以前上げていた小話と時期がずれておりますが、連載を開始するときに調整しますのでネタとして読んでやってくださいませ(平伏)。
【母親シリーズで、ママとお風呂】
(オリジナルキャラクタであほなことやって申し訳ありません!)






たまにはこんなわがままも


「それじゃあ行ってきます。ルルーシュ、あんまりわがまま言っちゃだめだよ?」
「なんで私が息子にわがままを言わなければならないんだ?」
「はいはい。母さんのことよろしくね。」

出掛けの父さんの言葉に、母さんだけでなく僕も首を傾げたのだ。もう足元も見えないくらいおなかが大きくなって、来月には家族が一人増える予定の頃である。家事のほとんどを引き受けているがすまなそうに謝る母さんに、とてもじゃないが任せて置けない。あっちへふらふらこっちへふらふら歩き回るのもだめ!と、心配から言い聞かせはするが(だって母はどうも運動神経に難があるのだ。足元が覚束ない状態で階段を昇らせるのも屈ませるのも背筋が冷える。あんなにおなかが大きくなるとは思わなかった。ちゃんと元のスレンダーな体型に戻るのか心ひそかに心配している。)運動不足もよくはないので自分か父の目の届くところであればちょこまかと動き回る母さんは別にわがままではないと思う。日に十五分ほどの散歩に付き合って、はじめの内こそ固まってしまうような出来事にも遭遇したが、今はご近所さんはみな微笑ましく見守ってくれているのだ。父さんはいったい何を思ってああ言ったのだろう。
僕はこのときあの言葉の意味を身を以って痛感することになろうとは思いもしなかったのだ。




*******



「ん?母さんなにしてるの?」
その日、父さんが出勤して次の日のことである。まだ季節は春になるかならないか、空の上は荒れることが多いようで便が乱れ、スタンバイ稼動を掛けられて忙しくしている父さんは明日戻りの予定だった。コーヒーでも飲もうとキッチンに向かう途中で母さんがバスタオルを持って歩いているのに出くわした。
「ああ。お風呂に入ろうと思って。」
「なっ、だめだよ絶対だめ!あぶないでしょ!」
「えー、やだ。ぜったい入る。だって昨日も入っていないんだぞ?気持ち悪くてしょうがない。」
「だめと言ったらだめなんだ。すべったりしたらどうするの。身体だって自分じゃ洗えないだろ。髪も。」
顔だって毎朝苦労して洗っているのだ。お風呂なんて、いくらすべりにくく作ってあるといっても母さんである。濡れた床の上に載せるなんてとんでもない。すべらなくとももたもた時間をかけて風邪でも引いたら大変だ。だから特に動くのがしんどい様子の母さんは、ここのところ父さんが風呂に入れてやっていた。(頼まれなくとも一緒に入ろうとする万年いちゃいちゃばかっぷるな二人ではあるが、いくらなんでも毎日と云うわけにも行かないし父がいない日は母もがんばって一人で済ませていたのだ。二日にいっぺんほどで我慢もしていた。)頭も背中もたぶん髪も洗ってやっていたのだろう。明日になれば帰ってくるのだからそれまで待てと、言ったのだがうるうると見つめられてたじろいだ。父さんに似てきていないか。
「だって…それじゃあ二日もお風呂に入らないでスザクと一緒…やだ。今日入るんだもん。」
「入るんだもんって、母さん、」
なんだこれは。恥らう乙女か。わがままってこれか。父さんわかっていたな。
「父さんがそんなこと気にするはずないでしょうが。僕がなんで止めなかったって怒られちゃうよ。夏でもないんだし我慢して。お湯でタオル絞ってあげるからそれで拭けるところは拭いて、」
「頭がきもちわるい、背中もー。そうだ。アズマが一緒に入ってくれればいいんじゃないか。ね、お願い。」

なんだこれは。

枢木家の長男はくらりと眩暈を感じて壁にもたれた。十八にもなって母親と一緒に風呂に入るだ?冗談にしても笑えない。中年の母親の裸なぞ見たくもないと一笑に付してしまえればどれだけ楽だろう。おばさんのヌードなんて見たくもないぜと、口も悪く流してしまうだろう友人たちを思い浮かべて恨めしくなる。だってこの人は自分と三つしか年の離れていない妙齢と云うにも些か躊躇いの残るほどの年齢で、十人が十人中美女と答えるだろう女性なのだ。彼女もおらず年頃の女の子の下着姿も見たことのない健康な青少年にとって、いくらおなかが膨らんで通常の姿でないにしてもその刺激は強すぎる。
一緒にお風呂?ありえない。

「…だめ、だよ。おしぼりでがまんして。」
「やだ。…やだよぅ。スザクに二日もお風呂に入ってないからだを見られるなんてはずかしいよぅ…」
息子ならいいんかいとツッコミを入れる余裕もなかった。三つ違いの親子ですてへ☆のとんでも状態にいち早く順応したのは母のほうだった。当たり前と言えば当たり前で、顔も声も覚えていないような自分と違い、母は自分の腹を痛めて生んだ記憶がある。息子はいくら年が近くとも息子でしかなく、しかし母親は母親でしかないと割り切ることの難しさを日々苦労しながら辛うじての解決に持ち込んでいる息子にとって、上目遣いでのおねだりにも首を縦に振るわけにはいかなかった。
「…だめ。」
「おねがい。」
「……だめったらだめ、」
「あずまぁ…」
「…、」
「ねぇ…」
「ああもうわかったよ!」
勝てませんでした。




*******



「…じゃあ、髪を濡らすから、目を閉じて。」

ぽちゃんと水音のするバスルームで、息子は可能な限り母の裸を目に入れないよう最大限の努力をしていた。シャワーヘッドの間際に手をやって手探りで細い黒髪に水を含ませる。シャンプーで泡立ててやりながら父さん恨むぞと声に出せない悪態をついては細い首筋に目がいって慌てて目を瞑る。
「っ、かゆいところとかない?」
「ない。洗うの上手だなぁ。スザクも今はすごくうまいんだけど、最初はちょっと乱暴で、」
機嫌よく昔話をしている母の言葉はほとんど耳をすり抜けていた。この次は背中の難関が待っている。そして前の方は自分で洗えるだろうと考えていたがおそらく足は無理だろう。長くてすんなり伸びた白い足は子の欲目を差し引いても鑑賞に耐え得る綺麗なものであるがそれは今はありがたくない。曲げてみてもうまく洗えないだろうふくらはぎは、自分が洗ってやるしかないのだと思うとこんなところで目を瞑っている場合じゃない。
黙々とコンディショナーまで終えたところで、スポンジを取って深呼吸をする。
「じゃあ、背中洗うからね。」
「ありがとう。濡れてないか?二人でも入れる風呂なんだしいっしょに入ればいいのに。」
服を着て裾をまくっただけの自分に母が言った。冗談じゃない。まさかそこまで疚しい窮地には意地でも陥るつもりはないし、こっそり安堵したことには自分も人並みの理性はあるようだったが、見た上に見られるのは限界を超えていた。父にもなんとなくすまなく思う。
「…はい、と。じゃあ前で手の届くところは自分で洗って。」
さすがに全身年頃の息子に洗わせるほど酷なことをさせるつもりはないようで、母は大人しくこしこしとスポンジを使っている。ほっとしながらそれを見守り、形のよい足にまたスポンジを滑らせ、浸かるのはいいからと言うのにありがたく思いながら身体を拭くのを手伝って、ついでに髪も乾かしてやって部屋まで上機嫌な母を送り届け…息子はどっと疲労を感じて座り込んだ。




*******



「おかえり。」
スザクは帰ってくるなり据わった目を向けてくる息子に、何があったのかを悟って苦笑した。
「えーと、大丈夫だった?」
「それは何に対して言ってるわけ。場合によっては父さんでも侮辱罪で訴えるよ。」
「こわいなぁ。転ばなかったかなと、思ったんだよ。」
「大丈夫デシタヨ。なんであの人あんなに綺麗好きなの。それ以上に夫婦の間で恥らうのは卒業してください。」
「やぁ、それはいつでも新鮮な気持ちでいることが家庭円満の秘訣、」
「父さんなんかもっとダサくてかっこ悪い中年のオヤジになっちゃえばいいんだ。」
「それは今そうじゃないって言ってくれているんだよねぇ。嬉しいな!」
「だーまーれー。ちょっと試しに、履いた靴下でもその辺に投げておいてくれない。腹巻でも捲いてみてよ。下ズボンなんてものも用意したからほら。レッツ・OYAZI。」

たった一晩で溜まったらしい息子のフラストレーションを解消するのに苦労しました。


fin.


ちなみに『らくだのももひき』なんてものを穿かせて見たら、ママが「…クラシック・パンツなんてどうかな。」と悪乗りしたので息子の作戦は失敗に終わりましたよ。

…そろそろサイトに『変態』の看板を掲げるべきかもしれない。(土下座)





 


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