「裏切りの騎士に裏切りの王妃かい?中々洒落が効いているじゃないか。」

9.ギネヴィア

澤崎との会談を終えたスザクは、派手にスリットの入ったタイトドレスに身を包んだ女と腕を組んで店の外を歩いていた。

「いいか。あの男の名前はランスロット。ブリタニア本国から中華連邦を経由して日本にヘロインを密輸している。女の方はギネヴィア。最初から君を試すつもりで本人を見せてやろうと思ってここに連れて来たんだ。二人はここの常連さ。もちろん本名じゃない。だが通称で十分だろう、日陰に暮らす人間のそれもこれから消されるやつらだ。」
「組織は間違いなく潰します。それが言いつけられた任務だ。僕としても軍の仕事は問題なくこなして信頼度は上げておきたい。しかし彼らを確実に殺す、そのメリットは?あるはい必要性。」
「余計な質問をしなければ、つまらん嘘も聞かんで済むぞ。」
「…いいでしょう。僕がお約束できるのはここまでです。向こうが僕を殺そうとしてきたら、殺しましょう。」
「…妥協しよう。最初から頭を潰すつもりで行け。やつらの手口は単純だ。ブリタニア本国に巣食う組織の指示に従い中華連邦で栽培された生の阿片を持ち込み、この地でヘロインに精製する。日本人は注射を嫌がらないからな。少量でも劇的に効果が得られるから利益は大きい。薬局の看板を掲げて偽装している。」


「ねぇ、サワサキなんて悪い男と何を話していたの?あいつ、リフレインの運び屋なのよ。今一番の売れ筋だから一財産築いているわね。」
変な甲高さもなく、娼婦まがいの手管で近づいてきた割には落ち着いた話し方をする女だった。スザクは澤崎と別れた後、一度帰還して独自にランスロットとギネヴィアを追う算段をしていたのだが、当の女の方が派手に男の方と喧嘩を始めて見過ごしておけず宥めに入ったスザクについて来てしまったのだ。チャンスと見るべきか、罠と見るべきか。
「僕は義侠心に駆られたジャーナリストの端くれさ。ゲットーの暗闇を暴いてやろうと思ってね。」
「うそうそ!素直に虚栄心と好奇心に負けたのだと言いなさいな。聞きたい事があったら話してあげるわ。何を知りたいの?」
はっと目を引くような曲線美を描く長い脚を大胆に露出させている割には、上半身の肌はほとんど見せていない。赤くペディキュアを塗ったつま先が目にちらちら瞬く。首から胸元はにかけてショールで覆い、ブリタニア人らしくすらっと背は高いながらもやはり見上げることになるスザクの顔を艶やかな表情で見つめながら、ギネヴィアは豊満な胸を絡めた腕に押し付けた。遊んでやってもいいかなと、寝所でガードの緩くなる性を視野に入れながらスザクはにこりと微笑んで答えた。
「そうだな。さっきボーイを呼んで何か囁いていただろう。そのあと僕達のテーブルのすぐ隣の壁に作りつけられた棚から、彼はテキーラを取ってカウンターに戻った。」
「…マルガリータが飲みたかったの。いつも頼むのよ。なのに今日は前の方には切らしているって。気が利かないのよ、あの店。」
一瞬口ごもって不満そうに口を尖らせて女は言った。宥めるように抱き寄せてやりながら、笑みを深めてスザクは訊ねた。
「ボーイはナプキンを落として屈んだね。暗いからか、中々拾えなくてテーブルの下をよくよく覗き込んでいた。僕は夜目が利く方だから、代わりに拾ってあげようと思ったくらいだった。ねぇ、そうしない方がよかったんだろう?」
「……いじわる。気づいていたのね?」
今度は拗ねるように顔を背ける。腕も放そうとしたけれど、それは力で引き留めて、月明かりに浮かび上がった白い面を間近で見つめる。綺麗な顔立ちだ。自分が何人であっても一目見て美人だと思うだろう調った顔立ち。少々甘さが足りないが、口元のほくろが妙な色気を醸し出して男を誘う。化粧が少々濃いのが惜しいところだ。
「ライバルの動向に注意を払うのは当然だ。今頃は回収した盗聴器を、裏切りの騎士殿が検めているところかな。」
ボーイは、スザクと澤崎のテーブルに一つ仕込んだのだ。おやと、その時スザクは違和感に気づいていたのだがさもありなんと放って置いた。蛇の道は蛇、店ぐるみでこの二人の男女を支援しているくらいなら澤崎の素性も知れていることだろう。現にギネヴィアは彼がリフレインに関わっていることを何でもないことのように話して見せた。
「そうでしょうね。ランスロットは警戒態勢に入るわよ。あなた、明日には息をしていないかも。」
「それは困ったな。じゃあ僕は君を人質に逃げ延びてみせようか。」
「できっこないわ。それに嫌よ。私、あなたと一緒に逃亡しなきゃならないじゃない。ごめんだわ。この町はとても居心地がいいの。」
ギネヴィアはちらりと周囲に視線を走らせた。
「仲間が助けに来てくれるのかな。こうしていると、とてもうまくいっているように見えるんじゃない?」
スザクはくすくすと笑いながら細い身体を抱き寄せて耳元で囁いた。ギネヴィアはランスロットに言われてスザクから当局の情報を聞き出したあと、始末してくるようにとでも言われたのだろう。見たところ武器の類は身につけていないようだが、ここは彼らの縄張りだ。これから連れ込まれる予定だった宿に何がしかの装備は備え付けてあるに違いない。毒か、女の指でも引けるデリンジャー?鉛筆でだって、無防備な人間は容易に殺せる。助けを求めるように、あるいは媚びるように、自分の身体を彷徨う女の腕に、さてどうしようかなとスザクが考えたその時。
「枢木スザク!ヘロイン保持ならびに密売の容疑で逮捕する!」
カッと光を点したサーチライトが目を焼き、ギネヴィアがくすりと笑みを浮べたのを気配で感じた。


話の展開上こういうキャラクターも必要なのです…。どうかお許しを(平伏)!
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