「ルルーシュはおれを助けてくれたんだ!殺すなんてゆるさない!!」

Kight−5

結局、騎士を持たないままエリア11の総督として就任したスザクは、まずその地で蜂起の狼煙を上げたテロリストの征圧に向かった。
「ブリタニアは多民族国家でしたからな。小さな集団があちこちで我々に歯向かう。」
前線に設えられた軍本部で、藤堂が作戦を練りながら言った。
「最後の皇帝の血筋がもっともあの時代栄華を極めただけのことです。恐怖政治も度を越せば内部から崩壊する。」
別の者が口を挟んだ。ブリタニアは長らく祖を同じくする者たちによって導かれてきたが、その治世は力で民を押さえつけるもので不満も潜んで日本の勝利はそこにこそあったのだと戦後のアナリストたちは声を揃えていう。
「ブリタニア皇家の、皆が皆抑圧的で非道な行いに手を染めたわけではない。」
スザクの言葉に、一同がはっと押し黙った。
「ルルーシュは別だよ。皆わかっている。」
藤堂が場の空気を和らげるように、スザクにとって懐かしい名前を挙げた。大切な人だ。一度救われ、そして守り、二度目に救われ、そのままいなくなってしまった、大切な。
表情は微塵も動かさず、拳だけを強く握り締めた教え子に、藤堂はブリタニアの皇子だった少年を思い出した。


「スザク様はどこだ!なんとしてもお探し申せ!!」
預けられていたはずのアリエス宮はもぬけの殻で、藤堂は必死の捜索を続けていた。ゲンブ王が第一皇子、なんとしても無事に救出しなければと、ブリタニアの皇帝が刺殺体で発見されたとの報を受けて沸き立つ兵に檄を飛ばしながら指示を叫ぶ。
「藤堂中佐!」
そこへ、二頭の馬が走り出てきた。黒い馬の、背には一人の少年と、
「スザク様ッ!!」
「藤堂先生、ですかっ?」
王子の姿があった。急いで下ろして無事を確認して安堵のため息を吐くと、見る間に拘束されたもう一人の少年に王子が何事か叫びだす。
「やめろ!ルルーシュはおれを助けてくれたんだ!ずっと優しくしてくれた!ルルーシュがいたから、今おれはここにいる!」
何の抵抗もなく地面に押さえつけられた少年が、戸惑いの色の濃い視線を上げた。紫の目がどこか虚ろに瞬く。
「ブリタニアの皇子か…。」
見ると、二頭の馬が今にも暴れだしそうな荒い息を吐いておそらく主なのだろう少年の傍に駆け寄ろうとしている。
藤堂は思案して、ひとまず本国までは拘束のみで連れて行くことにした。
「…ここで殺して構わない。スザク王子の目の届かないところで葬ればいい。」
感情のない声で呟かれた言葉を、聞えない振りをして藤堂はルルーシュを引き立たせた。



結局のところ、ルルーシュは王子たっての願いによりブリタニアの名を捨て王子の傍近くに仕えることになった。スザクはたいそう喜んだが、控えめに頭を下げた元皇子がどれだけの想いを飲み下したのか想像に難くない。聡明な少年で、武道の嗜みこそ人に劣るもののルルーシュは日本に来て五年、スザクが十歳になるまで教師、学友、遊び相手、そして護衛。最後まで実によく務めてくれた。誇り高い亡国の皇子が、それでも思うところはあったはずであると、藤堂はある日ルルーシュに訊ねたことがある。

「スザク様は君を本当に好いておられる。王も王妃も、無論私も、君が遺恨なく枢木の王家に仕えてくれているものと疑ったことはない。ただ…」
「裏切り者と、蔑む同胞の声は耳にしています。ブリ鬼野郎と呼ばれたこともある。」
「それは…」
事実だった。尊いはずの皇子が日本の王子に頭を下げることについて嘆き憤るナンバーズ-ブリタニア人の多くはイレヴンとナンバリングされた-は多く、日本人においては信用のならない名誉日本人として心無い言葉は避けられなかった。ルルーシュがただの一民間人であったならそこまで風当たりは強くなく収まったであろうが、皇族の血はその権威が地に落ちて塵と吹き飛ばされようと消えるものではない。そして彼自身のプライドも、切って捨てることなどできるはずもないのではないか。
「いいんです。些細なことだ。一番怖いのが、守るもののない空虚な腕なのだと、俺は知っていますから。」
ひっそりとルルーシュは笑みを浮べて言った。
俺は子どもの頃、母に守られて母を亡くした。庶出の皇妃で、気位ばかりが高い他の寵后たちにつまらない嫌がらせも受けていて。大きくなったら母を守れるのだと、守るのだと心に決めていたのだけれど。
あのまま母と一緒に死んでしまってもいいと、思っていたんです。でも俺は臆病で。自分で自分の命を終わらせることなんて出来なかった。細々と、何もできないまま生きながらえて。そして出会ったのがスザク様でした。子どもなんてどう接したらいいのかわかりませんでしたが…
そこで浮べた苦笑には自嘲も憎しみの影もなく、ルルーシュはただいとおしそうに遠くを見遣りながら言ったものだ。
「慕ってくれる者の存在は、生きる意味を与えてくれます。大切なものは、生きようと足掻くものに絶対の理由として君臨する。一つこれと定めてしまえば、他はもう些細な雑音でしかなくて、…貫き通さなければ自分すら許せはしない。」


あの時。
不意に暗い色を宿した紫の瞳は、父親の血の色を思い浮かべていたのだろうと思う。ルルーシュの処置において、スザクの証言こそ唯一絶対の判断材料であったから、当人不在のまま必死に言い募る子どもの言葉に大人は皆息を飲んだものだ。
ブリタニアの皇子が、父を殺した。
彼らにとって皇帝とは絶対の存在であり、父と云うよりは臣下以上の威圧と恐れを持って君臨するものなのだと聞いていた。肉親の情よりは怖れで以って粛々と従うものなのだと、それは生まれた時からの定められたルールで、逆らうことなど思いもしないものなのだと。
「彼は自らの意思で自らの王を変え、全てを捧げて散っていった。」
願わくば、その決意が最期まで揺らぐことのなかったように。


お守りします、スザク様。私の生きる意味。

Next