静かな昔語りは時に穏やかに遡り、時に痛みを湛えて横たわる。
垣間見えた彼の過去は不思議と言葉の外まで目に浮かぶようで、スザクは黙って目蓋を下ろした。

吐露


血の色をした酒と胃液ばかりを吐き出してルルーシュはふらふらとレストランを後にした。払っておいてと紙幣を渡されるがそれは様子を察したらしい藤堂たちが適当に片付けてくれるだろう。スザクはわし掴んできたコートを羽織らせてホテルまでのタクシーを拾った。
「ルルーシュ、明日の予定は?」
「…こっちの昼に発つ。それまで休めば大丈夫だ。」
シートに深く腰を沈めて息をつく様子は、かすかに震える指先に血の気がないのと相俟って病院に連れてゆこうかどうか迷うが、現地でこの忙しい季節に医者にかかるよりもホテルで休ませたほうがいいと判断して黙って頷く。熱はないようだった。寝不足なのだと本人が言うのはきっと正しい。

「悪い、少し飲みすぎて、」
「強引に飲ませるほうが悪いんです。玉城は僕がしっかり小言しておきますからあなたはもうあたたかくして休んでください。」
もう一度ごめんと呟いてルルーシュは大人しくベッドに入った。少し室温が低いようだったから暖房を入れる。思案してスザクはグラスに沸かした湯を汲んでサイドテーブルの上に置いた。乾燥した部屋で眠ると喉を痛める。今回はキャプテンとコパイの部屋割りに差が出たなと、何とはなしに目に付いた間取りと家具のグレードを見て考える。会社は皆同等の部屋を押さえるようにしているが、一般客も使用するホテルでそれが必ずしも通るわけではなく差が出た場合はコパイが低級を割り振られる。それは自然なことだと思うしステイ先であまり出歩かないルルーシュには、よかった。
「…スザク、」
ハッと我に帰った。
いつまでも部屋にいたらゆっくり休めないだろう。すみませんと、急いで退室する用意をしてもう一度ルルーシュの顔色を確めようと覗き込めば白かった頬にまた赤味が増していた。眉を顰める。
「キャプテン、やっぱり熱、」
「すこし、昔の話をしていいか…」


「 むりを、しないで」
「…迷惑だよな、悪い。もう戻ってくれて」
「いえ。…フロントにブランケットと体温計を頼みます。今日は、傍にいます。」

躊躇ったのだ。休ませたほうがいい。告白なんてさせちゃいけない。
けれど。不安に揺れた、請うような瞳を見て。
一人になんて、しておけなかった。




「――…俺の両親は、俺が15になったばかりの冬、ちょうどあさってが命日で。でも二人は別々の事故で亡くなっているんだ。 っ、」
38.2。熱冷ましも飲ませたかったが見合わせる。まだ上りそうだったが今は寒さにふるりと震えるので迷った。白湯も飲ませたし電気毛布も頼むべきだだったかもしれないが――
「ルルーシュ、少しだけ詰めて」
ぼんやりと言われるままに身体をずらしたその横に、上着を脱いで滑り込む。抗議の声が上らないのは、一瞬冷えた別の体温に身を竦ませながらも遅れて着いてくる人肌のぬくもりに安堵したからだろう。躊躇いがちに、おそらく無意識にだろう身を寄せられて、スザクは黙って腕を伸ばした。
寒さに震えていた。少しの距離に怯えていた。見下ろしちゃいけない。囁く声でも届くように。

母は、俺が…――




懺悔が二人きりの夜にゆらりと渡る。


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