Memory
長い髪が好きだ。
緩やかに波打ち触れる指に絡みつくような、長い。金に近い色をした妹の髪はとても綺麗だった。貧しい暮らしでドレスの一つも着せてやれなかったが、あの淡い色の美しい髪だけは大切に梳いてやったものだ。母の形見の櫛を挿してはにかむように微笑む少女の顔。
「――…スザクの髪を伸ばしたらどうなるかな」
似合わないだろう。
彼は精悍で女性的なところのない男だ。顔立ちは甘く整っていても女の綾を見つけることは難しい。でも髪はふわふわとやわらかい。色味も薄い。
「綺麗だろうな。伸ばしたら」
髪は。
今度頼んでみようか。視線を絡めて一房手に取りそっとキスを落とせるような、そんな長さまで伸ばしてくれないかと。すぐに切ってしまって構わない。切ったその一房を自分にくれないかと。
遺して、くれないかと。
「クロヴィス兄上を呼んで、肖像画を描いてもらおう」
絵心というにはあまりに長じた特技を持つあの兄なら、きっとスザクも生きているように見えるはずだ。そしてその絵を、ロケットにして。髪を仕込んで。
故人を偲ぶ縁にするのだ。三つ目の宝物。
シャラリ、と鎖が音を立てた。いつも首に下げておく今は二つのそれ。服を着たままでは見えないが、取り払ったときにスザクの視線がいつも少しの間だけ注がれる。まったく同じ意匠の少し大きめなペンダントは二つも付けるのは不自然に映るのだ。見たいのだろうなと思う。肖像画がはめ込まれていることは一見してわかる。でも見せろと言われたことはない。そのときだけ、そっと自分の手で外すのを黙って見ているだけ。
「言ってくれたら、俺も切り出すのに迷いは無いのに」
スザクは気づいているだろうか。
ロケットの袷の半面は糸を編んで拵えたものじゃない。編みこまれているのは。
長い髪。
俺に遺して、くれませんか。
“memory”
...something that you remember from the past about a person, place, or experience
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