「どうして、どうして、お前が…ルルーシュ…」
硬く閉ざされた瞳にてのひらを握りしめた。

遠いばかりの空でした8

『しばらく頭を冷やしてください。次会ったときにまた、謝ったら。殴りますよ。』
凄みのある笑顔でそう言って、ルルーシュはまたしばらく忙しいフライト勤務に戻って行った。
謝るな?それは無理だ。だって彼は自分を止めたのだ。吸い寄せられるようにキスをしようとした自分の顔をあの細い指でそっと留めて言ったのだ。まだ引き返せますよと。俺忘れっぽいから一晩寝れば欠片も覚えちゃいません。たぶん、やめとくのが正解だ。
そう言って苦笑した顔が、だめだった。年下の癖に男の癖に、あんまり優しくて消えそうだったから求めずにはいられなくて、強引に事を進めたのは自分で、躊躇ったのは彼で。ずっとずっと、彼がジェット機どころか自動車も運転できない頃から惹かれ続けて、今この腕の中にいる。
甘えだったのだろう。今ならそう思う。憤りもあったか、遣る瀬無い。どうしていつも俺に逃げ道を残すんだ。俺には弱いところを見せてもいいだろう。かっこつけて強がってそのまま大人になって、今度はもう。手が届かないくらい大きくなりやがって。
ルルーシュのことは好きだった。本当に好きだったのだ。しごく一方的で自分勝手な好意だったように思う。自分は彼に必要とされていると思うことで優越感に浸って。いつも飄々としてなんでも如才なくこなしてしまうこいつでも、子どもだった時代もあるんだぞと、それを知っている自分がひどく特別に思えて。だがそれは彼に対する甘えでしかなかったのだ。いつだって一歩前を見据えて立ち回る彼は気づいていたんだろう。彼女を好きになろうとしている自分が、怖くて不安で自信もなくて。どうしようもなくなっていたことを。ルルーシュに対して、罪悪感もあったのだ。自分なんていなくても、ルルーシュは自分でどこまでも歩いていけるということを気づいていたのに気づかない振りをして。そう、引き留めてほしかった。引き留めるだけの価値が自分にあるのだと彼に言ってほしかった。でもあんまり素直に応援されてしまって、ひどく、悲しかった。


「俺、自分勝手だったよ。大人の癖に、何にも見えていなくて。お前の気持ちも考えてなくて。謝りたいんだ。お前に、土下座して、頭下げて。」
手の中には一通のメール受信画面が開かれた携帯がある。あちらを出る前に、ルルーシュが寄越したものだ。
「なぁ…目、開けてくれよ。また、あの小生意気な顔して笑ってくれよ…ルルーシュ…。」






FROM:Lelouch
Subject:無題
Hello!次の便で戻ります。いつまでもうじうじしているようなやつは女性にうけませんよ。もてる教え子からのアドヴァイスです。またどこかで飲みましょうか。
扇センセ。

Next