「こら!ランペルージ!お前まだ未成年だろう、煙草は二十歳になってからだ!」
「…うざー。そんな叫んだら血圧上りますよ、扇センセ。」
遠いばかりの空でした2
ルルーシュ・ランペルージは要領のいい利巧な生徒だった。北陸の主要都市にある五年制の高等専門学校、全国でも志が高く優秀な学生が集まるそこは、進学率、就職率共に高く、民間から呼び寄せた実務家による講義が注目を集め、入学するためのハードルは普通の高等学校に劣らず高い。これと言って特筆すべき生徒ではなかったが、まだ中学生の時分に両親を亡くしそこそこ裕福な家に育ったために遺産争いに巻き込まれ、既に進学が決まっていたという都市部のハイレベル高から急遽、この学歴社会で大学に行かずとも高く維持されている就職率を見込んで流れてきたのだという彼は、全てが多感な少年期、それも神経をすり減らす受験期に押しかかってきたというから不幸なものだと、人のいい客員講師の扇は気にかけていたのだった。
「ランペルージ。お前はやればできるやつなんだから、もっと腰を落ち着けて学業に励めば専攻科にも進めるし、大学への編入も可能だろう。」
今まさに彼の手元で紫煙を上らせているそれを取り上げても、はあと溜め息をついて立ち去ってしまうだけだと、これまでの経験から心得ていた。立ち入り禁止のはずの屋上で、どうしたものか鍵を手に入れたらしいこの生徒は、昼休みや放課後、ぼんやりと空を眺めていることが多かった。傍らには携帯灰皿。まだ十五歳で、自販機で求めたのだろう煙草をくゆらせている姿は大人びた相貌と相俟って様になるのだけれど、着ているものは私服制のこの学校で、飾り気のない黒のジーンズに仕立てはいいのだろう真っ白なシャツと、存外に大人しいものだ。どこの国のものか、凝ったつくりのジッポーと並んで傍らには携帯灰皿。粋がってみせるきかん気と、マナーを守ろうとする小さな矛盾に、どこか哀れな寂しさを感じる。無造作に投げ出してあったシガレットケースを取り上げて、扇は隣に腰を下ろした。
「俺頭悪いんで、もうこれ以上勉強したくありません。」
「そんなことはないだろう。君の入学時の成績を見たよ。うちは理数系に特化しているから、普通課を希望していた君がターンして滑り込むには厳しかったはずだ。」
「運です、運。どっかのT大出のタレントも、最後の十分で受かったって言ってませんでした?」
飄々とした受け答えはいつものことだ。
「特殊なケースと一緒にするんじゃない。そりゃ、君が就職したいって言うんなら、それは尊重すべき生徒の意見であって先生が口出しできることじゃ」
「あ、あの方角だとセンダイかな。」
尤もだが聞く側としては白ける一歩手前の扇の言葉を聞いていたのか流していたのか、おそらく後者の気ままさで以って、ルルーシュはのんびり口を挟んだ。見上げればきらりと翼をきらめかせて、一機の飛行機が空を横切っていった。
「ランペルージ…。あれは…フォッカーのFSかな。40人乗りの小型で、プロペラ機だ。両翼が機体の上についていてな、胴体着陸のために胴体の下にキールが一本通っている。頑丈でいいシップだよ。」
目を凝らすと特徴的な形が見える。がくりと項垂れた扇だったが、気を取り直してぺらぺらと語った。
「…ああ、そっか。センセーBAWから出向してるんだっけ。ご苦労さまですこんな生徒でごめんなさい。」
僅かに目を細めて思案した後、面白くもなさそうにまた悪びれず、煙を吐き出したルルーシュは大分短くなった紙煙草を灰皿に放り込んで立ち上がった。
「おい、ランペルージ、」
「あ、UMA、」
「なに!?」
「じゃあ失礼します。」
「って、こら!それは没収だ、待ちなさい!」
ちょっぴり斜めなルルーシュ少年と真面目で人のいい扇先生。