雪の降る音は聞えるか。

「キャロル、」
「邪魔をするな、名前を呼ぶな。私はC.C.だ。…お前に言ったのは、初めてだ。」
耳を澄ましてシンシンと囁くような肌で感じる音を聞いていた。
連れが冷えた夜の空気と静まり返ったしじまを震わせ、いや、滑り込むように聞き慣れた声で聞き慣れない言葉を口にした、それはきっと意図してのことなのだ。
「そうだったか。ああそう言えば馴染みのない響きだ。」
とぼけているのか揶揄かうつもりなのか、振り返れば半ば瞼を伏せた双眸と視線が絡む。絡むだけで振り切るのは容易い緩い拘束だった。自分がまた、白片の生まれる空に意識を移せば何もいうことなく彼はそこに佇んでいるだけなのだろう。
「ルルーシュ、」
指が触れる、その一瞬前の瞬きは躊躇いを押し込める彼の儀式なのだと思うようになったのはいつからだろう。伸ばした手は拒まれることはなかった。まるでそう決まっていたかのように重なった体温でも、けれど冷え冷えと横たわる薄い膜のようなものに覆われて、力を込めても届かない。
「風邪を引く。」
自分よりも大きな身体は在るだけで確かなぬくもりを与えてくれるような気がするけれど、ゆるりと髪を梳いてくるその動作を可能にする距離が不満だった。顔を背けて身体を離すとようやく抱きしめるという動詞がふさわしい抱擁が返って来る。
「お前が嫌いな名前、変えたいのなら変えればいい。協力するよ。」
顔は見えなかった。見せないようにしているに違いない。
「タイミングはいい。だがナンセンスだ。どう取ればいい。」
「きっと、」
ふぅと吐息だけで笑うのがかすかな振動として伝わる。笑っている人間はいい。そばにいるだけで安心する。素直に笑っている時ほど人を不安にさせるのはお前くらいだ。
「きっと、C.C.、俺もお前も自分じゃ決められないんだ。」
「私は今お前に質問したんだが。答えは?」
「“C”が一つ減るのは嫌か?」
「“L”を一つ減らしてみないか。」
「その手があったか。」
くすくすと耳に届く笑い声。ただの他愛もないかけあいだ。意味のないじゃれあいだ。二人ともきっと答えを出せない。
「でも、一度くらいいいんじゃないかなって思うんだ。」
「思ったついでに遠慮も捨てとけ。」
「あったのかなそんなもの。」
「あるからこんな夜更けに震えながら抱き合っているんだろう。」
一瞬の沈黙だった。雪の降り積もる音が聞える。シンシンとしみ込むような音がする。
「部屋に戻ろう。」
「私はソファでいいぞ。」
「…雪が降る。」
「今、な。」
シンシンと音を立てて、ひそやかに。



雲のように風のように、触れては離れ




七年前のルルCCです。
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