「じゃあルルーシュ、元気でな。」
「従兄弟さんも。わざわざご足労いただきありがとうございました。」
遠いばかりの空でした3
「ランペルージ、今見えたのはお兄さんか?」
「違います。従兄弟で、俺の後見をしてくれている人です。どうせ家族構成欄見ているんでしょうが。兄なんていませんよ。」
入学時既に専攻が決まっているとはいえ、就職するか進学するかの決定には寮生がほとんどを占めるこの学校でも遠くから父兄が三者面談に足を運ぶ。ルルーシュは確かにコーカソイドであるブリタニア人の肌の白さを持っているが、髪は絹のような艶のある黒髪だ。今背を見送った青年、と呼ぶのがふさわしいだろうまだ若い男は見事なブロンドで、ちなみに目はラベンダーってところかなと呟いたルルーシュによれば、渉外弁護を主にする弁護士だそうだ。
「かっこいい人じゃないか。お前の家系は美人が多いな。って、おいこら、煙草はやめろと言っただろう!」
「いいじゃないですか一本くらい。いきなりやめるのは無理ですよ。数は減ってるんですから大目に見てください。」
出会ってから一年。まだ運転免許も合法的には取れない冬生まれの生徒だったが、半年ごとの変則勤務で、まだ残暑の残る秋口から冬を越えて卒業生を送り出す春先までこの高専に顔を出す扇は折りに触れてはルルーシュに話しかけていた。斜に構えてはいるが性根は悪くないのだろう、朴訥ではあるが誠実な人柄を滲ませる扇には、かつてのように無視を決め込んで背を向けることはしなくなっていた。飄々と揶揄かうスタンスは抜けないものの、水を向けられれば返事を返す。
「美人って…妹は可愛いですよ。あの人は、どうかな。客観的に見て整った容貌ではありますね。でも…性格は悪いですよ。」
この年頃の少年には珍しく、たった一人残った家族ということもあるのだろうが、妹のことを語る様子はいつになく素直だ。普段何事も興味なさそうに眇められている切れ長の目も、妹のことを話す時ばかりは穏やかに綻ぶ。歳相応のというよりは、不相応に大人びて遠くに流れる眼差しだけれど、こんな表情がこの少年には一番似合うと扇は思っていた。日本人にはない、鋭く透き通るような美しさとそこに落とされる一欠けらのぬくもり。だから、一瞬口を噤み、今度はくいと吊り上げた唇で言われた言葉と、その表情にはひやりと背筋を撫でられた。
「それは、弁護士なんて職業は黒を白と言わなきゃならないわけだし、」
「裁判所が戦場というわけではないんですが。まあ先生みたいに人はよくありません。俺よりも人が悪い。」
なんだろう、今日はよく喋る。いつもは扇が他愛もないことを喋るのを話半分、気まぐれに乗ってくるだけだったのに。
「お前はちょっと捻くれているだけで根は素直なやつだと思うよ。俺は、ま、お人よしだとはよく言われるけどな。」
「素直?俺が?そう見えるんですか?」
「いや、だって嘘はつかないし空を眺めているときの表情なんて結構無防備で、それに俺の授業真面目に出てくれる辺り、いいやつだなって」
「嘘はつきますよ。いつだって嘘はついてきました。無防備?はは…そうですよ、それで俺はいいように遊ばれて、もう…後戻りも、できなくて…」
「…ランペルージ?」
屈託なく笑いかけてやれば、いつもの調子に戻るだろうと思っていた。あの、どこか尊大でどこか不安げに揺れる眼差しはこの歳の少年にはよくあるもので、見るもの触れるもので世界を広げれば霧散するはずの些細なもので、強かに見えてもその実繊細な胸のうちを飄々とした態度の裏に隠している少年だと、思っていた。その判断はきっと間違っていない。鋭く尖った神経をこれまでぼんやりと窺わせるだけで見せはしなかった少年だけれど、今は自分にその一端を垣間見せている。
キッと睨むように見上げて訊ねられて、思わずしどろもどろになってしまったが、ああ、どうして。
「どうしたんだ、ルルーシュ?」
こんなに、擦り切れそうな目をしているのだろう。
そっとまだ薄い肩に手を掛けて俯く顔を覗き込む。かすかな震えが伝わってきた。
「…あの人の隣に、俺も、立ちたかった。勉強して、大学も行って、試験、通って。」
「今からだって遅くないぞ。まだお前17歳じゃないか。法学部か?奨学制度だって、」
「違う。…違うんです、そうじゃない。」
逃げてきたんですと、小さな声が聞えた。だから、戻るわけにはいかないんです。
「…先生に、話してくれるか?」
どれだけ…(←殴)