「枢木、お前はこれで何を幻る?」
「そうですねぇ…僕という人格の無い原初の時代でしょうか。」

7.リフレインを追え

イレヴンの間で麻薬が流通している。
ゼロにとっては予定調和の情報だろう。小さな列島エリアとは云え国家の捜査の網の目はまだ広く、治安も悪い最下層の居住区ではリフレインと呼ばれる過去回帰型の麻薬の被害が特に名誉ブリタニア人の間で蔓延していた。某国の関与を証明できるかはさておき。
「過去に戻ってリフレイン、やめられないでリフレイン。洒落のつもりか?まっとうなブリタニア人にも売れるかな。」
ゼロは部下が持ち帰ったサンプルを弄びながら独り言のように言った。口元には醒めた笑みが浮かんでいる。
「個人的な動機があれば。誰だって帰りたい過去はあるものでしょう。」
スザクがそれに応えた。自分は興味などないというように透明なそれに見向きもせず、手元の書類に目を通しながら。
「“今が最高に幸せです!”なんておめでたい台詞を抜かすやつに試してみたいね。謁見の間に常備してみてはどうだろう。」
くすくすと零しながら呟くゼロの瞳は今日も真っ赤なバイザーで覆われている。どうせなら全身黒一色で統一すればよいと思うのだが、黒のバイザーは局員全員が装着するものなので差別化でも図っているのだろうか。彼はもしかしたら目立ちたがり屋なのかもしれない。
「ルルーシュ殿下はそんな意地悪なことはなさらないでしょう。」
「おべっかを使うやつもいないだろうな。」
「いいじゃないですか、みんな素直で。」
あなたと違って。
口には出さずに言い、スザクはそれでどうしますとゼロがおしゃべりに飽きた気配を見せたのを受けて問いかけた。
「今回ばかりは俺の出る幕はないなぁ…。頼むぞ、スザク。運び屋から辿り、元締めをひっ捕らえろ。」
しごく残念そうにゼロは溜め息をついた。顔の三分の一を隠しているとは言え、彼の肌の白さと細い顎、通った鼻梁はまるきりブリタニア人のそれだ。こうれから潜入するのはシュンジュク・ゲットー。ブリタニア人は目立ちすぎる。
指令は二つ。イレヴンの運び屋に接近し、このエリア内の麻薬密輸ルートを取りしきるブリタニア人を特定せよ。
「知らされないまま動いているのかもしれませんよ。」
探りたいのは更に上。ただ純粋にブツの取り扱いとそれによる利益だけを目的とする麻薬組織とは少ないもので、大抵表の世界の権力者と通じている。組織として上下に堅い筆頭が麻薬業界だ。この地における名誉ブリタニア人の数は数万を数えるが、内2パーセント超、数百の人間がリフレインを入手可能な状態にある。入植しているブリタニア人よりも厳しい政府管理下におかれている彼らが、アンダーグラウンドで日本人の同胞ではなくブリタニア人からドラッグを手に入れられる。イコール軍か、警察機構に内通者がいることはほぼ確定だ。機密局が始動する以前からルートを築いていたのだろう。操っている人間の目的は、ただの金儲けか、それとも。
そして場合によっては事が国際問題に及ぶ可能性も視野に。ブリタニア人バイヤーとヴァレリアのつながりは。
「目星は付いているだろう?小物なのはわかっているさ。イレヴンを夢から引きずり出すのが第一段階。こちらから動くのはそこまで。セカンドアクションは向こうに任せるよ。」
にやりと口の端を吊り上げたゼロの笑みとぞんざいな口調。スザクは大人しくしていてくれるのは最初だけかと肩を竦めた。




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