「あぁ、どっかにいい男いないかしらねぇ。」
「出会い少ないもんねぇ…。パイロットは大抵結婚してるか彼女持ち。」
「あ、ダッシュ400の枢木コーパイは?あの人はかっこいいわよね。最近は付き合い悪いみたいだけど。」
「え、結婚なさっているんじゃないんですか?いつもお誘いしてもさっさと帰っちゃうし、」
「若いけどバツイチみたいよ。うちに来る前。」
「えぇ!?じゃあ望みありなんですか?私がんばっちゃおっかなぁ。」
「抜け駆けはなしよぅ!ああ、でも一緒のフライトにならないとそうチャンスは巡ってこないかぁ…。 あ、ランペルージキャプテン!お疲れ様でした!」
「…お疲れ。」
「あの人もいい男よね。」
「お疲れかしら?なんだか元気なさそうだったけど。」
「私は枢木さんもいいけどキャプテンの方が好みだわ。」
二人で空の下6
「正直あんまり痛みなんて感じていなかったんだ。」
ぽつりとルルーシュは話し始めた。まだ暑さも引けやらぬ昼下がり、珍しくオフが重なり、戻ってきたばかりのスザクはまな板の上でトマトと大葉を刻みながらルルーシュの言葉に耳を傾けていた。今日は冷製パスタでいいだろう。仕込みをしている時間がないし、それくらいは普段ルルーシュもしておいてくれるけれどここのところ忙しくて二人とも家を空けている時間が多かった。冷蔵庫の中にあったのは辛うじて夏野菜と香味野菜の類だけで。
「ただ血が流れ出ていくのが熱いと、感じていただけで。必死だったし。」
「そうでしょうね。あなたしかいなかったんですから。」
「うん。それにほら、俺コックピットは平気だろ。現場なのにさ。」
「住み着いちゃうくらい大好きだよね。隣でナイフとフォークで食事されたときはどうしてるの。」
パイロットはコックピットで食事を摂ることもあるわけで。
「見ないようにしていたけど。真横だから見えないし…そうじゃなくてさ、今ナイフとか見て落ち着かなくなるのは、また…いや。あのなスザク、もう平気なんだよ。」
言いかけて首を振ったルルーシュが不意に明るい声で顔を上げた。
「何が?」
「それさ、」
立ち上がってキッチンに入ってくる。
「ちょ、まだ切ってますよ、」
「うん。でも、ほら。」
平気だからと、慌てて隠そうとした包丁を握っていた手に手を、そっと添えられて心臓が撥ねた。どちらに?たぶん両方だけれど…
「…ほんとだ。」
震えてもいない。声も落ち着いている。平気だというのは、本当なのだろう。
「ごめんな。今までずっと甘えていて。」
「甘えてくれていたんですか。」
「うん。」
「…こんな時に素直にならなくていいよ。でもどうせならずっとそのまま、」
「お前、結婚していたんだって?」
素直に甘えていてくれればよかったのに。
「…どこでそれを?」
「どこでも。うちの女の子たちの声って、訓練されてるからよく通る。」
「離婚してますよ。もう五年も前の話だ。」
「うん、でもさ。最近付き合い悪いって。お前、この一年以上ずっと俺のために時間使ってくれてただろ。」
「別に、別にルルーシュのために断っていたわけじゃ、」
「そう?それでも、もう恩義なんて感じなくていいんだぞ。十分返してもらったんだ。」
「なんの…」
「初めて会ってからもう二年近くか。」
ルルーシュがすっと手を下ろして離れていく。いいのに、そのままで。隣にいてくれていいのに。
「空の上からカウントしてるんだ。恩義なんて、ぼくそんな律儀な性格じゃないよ。」
「あはは。几帳面とはいえないよな。でももういいんだ。男二人が一つ屋根の下なんてぞっとしない。無理しなくていいんだ。俺はもう大丈夫だから。いつまでいてくれてもいいけど、出て行くときに相談はいらないよ。」
これは、遠慮なのか遠回しの拒絶なのか。
ルルーシュが何を思って同居関係の解消を言い出したのか分からなかった。
もてもてスザクさんを独り占めしているのが申し訳なくなったんです。