「もう卒業か。早いな。」
「長かったと思いますけど。五年って、長すぎ。」

遠いばかりの空でした5

あれから三年。ルルーシュが卒業する季節になった。扇がこの学校で教鞭を取るのもこれで最後だ。教員免許は持っているものの、専門職を教えるのは骨が折れる。あまり評判のいい授業ではなかったが、機械を相手に過ごす毎日とは違った楽しさがある五年間だった。
「お前、BAWの乗務員枠で採用決まったんだって?鍛えてやった俺に感謝しろよ。」
「勝手に隣走っていただけじゃないですか。自転車で。アリガトウゴザイマシタ、扇センセ。」
棒読みで礼を言うルルーシュは、その飄々とした態度はもう変わらないだろうが笑顔は明るい。繊細で感じやすい少年だと思っていたけれど、もっとずっと強い人間だったらしい。あの日、扇の前で肩の力を抜いて見せた後は、もうふらついた素振りは微塵も見せず、外泊者リストに名前が挙がることもなくなった。好きだと、あれは告白のつもりだったのにと何かの折に告げてみたところ、生徒に手出すつもりですかとにやり。参ったなと両手を挙げた。ルルーシュは強い人間だ。聞けば三歳下の妹の前では実にしっかりとした兄らしいし、弱みを見せまいと溜め込みすぎただけで、バランスが取れれば大人よりもうまく空気を読む。扇が言った言葉は心からのものだったけれど、だからどうこうしようという積極性は一線を越えるのに足りないと判断したのだろう。単に扇が好みではなかったということも考えられるし、それは扇自身一番あやしいと睨んでいることであってルルーシュはいつもはっきりしたことは言わない。彼が最初に想った相手でありおそらく向こうは今もルルーシュに好意を寄せているのであろう(定期的にルルーシュの煙草の本数が増えるのだ。笑っているので推して知るしかないが、神経質な指先でジッポーを弄る様子は含むところを感じさせるのに十分だった。)シュナイゼルは擦れ違う人間がたとえ男でも振り返ってしまうような美丈夫であるし、ルルーシュは悲しいかなそれに十分つりあってしまう。いい加減、相手のためにと逃げ道を作るのは、相手のためにもならないのだぞと教えてやりたい。春から、自分はナリタの空港勤務、ルルーシュはセンダイの訓練校に通うことになる。考えてみれば操縦士も専門職ですよねと、いい笑顔で進路用紙に書き込んでいたのは昨年の冬だったか。成績は、それまで眠らせていたやる気を引きずり出してきたのかあっという間に学年首席で、なんやかやと条件の厳しいBAW社の採用試験にあっさりパスしてしまった。唯一問題だったのは体力で、部活動にもはいらずのらりくらりしていたルルーシュはううむと唸った結果とりあえず走ることにしたらしい。もともと運動神経は悪くないのだろうし手足も長く長距離向けの体型をしていたから、一年も毎日走りぬけば人並みの体力はつくものだ。しまいには自転車で後に続く扇が待ってくれと根を上げるまでになったあたり、やればできる人間と云うものはおそろしい。この先望んだ旅客機のパイロットになれるかどうかは狭き門であり、必ずなれると胸を叩いていえることではないのだが、しかし。
「お前ならあっさり資格取っちゃいそうだな。機長になって、俺たちが整備のときしか座れない左のコックピット、ふんぞり返っているのが目に浮かぶようだよ。」
「ふんぞり返る?そんな作り?」
聞きとめるのはそこかと、思わず笑ってしまう。
「いやいや…お、そう言えばもう煙草はやめろよ。パイロットの健康診断は厳しいぞ。」
「ええまあ、そうですね。」
「煮え切らない返事だな。今持っているやつ全部出せ。考えてみると今まで一度もお前から取り上げることができなかったな。教師を舐めるな!」
「いや、舐めるなんてそんなそんな。ちゃんと禁煙しますよ。っと!」
飄々と肩を竦めて腕を一振り。10メートルほど離れているゴミ箱にケースごと煙草を放り込む。
「空だったとか言わないよな。」
「それじゃ軽くてあそこまで届きませんよ。もう吸いません。俺、20歳になったんで。」
合法的でよいことではないかと一瞬首を傾げるが、ルルーシュがにやりと笑って言った。
「さあいいですよって、言われると萎えませんか。つまらない。」
「…ひねくれた性格だけは一生治りそうもないな。」
あはは!と、声を上げて笑う顔はもう揺れてはいなかった。


スザルルでやればよか(終了)

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