「スザク、必ず君をお母様の元に返してあげる。君だけは、必ず。」
決して顔を見せようとしなかったルルーシュの頬には、涙が伝っていたのかもしれない。
Kight−4
日本がブリタニアに攻め込んできた。戦力は拮抗するも、終盤に差し掛かりブリタニアの敗色は濃厚になった。壮麗なブリタニア宮のあちらこちらで火の手が上っている。ルルーシュが館の者を逃がそうと走り回っている間、慌しく踏み込んできた何者かに引き摺られるように、スザクは見たこともない場所に連れて行かれた。
「ここは…」
アリエスの水の館とは比べ物にならないほど豪奢な調度が誂えられ、広さも重みも桁違いのその間は、勘が正しければブリタニア皇帝の居室であった。目の前にゆらりと佇んでいる男が、ルルーシュの父親なのだろう。
「日本国の王子、よくきたな…。」
窶れが声にも相貌にも滲み出た年老いた男だった。思わず後ずさったのは、その手に煌びやかな宝石をちりばめながらその役目は人を傷付けることに在る凶器を認めたからだった。短いが、子どもなど一刺しであの世に送ることの出来る剣。銃でないだけましかと思う余裕はなかった。もう少しで父の軍が自分を迎えに来てくれるはずなのに、諦めかけていた祖国への帰還が叶うのに、こんなところで…!
バンッ---
「父上、おやめください!!」
ルルーシュだった。
側近の者を振り切って駆けつけたのだろうその纏ういつも几帳面に整えられていた服は乱れていたけれど、確かな足取りでスザクと皇帝の間に割って入る。
「どけ、ルルーシュ。私の邪魔をするな。」
「いいえ。皇帝陛下のご命令であっても聞く訳には行きません。ブリタニアは負けます。日本国の王子の命を奪う理由はどこにもない。」
「…黙れ。同じ敗北であってもきゃつらの王の血を一人でも多く冥界に送ってくれるわ…!」
「ッ、父上、だめです!罪のない子どもを手にかけるなど、おやめください!!」
静かに父を諭す息子の言葉にも、正気を欠いた男は耳を傾けようとはしなかった。少年の細身の体を造作もなく薙ぎ払うと、ギラギラとした憎しみの篭った目でスザクを見下ろし、手にした剣を振り下ろす
バサリ、
ザシュッ---
何が起こったのかわからなかった。逃げなければと思うのに動かない足を恨む間も無く、スザクの上に布が落ちて来て視界を遮る。次いで何かが、肉を、切り裂く、音---
「…るるー、しゅ?」
「…なんでもないよ。さあ、行こう。日本軍に君を届ける。」
そろりと押しのけようとした布は、その硬い質感からおそらくルルーシュの上着なのだろう。目の前で何が起こったか、シン-と鎮まりかえった空間の違和感を-いや、心のどこかでははっきりと確信していた-確めようとして、遮られる。服ごとスザクを抱き上げたルルーシュは静かな声でそれだけを告げて駆け出した。
守られて死なせ、守るために殺した。