この日に訪れるだろう人物をナナリーはよく知っていた。二日はやい。一日だけしかずらさない場合は鉢合わせする可能性があることを、その人は知っていたからだ。
「お元気でしたか、C.C.さん。」
両親の墓の前で、緑の髪が風にたなびく。

意図した擦れ違い



ナナリーにとって兄は頼れる人だった。二人ともが子どものだった頃から絶対的に大人でそしてナナリーを愛してくれる人だった。それは今も変わらない。妹として、兄の懐の最も深くにあるのは自分だと知っている、そう、わかっている。目の前にいる女性は兄にとって女であることを理解している。理解していた。
「お兄様に会われましたか?」
「いいや。だが見掛けはした。元気そうじゃないか。昔ほど無茶はしていないのだろう?」
両親の墓に手を合わせて近くの喫茶店に入った。オープン・カフェが窓の外に見える。ここへ来るのはいつも冬だから一度も試したことはない。もう少しあたたかければ黄色く色づく銀杏を眺めながら楽しいひと時だったに違いない。
「でももう若くもないんですから。以前あった時には時差にまいってとんちんかんなことを言うんですよ。気づかないふりをしましたが、目を光らせてくれる方がいらっしゃらなかったら問答無用で連れ帰っていました。」
くすくすと笑いながらのナナリーの言葉には棘があった。兄に対するそれは気遣いから来る不満であって、チェックに引っかかるほど無理に気づかず飛んでいたコパイ時代のことを思い出したせいもあるかもしれない。どちらにしろ、しばらくお待ちくださいと言われたマスター手製のブレンドティーをすぐさま注いで口に運んでいる相方に含む気持ちはなかった。
「あの男が出会って一年の他人と一緒に暮らしているとはな。眠りこけている間に嗜好が変わったか。」
「四年も音沙汰のなかった女性と同じベッドで休んでいるらしいと知ったときには、私とても驚いたのですよ。」
「安心しろ。私が潜り込んだんだ。」
「それならそれで心配です。私、お兄様のことは世界で一番素敵な男の人だと思っているのですよ。」
ベリーのタルトは甘みが足りないような気がした。もう少し砂糖を入れてもよいと思う。帰ったら味を頼りに作ってみようと考えながらゆっくりと咀嚼する。
「旦那が哀れだな。」
「あの人はお兄様に会うときはネクタイを選ぶのに何分も無駄にするんです。あのランペルージ機長に会うのだからと。私、おかしくて笑いを堪えるのに大変なんです。」
C.C.の表情を窺えば意図したとおりに呆れた顔をしていた。
「プライドは高い。責任感も強すぎる。だがあいつは朴念仁で察しも悪い甲斐性なしだぞ。女から見たら扱いづらい男だ。」
「でももてますわよ。たぶん。最初は優しい人って魅力的ですもの。」
「お前はあいつの妹だろうが。貶したいのか自慢したいのかどちらかにしろ。」
C.C.は溜め息を隠すように選んだチーズケーキを口に運んだ。チーズが好きなのかピザが好きなのかわからないと兄がぼやいていたのを思い出す。こざっぱりした兄の部屋に不似合いなぬいぐるみを見つけたときに、自分はどんな顔をしていたのだろうか。
「C.C.さんはもっと厳しく言ってやって構わないのですよ。少なくとも私はそう思っているんです。」
「六年前に終わっているよ。あいつは誠実だった。振ったのは私の方だぞ。」

沈黙の合間にザアッと風が吹いた。木枯らしに舞い落ちた葉が吹きすさぶ。これは演出過多じゃありませんことと胸の中で呟いて、ナナリーは向かいの席に座る女に言った。
「『物語』にしてくださって構いません。一人芝居は好きですの。お砂糖のきいたラブストーリーを楽しみたい気分なのですわ。」


仕方がないなと、仮面を嬉々としてかぶる女性は目を細めた。

昔語りが始まる。


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