません。ちょっと昼ドラはいります…。