神聖ブリタニア帝国属領エリア11---総督ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女。神話に謳われる戦女神のごとく戦場を駆け抜け勝利をもたらすブリタニアの守り姫。
副総督ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子。皇女の実兄であり類稀な美貌は見る者全てを魅了する。常に真白の皇族服に身を包み、慈しみのこもった微笑みは万人の涙を拭い去る。
しかし、それだけの。
弱き皇子。

1.白の皇子

「これまで欠番だった副総督の位に、ナナリー殿下の兄君が就任されるとは…いやはや。」
「何か問題でも?まあ、大きな声では言えませんが無為なことと云うのが大方の見解でしょう。」
エリア11はこれまで総督であるナナリー皇女が一人で任されて来た植民エリアだった。若干16歳の彼女であるが、ブリタニアの主戦力KMFの乗り手としては熟練した軍人も及ばないほどの腕前で、騎士侯位を賜り皇族に名を連ねた母マリアンヌ皇妃の二つ名、閃光を冠されることも多い。軍部では評価の高い皇族の一人である。
「ご婦人方は喜ばれることでしょうな。母君譲りの美貌にやわらかな物腰。総督は動、副総督は静で飴と鞭の使い分けか。」
「ナナリー様は存外厳しい処断をされるお方だからな。あまり公の場には出ていらっしゃらないから確かなことはいえないが、ルルーシュ様は戦の才はどうも…。」
衛星エリアへの昇格を期に、ルルーシュ皇子が迎えられた。これまで目立った功績はないに等しく、皇族一般が収める諸学を学んだだけで戦場には出たこともない。三つ下の妹姫がKMFを駆るのを本国のアリエス宮において無事を祈り、扱う公務は慈善活動への名貸しと戦地あるいは被災地への視察、慰労が主で、異母妹にあたるユーフェミア皇女と並んで慈愛の皇子と呼ばれる。
就任式典に参列している貴族は、深紅の絨毯の上を進むルルーシュ皇子に頭を垂れながらひそやかに言葉を交し合う。
「お優しいのだよ。国民にも人気がある、毒にも薬にもならないお方だ。まだ不安定なこのエリアでは、些か荷が勝ちすぎていると思うがね。」
正面の高い位置に誂えられた壇上、後ろ隣に腰掛けるナナリー皇女に一礼し、皆に向き直って穏やかに演説を始めたルルーシュ皇子に、方々から口々に感嘆の溜め息が零れる。なんと美しい皇子。
所詮は見てくれだけの、無能な皇子。
「殿下ご自身もそれは自覚しておられるだろう。ナナリー殿下を殊の外大切に思っておられることは周知のこと、しかし自らKMFを駆り兵を率い、戦地へ赴くことは決してなさらない。分を弁えていると云えば聞えはいいだろうな。」
苦笑を滲ませてルルーシュ皇子を見つめる貴族の目に、今度は二人の女性が留まる。一人は赤毛の、もう一人は長い栗色の髪を靡かせ、しかしどちらもドレスを纏ってはいない。彼女らが跪く皇子のシンボルカラーである白とは対照的な、漆黒の騎士服。
「シュタットフェルトのカレン嬢と、フェネット家のシャーリー嬢だ。女性を騎士に迎えると云うのは本当だったのだな。」
ルルーシュ皇子が捧げられた剣を手に、そっと自らの騎士となる誓いを立てる二人の首筋に銀の刃を滑らせる。深く頭を垂れ、そして腕を大きく振るった主を見上げて誇らしげに姿勢を正す。女性は皇族の筆頭騎士にはなれず、二人は同順位でルルーシュ皇子の第二騎士となる。
「白の皇子を守る黒の騎士か。年の頃も殿下と同じくらいと言ったか?」
「確か同い年であったかと。しかしあながち皇子の気まぐれともわがままとも言えますまい。母君はブリタニアで最も名の知られた女騎士であらせられた。自らの騎士も女性をと望まれるのも然程不思議なことでもないでしょう。」
「どちらにしろ、だ。お飾りの皇子様であることは誰の目にも明らかさ。」


鳴り響く拍手と、皇帝陛下、そして国を湛えるオールハイルブリタニア。
そっと目を細める白の皇子に対する臣下の言葉は、嘲りの色を含んでいた。



クロヴィスさんのような印象をもたれております。

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