僕とルルーシュはいつも一緒にいるわけではないのですが、どうも周りから見るととても仲が良いそうです。喜ばしいことなので軽く惚気てみようと思います。
(枢木スザクの回想、ノット妄想)



日常にノイズ


◆避難訓練
が、あった。建物にして三階、四階の高さからサザーランドのモックアップが設置してあり、そこから伸びるエスケープスライドで脱出するまでの、年に一回のFAのみんなとの合同訓練だ。二十人やそこらのパイロットと同じくらいのFAが訓練センターで行う。ルルーシュも一緒だった。
「リヴァル!なんだ、同期って一緒になるんだな。」
「あんまりないらしいぜ?でもまずいよな、俺たちが一番下っ端だ。」
僕はルルーシュと同じ車で家を出てハネダの訓練センターに出勤した。この間のことを反省しているようで(たぶん。)、出掛けに二人して車のキーを取りかけて目が合ったまま固まってしまった。今日は一日がかりの訓練で、終了後はオフにしてある。一緒に出て一緒に帰っても問題はない。

「…えーと、」
「真っ直ぐ戻る?」
「うん、」
「その、僕は構わないんだけど、」
「じゃあお言葉に甘えて…」

なんとも微妙なやり取りだし通勤に車は欠かせないのだから、ここで僕が一回ルルーシュの運転回数を減らしたとしてあまり意味はないのだ。だが僕は目の届く限りあの怪しい運転の理由もしくは原因を明らかにするまでは、ルルーシュに一人で車に乗らせたくなかったのだ。たとえ昼間は完璧な安全運転だったとしてもだ。それはルルーシュにも伝わったらしい。大人しく助手席に収まってガソリン車は音が静かでいいなぁとぽやぽや独り言を言っていた。(ギア操作もクラッチももう忘れちゃったよと云うのは聞かなかったことにする。ギャップに悩まされてしまいそうだからだ。)
そして到着した訓練センターで、年配のキャプテンと僕とリヴァルよりも先輩のコーパイ組み、そしてぽつんとルルーシュという取り合わせで、つまり『騒ぐ役』は僕とリヴァルに回ってくるということだった。これは一番下っ端、年の若いコーパイがすることになっている。
「面倒だ…」
「滅多に騒げないんだから楽しもうよ。」
「うん、枢木優等生なー。」
ぼやくリヴァルに茶々を入れるルルーシュ。キャプテン仲間と先輩機長には挨拶を終えてやって来た彼はえらいえらいと頭を撫でてくるのでさすがに恥ずかしくて首を振る。
「他人事だと思ってますねっ?キャプテンだって騒ぎ役やらされたことあるでしょう!」
「『助けて〜火事だぁ〜』ってね。実際の現場で俺たちが騒ぐわけにはいかないんだから。」
「シミュレーターだけで十分っすよ…。トラブルはごめんだ!」
リヴァルが溜め息をつきながら言った。確かに実際、避難訓練の経験など役立てる機会にはお目にかかりたくないのが普通だろう。優等生と揶揄された僕でもそう思う。この人は人生をかけた大ピンチに自分と同じ年で遭遇してしまったんだなと思うと、ルルーシュの細身の身体が妙に大きく見えた。見えたのだが、何となく顔色が悪いのも見て取れた。
「キャプテン?どうかしました?」
「いや…今回サザーランドなんだなーと思ってさ…」
「?」
「あ、もしかして高いところ苦手ですか?」
僕が何のことかわからずにいると、リヴァルが何かに気づいたように言った。なるほど。
モックアップの高さは現物とサイズをあわせている。最近よく乗っているグロースターよりも建物一階分は高いところから滑り降りなければならないのが、今回使用する大型のサザーランドだった。
「高いところは好きだよ。そこから降りてくるのが苦手なんだ。カルデモンド、お前直後に立っていられる?」
スライドから抜けたすぐ後のことを言っているのだろう。確かに少しふらつくこともあるかもしれない。
「俺はそうっすねぇ…まあ転びはしないと思います。楽しいとは思いませんけどね。」
「そうか…。」
「キャプテーン、なんで僕には聞いてくれないんですか。」
僕はリヴァルとルルーシュの二人で会話を進められて面白くなかった。何となく、意図的にルルーシュが水を向けないようにしている気がしたからだ。
「だって好きそうだもんな。絶叫系をはしごするタイプ。違う?」
「あたり!そうなんですよ、こいつジェットコースターとか大好きなんです。」
「こらリヴァル、勝手に答えるなよ。」
「やっぱりそうかぁ。このお子ちゃまめ。俺がすべってるところは見るんじゃないぞ。どうせよろよろの中年だからな。」
ルルーシュはそう言って自分で傷ついてしまったようだった。かわいそうにも思うが中年どころか下手をしたら二十代にも見える容姿を保っているのでかわいらしいとも思ってしまう(そもそも三十代は中年と云うのか?)。もう病気かもしれないが、僕はルルーシュの顔がとても好きだ。男から見てもカッコイイのに決して男くさくはない。童顔を自覚しているから大人びた輪郭は密かに羨ましいのだ。
「心配しないで下さい!ちゃんと受け止めてあげますから。」
見るなってのー!と叫ぶルルーシュとは一度別れて、滑る順番は僕の方が先だった。
スライドの降り口から少し離れて見守っていると、非常口から一番はなれたところに座っていたルルーシュが最後に降りてきた。
(大丈夫、…じゃないな。)
「っと、立てます?」
「……おまえはおれのはなしをきいていなかったのか…。」

ルルーシュには申し訳ないが、よろりとバランスを崩した身体を離す訳には行かなかった。FAの女の子たちがひそひそ(きゃーきゃー?)話しているのを背中に聞きながら乗客の避難を手伝う要領で移動させる。ちょっといい気分だった。(その日の帰りはキーを奪われて後部座席に押し込まれてしまった。なんだ、マニュアルも普通にうまいじゃないか。)




*******



◆やらしくないのが逆に気になる
乗務の間に空き時間ができてしまったらしいルルーシュが、事務所でFAの子たちとおしゃべりをしていた。これは珍しい光景ではない。ルルーシュは話が面白いのとまだ若いのとで話しかけやすく、ルックスも手伝ってコーパイでなくとも人気が高いのだ。そしてその時は、そういう話題のようだった。
「キャプテンってほんとに彼女いないんですか?立候補してもいいですか?」
「あ、ずるい私も!コックピットのサービス、特別にしてあげますよ♪」
「それって相棒(コパイ)も込みだよね?俺うらまれちゃうだろー」
「枢木さんですか〜?キャプテンってあの人と仲良いですよねぇ。あ、ほら噂をすれば!」
少し離れたところで話を聞いていたのだが見つかってしまった。仕方なく出て行くと容赦のない追及が待っているのは予想したとおりだった。
「この間の訓練の時に一緒に帰っているの見ましたよ〜夕食でも一緒にしたんですか?」
「あーと、あれは」
「枢木にお持ち帰りされちゃったんだ。こいつ手が早いんだよ。」
二人で住んでいるということは先輩や仲の良い同僚などには言うともなく知れてしまっていることではあるのだが、言いふらすことでもない。自宅に勤務予定変更の連絡が入ることもあるから会社には届けているが、特にルルーシュが、申し訳なく思うのか(こちらとしては現在ヨコシマな思いで一緒にいるのだから問題などあるはずないのであるが)滅多に口を割ろうとはしなかった。だから僕はなんと答えたらよいものか迷ってしまって言いあぐねていると、そのルルーシュがへらりと軽口で返した。
「(なんだ、そっちでかわしていいわけね。了解りょうかい。)そんなぁ、僕はちゃんと『いいですか』って訊いたんですよ?」
「訊いただけで聞かなかったくせにスザきゅんひどい!」
「あはは、いい男同士がくっつかないでくださいよぉ。」
(※こういう場面だけを切り取るとそういう話ばかりをしているように思えるかもしれませんが、実際3Sだとかそうでないとか…というのは言い訳にしてもそっちに持っていかないとルルの過去が出てこないのでどうかご容赦くださいませ…平伏)
彼女たちはころころと漫才とも言えないような僕とルルーシュのやり取りに乗ってくれている。時には無闇に隠そうとせず笑いのネタにした方が勘繰りを回避することが出来るわけで、心得てはいたのだがよし今度からそうしよう。ルルーシュも特に硬いわけでもないらしい。(女性の前では気を使うのかと思っていたのだ。要らない心配だった。)
「キャプテ〜ン、そんながたいよくて筋肉ばっかりの枢木さんより私の方が抱き心地いいですよぅ?」
「うーん、でもこの遠慮しなくてもいい硬さがいいんだぞー?」
「へ、」
するりとルルーシュが腕を伸ばして絡み付いてきた。後ろから抱きつかれて胸の辺りでルルーシュの白い腕が交差している。わざとだろうがぎりぎりと締め上げられて、これは確かに女性ならきついかもしれないと思う強さだった。自分ならこの倍はいくなぁと思いながら違和感も感じる。長い指が心臓の上あたりを彷徨ったような気がした。ワイシャツ越しに、それはいやらしさの欠片もなかったことにおやと思う。
(いや、別にセクハラされてもなんだかなというキモチではあるんだけど、)
軽い笑いが困惑に変わる前にまたするりと離れていく。
「だいじょーぶでーす。私鍛えているからキャプテンの細腕なんてへっちゃらでーす!」
「そしたらセクハラで訴えるんだろ、その手には乗らないよ。」
そんなぁ、と、屈託のないがやがやしたやり取りが聞える。昨日は休みだったからルルーシュも元気だなと思いながら、お、ショウアップに間に合わない!と足早にその場を去ってゆくルルーシュの背を見送った。


「…今度は僕がやってみよっかな。」




*******



◆もらいもの
空港の近くに住んでいるキャプテンの中に、自家製野菜の栽培を趣味にしている人がいる。藤堂さんなのだが、たまに大きなビニール袋や紙袋に泥つきの野菜を入れて事務所のみんなに配ってくれることがあるのだ。
運がいいなと思いながら(滅多にそういうチャンスに出くわさない。ルルーシュと一緒になるのと同じくらいの確率だと推測している。)、これまた今日は珍しく、大人しくスタンバイルームで勉強していたルルーシュも傍にいた。僕はフライトから戻ってきたばかりだった。
ルルーシュは藤堂さんと仲がいい。同期だというからカリフォルニアでの訓練も一緒に受けたわけで、お互い一朝一夕じゃ育たない親近感も抱いているだろう。黙々とマニュアルに向かっていたルルーシュだが、知らん振りをするつもりは当然ながらないようだった。不自然でもある。皆に混じって近づいてきたルルーシュの様子を、僕は横目で窺った。
「いつもすごいですねぇ。ご自宅の分はちゃんと残っているんですか?」
くすくすと笑いながら、ルルーシュは藤堂さんに対しては敬語で話す。同期とは言っても年が離れているのだ。自衛官からこっちに移って来たという藤堂キャプテンはルルーシュよりも十ばかり年かさで、世話になったと懐かしむように話していたのを思い出す。年の近い(ひょっとしたら同い年かもしれない)キャプテンもいるにはいるらしいが、これがまた一緒の便になる機会に恵まれない。ベースが違うのだから当然と言えば当然なのだが、なにかしら話を聞く機会はないものかと窺っている。
「大丈夫だよ。今年は大根と白菜の出来がよくてね。青物の盛りは過ぎてしまったんだが。」
「あ、藤堂キャプテンもランペルージキャプテンの好物知ってるんですね。この人青虫なんですから。」
「おま、よりによって虫にたとえるなよ。」
「だっておひたしのストックを欠かさないとか、今時珍しい独身男がいたもんだと、」
「うーるーさーいー。食べるくせに文句を言うなっての。今日の当番お前な。問答無用で鍋に決定。」
「拗ねないで下さいよ、エビ入れてあげますからね。」
「剥いてくれる?」
「はいはい、なんなら食べさせて差し上げますよ。」
「…君たちの会話はどこまでが本当なんだね?」
「「ご想像にお任せします。」」
声があったのには少し驚いた。藤堂さんも僅かに目を剥く。だがすぐに人情家らしく目元を和らげて、大きな白菜を切り分けるために包丁を取り出した。
そこで、僕はさりげなくルルーシュに注意を向けた。
特におかしな様子はない。
「それじゃあ、井上さんとこと半分こしましょうか。」
「そうですね。一個まるまる頂いても食べ切れませんから。」
藤堂さんに目配せしても首を傾げるばかりだった。以前こういうことがあったのだそうだ。


「ルルーシュ君、今年最初の大根だよ。そう悪くなるものでもないから一本持っていくといい。多すぎるようなら切ってあげよう、 どうかしたか?」
「…いえ、ありがとうございます。その、まだ冷蔵庫にあったような、枢木に訊いてみないと…」
「そうか?それじゃあ、こっちの春菊ならすぐに食べられるだろうから---」


刃物については、もう平気なのだと思っていた。実際キッチンに立つこともあるのだ。その日握っていたのはルルーシュだって信頼している藤堂キャプテンで。でもかすかだが顔色をなくしたようなルルーシュを見て、キャプテンは黙って取り出した包丁をしまってくれたそうだ。
そして今、平気そうな様子で白菜はこう切るんですよなんて、居合わせたベテランFAの井上さんにレクチャーなんてしているのだ。
「平気、なんですよね…?」
「場合によるのかもしれん。」




その日の夕飯は海鮮鍋でした。

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