遠いばかりの空でした13
初めて見るようなうっとりとした仕草で擦り寄られ、軽く胸元にキスを落とすルルーシュを前に、このまま行ってしまってもよいのではないかと込み上げる衝動に任せて押倒そうとしたスザクは、ころりといつもの飄々とした調子に戻ってシャワーとドアを指差した恋人(!)にお預けを喰らった。渋々階下のバスルームに向かいながら一緒に入る?と未練がましく振り返れば、今更恥ずかしがることも遠慮することもないと思うのだが客間に備え付けのブースでいいと応えてルルーシュはさっさと背を向けてしまった。
「あっちも急いでいたのかな、そうだと嬉しいようないや嬉しいけどなんだか怖い…。」
この家に客間は三室ある。本物の石製マントルピースを作りつけてある洋風家屋なのに、一階の東向きの部屋は床の間付きの和風客室だ。(おかしくない?と首を傾げれば布団に憧れたらしい父親が何となく作り、結局体に合わず客間に落ち着いたのだと言う。)ルルーシュがまだ子どもの時分に日本へ渡ってきたのだと言うから、泊りがけでランペルージ家を訪ねて来るのはブリタニア人が多かったのだろう。二階の、パーテーションで区切って二間にしている、シャワーブース備え付けの大型の洋風客室でも構わないけどと言いながらなにやら期待の篭った眼差しで見つめられ、畳の匂いも清清しい和室を選んだのだ。毎年リースには出していたらしい布団一そろいを寝る前に敷いて起きては上げての、今はもうフローリングにベッドが主流になりつつあるが、日本人には馴染みの一連の動作にOh,Japanese!とはしゃいでいたルルーシュは絶対間違っている。長めの菜箸すら自然に扱うくせに、スザクが布団の上げ下ろしをしている場面に出くわすと、決まって入り口で腕を組みながら興味深げに眺めているのだ。
「…なんだろ。今頃になって落ち着かない…いやでも…」
『ずっとお前が---』
どんな目だっただろうか。どこか悔しげでけれどうっとり…
「いや、別に狙われていたとかそんなの望むところだと言うかむしろ嬉しいわけだけどうあぁ!なんか妙に緊張してきた!これじゃ初めてのガキみたいじゃないか恥ずかしい…」
ルルーシュがいつから自分のことを恋愛対象として見ていたのかは解らないが、つい最近と言うわけではないのだろう。なにしろきっかけは出会いの奇妙さにあったのだし、いきなり目の色を変えたとは考えにくい。思い返してみれば自分はルルーシュに確認される形で告白しているのだ。好意は割合あからさまに示していたとは言え、やはりそれを見抜いて攻めの姿勢に入ったルルーシュの敏さは怖くもある。翻って手玉に取られそうな自分が情けなくもある。
「僕の部屋の方がいいのかな。でもセミダブルとは言え男二人じゃ狭いし…」
バスタオルで体を拭きながら、せめて自分のテリトリー(家主はルルーシュであるが彼にとって階下の和室は馴染みの薄いものであるらしい。)に場所を移せないだろうかと先ほど後にしたルルーシュの部屋を思い浮べる。全体的に黒、あるいはシルバーで統一されたシステマチックな洋室。ベッドは輸入物なのかスザクが使っている布団よりも広めの印象を受ける。
「まさか男と同衾するために大きいやつ選んだわけじゃないだろうな…。」
パジャマを着込みながらむくむくと疑念が沸き起こる。そりゃあ、自分だって彼女も妻もいた身で今更ルルーシュに初心であってほしいなどと望むのは理不尽だ。なんとなく、どちらで事に及んでもいいように与えられた自室に布団を敷き終えてからルルーシュの部屋に向かいながらまだ悩む。
「でもナナリーと一緒に暮らしていたわけだから家でってことはないのかな。ホテルとか…有り得すぎて嫌だ…。」
もともと外泊することが仕事の一端でもあるのだから二人とも不特定多数の人間が入れ替わり立ち代り使用する仮宿を自分の部屋のようにみなすことには慣れている。神経質そうなルルーシュだって、大切な妹に奇異の目で見られるリスクを考えればホテルの一室を選ぶだろう。逢引の現場としてはお決まり過ぎて泣けてくる。
「いや待てよ。僕はなにか大事なことを見落としていないか…まさか、まさかとは思うがあっちが上、とか、はは…まさかそんなサプライズはないだろ…」
はっきりとしたことは聞いていないのだ。藤堂だってルルーシュの性的嗜好が具体的に最中どんな形で現れるのか知りはしないだろう。生々しすぎて、そんなことまでをルルーシュが語ったとは思えない。扇も何も言っていなかった。それは最大限の礼儀であり気遣いであったのかもしれない。そうであれば、どうなのだ。
「ありえない…僕が下っていうのはありえないぞ。…いや、愛するルルーシュが望むんだったら…だめ、絶対だめだ。無理。」
そもそもあんなに綺麗で色っぽくて華奢と言ってしまえる体つきのルルーシュが、腕も腰も胸板もしっかりしている自分に抱かれるのがビジュアル的にも無理がない。(男同士と言う時点で色々あるはずの壁を見事にスルーしているのは細かいことに拘らない自分の長所だとスザクは思っている。)
そうだ、絶対にルルーシュが受ける側なのだ。あんなに優しい人が攻めるなんてありえない。昔粉々にされた自分の男としてのプライドを、彼にまで打ち砕かれてなるものか。
「大丈夫だ。いざとなったら力ずくで押倒していただいてしまえばいい。」
(※それは犯罪です。)
中々上ってこないルルーシュを、ルルーシュのベッドの端に腰掛けながら待つ。
…バスタオル一枚でやってきたらどうしよう。
腰に、一枚。それは嫌だ。男くさすぎて萎える。確かに腰は細くて肌も色白な綺麗な体をしているけれど、サウナの中の中年を思わせる格好はしてほしくない。ルルーシュは家の中であっても下着でうろつくようなだらしないことはしたことがない。一緒に風呂に入ったときも、暑いだろうに汗が引く前にパジャマなり部屋着なりをきっちり着込んでいた。
「…僕にも着ろって言ってきたんだよな。」
『別にボタンを一番上まで閉めろなんて言わないけどさ、だらしない格好で歩き回るのはやめてくれな。』
まさかそれは我慢が出来なくなるからとか、そんな生理的な理由なんじゃ…
「さっきだって妙に誘うような手つきで腕が絡みついてきて…いや、いいんだ、問題ない。僕に欲情してくれるならそれは願ったり適ったりで」
『ほしかったんだ…。』
どっちの意味で!?
「待たせちゃったかな。ごめんスザ ほわぁ!?」
「お願い抱かせてルルーシュ後生だから!!」
「だが断る!」
「…。」
細身のスラックスにいつもお気に入りの白シャツをわずかに着崩して現れたルルーシュに、心の中でほっとしながらスザクは錯乱気味の必死な勢いのままにルルーシュを押倒した。
そして返された一言に黙りこくる。
「あは、うそうそ。」
「……。」
まだ警戒心を露わに(ちゃっかり組み敷いて)見下ろしているスザクの首に、するりと腕を回してルルーシュは続けた。
「ほんとだって。抱いてダーリン!ん?やっぱり無理があったか。おーい、帰って来ーい。」
「はぁ…。ちょっと中和剤飲んだほうがいいんじゃないですか。浮かれていません?」
ガクリと力を抜いてルルーシュの上に倒れこみながらスザクは言った。調子が狂いすぎてついていけない。
「肝臓に悪いぞ。酔ってないって、何度言ったらわかるんだ。ただあんまり切羽詰ったように飛びついてきたからちょっとクールダウンさせないとと思って。」
「なんで?いいじゃない、盛り上がってて。エッチなんてその場の勢いを借りてなんぼじゃないの。あ…」
「…勢い?」
しまった、失言だ。肉体の衝動そのものを秒単位で刻めばそれは確かに場の勢いそのものであるのだが、ルルーシュに向かう想いは間断のない一続きのものであり決して一過性の情動なのではありえない。矛盾しているがだからこそ今まで一つ屋根の下で暮らしながら待つことが出来たのだし、勢いゆえの過ちはルルーシュの最も忌避するところのもであるはずだった。
「ご、ごめ…違うんだ。僕はずっとルルーシュのことが好きだったしいつだってあなたを抱きたいと思って、」
「ふぅん。」
切れ長の目を眇めて見つめられ、スザクはしどろもどろになりそうな自分を必死で持ち直そうとした。なんだ、なんでこんなに緊張しなければならないんだ。おいしそうな体はすぐ目の前にあるのに!
「男同士の場合はさ、」
だらだらと冷や汗を流して言葉を探すスザクの胸を軽く押して、ルルーシュは起き上がった。ふぅと溜め息をついて髪を掻き揚げそのまま指先で弄っている。興がそがれたと言う風にも見える面白くなさげな仕草であるが、足の間に入り込んでいるスザクを気にした様子でもなく、とりあえずやる気が失せたわけでもないのかなと窺いながらスザクは続く言葉を待つ。
「男女の普通のセックスとは違って、勢いだけで事に及ぶとどちらも怪我をする。なんとなくわかるだろ。」
「あ、うん。」
「使う場所も違うし、はっきり言ってあんまり綺麗なところじゃないし。」
「そんなこと、」
「まあ準備は必要だってことだ。もう七年、八年か。やってないから軽く自分でしてはきたけど。」
「ええ、と、」
言いたいことはわかる。だから遅かったのか。…見たかったな。というかしたかったなー…
「お前の前ではライトも落として毛布かぶってするつもりだったんだ。いきなり秋の気配になったよな。ノーマルだったやつに見せたいものでもない。でも。」
ルルーシュはちらりと、まだ煌々室内を照らし出している蛍光灯に目をやりながら言った。
「気が変わった。」
「ちょ、るるっ」
ばさりばさりとベッドの上の毛布や羽根布団を床に落として、シャツの前を肌蹴けながら腕をスザクに伸ばして余裕の一言。
「おいでスザク。好きにしていいから、俺でいけるか試してみろよ。」
ぬるいですが、次こそR-18になります。読んでみて不快になられてもご自信の心の中で折り合いの付けられる18歳以上の方だけ覗いてやってください。
※クールダウンしますので、ルルが女王様と言うわけではありません。(そんな断り書きはいらない)