『スザク、』
何度言っても頼んでも、臣下の礼を崩そうとしないルルーシュだったけれど、本当に稀に名前を呼んでくれることがあった。それは自分が課題をきちんを終わらせたり、正しいと思うことを貫いたときに、不意打ちでぽつりと与えられるもので、母に誉められるよりも父に頭を撫でられるよりも、幼心に嬉しく響いた。でも、そうでなくとも。ルルーシュが自分を呼ぶ声にはいつでも優しさが溢れていて、それが様なり殿下なり不協和音を挟むものであっても不快に思ったことなど一度もなかった。
…一度も、なかったのに。
Kight−8
「スザク様、お茶が入りました。コーヒーがご入用ならまた後ほど。お仕事大部はかどりましたね。さすがでございます。ところでわたくしの処刑はいつになりましょうか。」
「…少し黙っていろ。」
「御意。」
ゼロ=ルルーシュであることは科学的に証明した。検査にかけるまでもなく、スザクには彼がルルーシュであるとの確信があった。こんなに綺麗なアメジストの瞳は、ルルーシュ以外の人間が持ちえるものか。(※フィルターがかかっております)
ゼロの正体を知るのが藤堂と自分だけであることにほっと胸を撫で下ろし、七年前の涙の(※泣いていたのはスザクだけです)別離以前のすべての記憶を失っているらしいルルーシュに戸惑いを覚えながら、スザクは秘密裏に彼を手元に置くことにした。偽名はアラン・スペイサー。偽造戸籍は準備中だ。近々名誉日本人試験が実施されるため、そこで行われる戸籍の大改編に紛れ込ませようという算段だった。一国の王子とは言え、できることには限りがある。ひとまずルルーシュには外科的処置は施さず、外装に手を加えることで一目見てヴィ・ブリタニアの姓を持つ人間だとはわからないようにした。結果として隠されてしまったアメジストの輝きは惜しいが、それ以上にやはり、奪われた彼の記憶がスザクの心に重くのしかかっていた。けれど、それでも。
(記憶は戻るかもしれないし。戻らなくてもルルーシュだし。)
後者の最早本能に突き動かされたような理由に重きを置いて、スザクは、しかし、慇懃無礼なルルーシュの言葉に苛々するのをとめられなかった。
「わざとらしい敬語はやめろと言っただろう!敬ってもいないくせに、『様』とかつけられるのは気色悪い。呼び捨てにしろ。」
「お言葉ですが、命を救っていただいた王子殿下に対してわたくしが敬意を払うのは当然のこと。そしてそれを態度に表してお伝えするのもまた自然。呼び捨てなど、まさかまさか。…まあ、どんな含みを読み取られるかはスザク様次第でございます。」
どこが敬っている態度だ!
叫びだしそうになる自分を抑えて、飄々と肩を竦める(それはもう立派に不敬な態度ではないのか)ルルーシュに言う。
「お前、本当にルルーシュか。」
「殿下がそうおっしゃられるのなら、そうなのでしょう。仲間にもそう呼ばれておりましたが、記憶のない人間一人言い包めることは容易い。」
それもそうだ。しかしスザクの勘と二重螺旋の四文字コードが彼をルルーシュだと認めている。疑う気はさらさらないし、死んでしまったと思っていた彼がこうして生きて目の前にいてくれるというだけで何でもきれいさっぱり流してしまえるような気もする。だが、しかし…
「スザク様、お手が止まっておられますよ。」
そう言ってくすりと笑った顔と、微妙なイントネーション。
「『スザク様』?」
「その呼び方は嫌いだ!」
戻ってきてくれ、俺のルルーシュ!