「ここは私が。スザク様を連れてお逃げになってください。」
「だめだルルーシュッ!お前も、お前も一緒にッ、 ルルーシュ!!」
Kight−6
「黒の騎士団。この小規模なグループでよくここまで戦ったものだ。」
藤堂をリーダーに、日本軍を率いるスザク王子の下で戦う四聖剣の一人である朝比奈が言った。散々苦渋を舐めさせられた敵であるが、その声には憎しみ以上に感心の色が濃い。
「リーダーはゼロといったか。ブリタニア皇室の生き残りを担ぎ上げていると言って同士の同調を促しているが、それも本当のことなのか…。」
何十人もいたはずの皇子皇女の一人や二人、生き残っていても不思議はない。だから彼らの求心力のよりどころを否定しきることはできないのだが、当のゼロは仮面を被ったきり素顔を見せようとはしない。ブリタニアの名を冠する一族はみな高貴な紫の瞳を持ち、それだけで己が尊い血筋であることを証明する事は容易いが…
「どうでもいいことだ。この戦いで全て片付く。捕らえてから真偽の程を確めればいいことだ。…それも意味の無いことだけどな。」
皇子の醒めた声音に、四聖剣は皆押し黙った。そう、もうブリタニアであろうと小物のテロリストであろうと彼にとって意味は無い。皇子が唯一心を傾けるブリタニアの血は一人だけ。それも、最期はブリタニアに奪われた。
「テロリストかッ!く、どうやってここを嗅ぎ付けた!」
王妃が思わしくない体調に、静かな場所で静養するよう医師に勧められて山間の枢木の別邸にスザクを連れて訪れていた。別邸と言っても、ブリタニアから徴収した本国とは遠く離れた場所である。王妃がせめて色々な場所を見て回りたいと望んだため、公務の折に訪れた然程反日本の勢力の活動が活発でない、自然ばかりが豊かな地で、目立つほうがよくないと護衛は少数に留めていた先での悲劇であった。
「スザク様ッ」
ルルーシュが十歳になったスザクの背を守るように後ろを走りながら避難経路に連れて出る。藤堂も、王妃皇子ともに信頼の厚い忠実な臣下であったからこの場にも伴われていて、彼は王妃の避難にかかりきりになっていた。それはルルーシュに対する信頼の現われであって、十七歳になったばかりの彼は幼い主を守ろうと各所に爆発物を仕掛けられ、押し入った賊がどこに潜んでいるとも限らない。
「…ここを進めば、王妃様方と合流できるはずです。」
武術はあまり得意ではないし、子どもで守るべき王子にすら劣るかもしれないと落ち込むこともしばしばだったが、粗雑なテロリストの気配くらい辿ることはできる。ルルーシュは神経を限界まで尖らせてこのルートは安全だという結論を導き出した。頭の中では既に把握済みの平面図から、今この入り口を死守すれば王子を無事に逃がすことが出来ると答えが出ている。
「スザク様、」
「いやだ!」
焦りを抑えこんで言い含めようとしたルルーシュに、スザクはぞっとするものを感じて彼が何か言う前に遮った。
「お前は俺の一番大切な人間だ。母上と同じくらい大切だ!ルルーシュ、汝を我、枢木スザクの騎士に任ずる。生涯かけて我に仕えよ!」
いつかこの男を自分のものにしたかった。今とて彼が自分のことしか見ていないことを知っているけれど、彼の信頼と忠誠を正当に受け得るだけの人間になって、それから真に自分のものに。
それは臣下の下からの敬意に根付くものではあってほしくなかったけれど、今は時間がなかった。どうにかして、ルルーシュを繋ぎとめておきたかった。幼い頃から憧れた自分だけの騎士に、彼を以って任ずることが出来たなら。それは間違いなく自分の望みに最も近くそして最も遠い願いであったけれど、四の五の言う暇は、スザクにもわかる不穏な気配にかき消された。
「承知、いたしました。我が主枢木スザク。私ルルーシュは、持てるもの全てをあなたに捧げます。」
ふっと綻ぶように笑ったルルーシュが、次の瞬間暗闇でも光るようなアメジストの瞳を煌めかせて隠し扉を開いた。そして真っ直ぐ走るよう言い、隣に並んで自分も駆け出す。スザクを抱き上げて進むよりも、スザクの子どもとは思えない俊足に任せたほうが速いからだ。
(よかった。一人で行けと言われるかと思った。)
安堵して、足ばかりは人並みに速いルルーシュに負けないよう腕を振る。ぼんやりと明るい先に、藤堂の背の高い影が見えた。
「先生!母上!」
「無事だったか!よかった。しかしもう向こうの出口は回りこまれている。残る道はここ一つだけだ。」
目元を少し和らげただけで、藤堂は渋面を浮べた。
「藤堂中佐。」
ルルーシュが、場違いなほど静かな声で名前を呼んだ。じっと二人が視線を交わすのを見て、スザクの背に冷たい汗が伝う。
「ルルーシュ…?何を考えている?」
「スザク様。あなたは私の誇りです。優しくて強い。でもまだだめだ。」
「ルルーシュっ、」
「人の手は小さいのです。目に見えるもの全てを守ろうとして、初めてたった一人の大切な人を守れる、それが精一杯だ。」
「なら!なら俺はルルーシュを守る、ルルーシュだけをッ」
そっとてのひらを包み込んできたルルーシュのあたたかさに泣きそうになりながら、スザクは必死に言葉を探した。けれど落とすように笑みを零したルルーシュに何も言えなくなる。
「一人よりも二人を、二人よりも三人を取れ。君はまだ小さい。もっと大きくなったら、今よりも多くの者を守れる。」
だから、生きろ。
「ルルーシューッ!!!」
最初で最後と決めた唯一の騎士は、一人で走り去り敵を出迎え---
言葉だけを残して逝ってしまった。
「ゼロ。民を守るためならお前の命など吹き消してくれよう。ルルーシュが俺に教えたことだ。」
「二人を守るためなら、一人の犠牲を厭うんじゃない。」