「ランペルージキャプテンの話ねぇ。」
一人目:リヴァル・カルデモンド

雲のように風のように-3

すぐにでもシャーリー・フェネットにコンタクトを取りたかったのだが生憎彼女のフライトスケジュールは自分のそれとずれていた。インターメインのコーパイにドメスのチーパー、合わなくて当然である。さすがにオフの日に呼び出すほど親しいわけでもなく、BAWの同僚が良く行くスポーツジムに顔を出してみるもそれはお約束の徒労に終わる。スザクはひとまず聞き込みの対象を変えることにした。何も彼女だけがルルーシュの情報を握っているわけではない。
「なんで俺に訊くんだよ。お前の方が詳しいだろ。一緒に住んでるくせに〜。ラッキーだよな。チェッカーの癖とか教えてもらえたりする?キャプテンたちの間での噂話とかさ、俺らコーパイの評価とか、中々聞けるもんじゃないよ。」
なぜか往きも戻りも同じ時間(場所は違う)に重なるやつはいるもので、リヴァルは入社の時期こそスザクの先輩に当るがラインに出たのは同時であることもあり、特に親しい同僚の一人だった。スタンバイ(待機業務)が一緒に入っていたのでマニュアルを広げて勉強しながらスザクは話を切り出した。
「そうでもないかな。キャプテンは家ではあまり仕事の話をしないよ。なんていうか家では寝たい人みたい。ジムに行く以外は横になっていることが多いかなぁ。ああ、でもドライブはたまに出かけているね。」
「そうなん?まだ本調子じゃないのかね、いやでもパイロットの健康診断通ってるんだからそこはただ疲れているだけなのかな。」
「最近はあまり会えていないんだけど、そう言えば最近身体検査あるって言っていたような…」
ふと、一週間前に会った時にぼやいていたことを思い出す。ルルーシュの技能試験・路線試験に対する姿勢はまだ知らない。時期が重ならなかった。どの試験も、落とすとラインに出られなくなるし、下手をすれば操縦資格を取り上げられてしまう。ほとんど全てのパイロットが試験を控えた数日前にはぴりぴりと神経質になったり無自覚なまま憂鬱になったりと、年に一、二回やってくる試練の日なのだ。身体検査もその一つであるが、本人の努力云々ではいかんともしがたいものもあるわけで、ではこの頃真面目に食事を取っていたのも暇があれば眠っていたのも(あくまでもスザクが見かけた範囲での話である)、体調を調えるためであったのか。
知らない間に養命酒なんてものまでこの間キッチンの片隅に見つけてしまった。今度揶揄かってやろうとスザクが思ったそのとき。
「あ、スザクここにいたのか!今日待機だって聞いたから、」
何やら急いだ様子で当のルルーシュがスタンバイ・ルームにやって来た。
「る、キャプテン。どうしたんですか?何か御用でも…へ?」
足早に近づいたかと思えば、彼はぎゅっとスザクの両の手のひらを握り締めてよし、と小さく呟いた。手の持ち主であるスザクも、横で見ていたリヴァルも驚いて目を瞠る。場面が違えばただの握手でしかないのだが、いかにもそれだけが目的でしたといった風に踵を返してじゃあなと腕を振ったルルーシュに、男二人が手を握り合ったという人が違えば薄ら寒いものを感じさせる行動だったのだ。人が違えばとは、まあ、ルルーシュの容姿とスザクの甘めの童顔を指してのことである。そう暑苦しくもなく流そうと思えば流せたものでもあったのだが、やはり不思議に思うのは当たり前だ。
「あの、キャプテン僕は何がなんだかわからないのですが、」
スザクは来たときと同じように急いで出て行こうとするルルーシュに、悪いと思いながらも呼び止めた。
「え?あ、ああ。ごめんいきなり。俺、今日検査でね、精神検査、ほら心理の類の奴の特別メニュー組まれちゃって。復帰の際にも色々凝ったことやられたけど、今回もまあ念のためでしょ。ご利益ありそうだったから。枢木大明神の。じゃあ、カルデモンドもまたな。」
早口でそれだけ言い、にこりと笑ってルルーシュは行ってしまった。しばしの沈黙が落ちる。
「…あの人って、かわいいとこあるよなぁ。」
しみじみとリヴァルが言った。これから社の指定した病院で精密検査を受けるのだろう。仕事明けとはついていないが、もしかしたら精神科の特別検査だったのかもしれない。
「考えてみれば当たり前だよね。僕たちだって結構突っ込んだ検査されるんだから、あんな目に遭ったキャプテンが普通のものじゃだめなんだろうな。」
「お二人さ〜ん、なんだか随分仲いいんじゃない?やっぱり生き返らせてくれたやつってことで、キャプテンの中では救世主とかなわけ?」
ポーズもあったのかもしれない。あの気まずいやり取りのあと、何も聞かなかったように振る舞い居所を移す様子もないスザクに、ルルーシュも何も言わなかった。だがどことなく会話は減り、以前にはよくあった今のような気安いスキンシップの類は無くなっていた。もちろんスザクとても行動が強引である自覚はあるが無神経なわけでもないので、うっかりした振りをして一緒にお風呂♪などという真似はすっかりご無沙汰している。(※家風呂で男二人。既に十分薄ら寒い。)まあこれだけ仲睦まじく過ごしていたわけだから、不意に余所余所しくなった(※そのくらいが普通である)ことでルルーシュも少しばかり寂しかったのだろうかと都合のいいように頭を働かせるが、実際彼は寂しがりやで人懐こい性格をしていると思う。スザクはさあねと適当にかわしてリヴァルに訊ねた。
「『かわいいとこ』って、言ったけど。リヴァルもそう思う?年も若いし取っ付きやすい人だとは僕も思うよ。一緒のフライトとか、どう?」
先ほどリヴァルから訊ねられたことと同じだ。コックピットと云う密室で二人ないし三人が長時間一緒にいるわけだから、自然会話も生まれるもので、スザクとしてはあまり面白くないことだがリヴァルとルルーシュは同じスケジュールになることが多いのだ。実はルルーシュの復帰第一回目のフライトは彼とのペアだったりする。
「ん〜、せっかくだから『かわいい』ポイントに絞って話してやるよ。」
できるだけさりげない風を装ったつもりだったが、この流れでは勘繰られても仕方がないだろう。この同僚は人の感情に存外敏く、以前からルルーシュのことを尊敬もしていたし個人的な好意を抱いてもいたようだ。まさかスザクと同じマイノリティーな代物ではなかろうが、確かにルルーシュは人目を引くし、先達ての女性陣の噂はさて置くも、彼の背を追うコーパイ仲間の間では人気の高い機長であった。
屈託ない笑みを浮べて話し始めたリヴァルの話しに、スザクは耳を傾けた。



おかしいところ、捏造過多な部分は随所にございます。どうかさらっと読み流してやってくださいませ。

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